表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/147

第二十七、二話 九戸

※二千十六年十月一日、誤字修正


[連続投稿 4回の2つ目]

九戸城の一室に、主だった家臣と共に、ひざを突き合わせて、政実、実親は話し合いを行った。


「どうするのか」

「家国、お主はどう思う」

「上方の者たちは、我らを馬鹿にしておるのか、先祖代々の土地を取り上げ、当てがう領地は新たに切り開けだと、ふざけているにもほどがある。あの者たちを追い払い奥州武士の意地を見せるべきではないか」

「民も家臣も道ずれにしてか」

「応とも。我らは耐え忍んできた。信直たちが南部家を乗っ取っても、我慢してきた。それがこのような結末とは納得がいかぬ。どうせ、信直たちの差し金ではないのか」

「……それはない」

「ないだと」

「ああ、信直に付けている間者からは、秀吉に我々の事は一言も言っていない。言えば、家中を納める能力なしとして、所領没収や減らされる恐れがあるからな。それと、三戸にいる信愛達に、信直はこの件を伝えていて、我らに対する監視を行うことになったそうだ」「それは、俺たちが豊臣に臣従して、此処を離れたら、直ぐに押さえる為か」

「だろうな」

「残った者たちが虐げられる可能性がある。いや、奴らの事だ、田畑を取り上げ、追い出すんじゃないか」

「信愛は考えないだろうが、信直ならやりかねない。俺たち兄弟に恨みを晴らせないから、領民たちに晴らすかもしれん」

「ちっ、残る残らないにしても、やりあう必要があるってことか」


七戸家国の話をしながら、政実は考えた。九戸の民をすべて、連れて行く事は可能か。略奪により土地を追い出された訳でもなく、愛着のある土地をわざわざ捨てる者たちが居るだろうか。まして、年かさ者たちは、移動に耐えることが出来るのだろうか。

かといって、この地に残ったとしても、信直との対立は避けることできない事も分かっていた。秀吉に臣従した信直に逆らうということは、豊臣家と敵対する事になり、九戸の地を焦土と化すことは想像できた。信直もこちらを認めるとは到底思えない。親交のある為信が協力する可能性は、秀吉に臣従し津軽の地の所有を認められた時点で消滅している。為信に降ったとしても、為信の人柄を考えれば、我々を活かしておくとは思えず、大浦家の為に、斬り捨てることは容易に考えがついた。


「後世に名を遺す為に、無駄死にするか」

「無駄死にだと!」

「小田原に十数万の兵が集まった。そのすべてが来るとは思わんが、鉄砲など、我らよりはるか多くを所有している」

「鉄砲如きには、負けはせん!」

「数千の矢をお前は躱せるか」

「なに」

「今、この地に来ている豊臣軍だけでも一万数千だ。その内、半分の兵が弓を射れば、どれだけの兵が倒れるだろうか」

「ふん、籠城さえすれば、被害は出ぬわ」

「北条の者たちは、籠城したが結局やぶれたぞ」

「敗れたとしても、北条は腰抜けだっただけだ。我らなら食い破ることが出来る。どうした、怖気づいたか!」


気の短い政実は、当初は話を聞いた時は、怒りの為に激高しそうになったが、何とか抑えることができたが、家国の言いたいことも分かった。しかし、数千の命を預かる身として、怒りに任せて挙兵しても良いのか悩んだ。それに、家国が怒れば怒るほど、冷静になっていく気がした。


「実親は、どうなんだ!此処までコケにされて、納得できるのか!」

「正直、腹は立った。しかし……」

「しかし、何だ!」

「このままでは、信直に押されてこちらはじり貧だ」

「まだ、わからぬではないか!」

「先ほど、兄上が話した通り、豊臣軍には勝てない。意地を見せるのも良いが、結局我々は討ち死にし、信直は枕を高くして寝られるようになるだけはないか」

「……」

「それなら一緒、豊臣の懐に飛び込み、其処で活路を見出すのも良い気がしてきた」

「それでは、信直に負け、尻尾を巻いて逃げることになるではないか!」

「いや、豊臣家の下で、新たに南部家を立てても良いのではないか」

「それでは、分家ではないのか」

「分家ではなく、別の南部家を設立すれば良いのではないか」

「別だと」

「そうだ。元々、南部家も晴政様がまとめるまで、内部で争っていたではないか。それならば、殿下に降り、朝廷のお墨付きを受け、南部家を上方で起こせばよい。鶴松様は幼少ではあるから先は分からぬが、上方に居れば、天下の情勢も知ることができ、諸大名や朝廷との繋がりも持てる。何れは、信直の鼻を明かすこともできるのではないか」

「……」」

「どうです、兄上」

「俺も同じ考えだ」

「では」

「しかし、何事もなく降ったとして、家国ではないが、納得できないものも多いだろう」

「それは確かに……」

「では、どうするんだ」

「考えたが、清正殿と一騎打ちをしてみようかと考えている」

「一騎打ちだと、なら、俺の出番か、上方の腰よわどもを捻ってやる!」


家国の言葉に、政実は、左右に首を振った。


「なら、誰がするんだ。実親か」

「俺がやる」

「はあ、何を考えてやがる」


にやりと笑いながら、政実は話す。


「家国、お主が出たら、清正殿の家臣が出て来るだろう。そうなると、清正殿の実力が分からん。豊臣軍を率いた対象である清正殿の実力を見れば、一応皆が納得してくれるのではないか」


政実の言葉に、疑りのまなざしを向けながら家国は質問する。


「本心は何だ」

「清正殿の腕前が見たい」


満面の笑みで答えを、政実は返す。その表情に、家国と実親は、盛大な溜息を吐きながら肩を落とす。

政実は、面白い事があると、率先して行動し、言い出したら聞かないことを二人は知っていた。


「この性格はかわらんのか、いい加減落ち着け」

「家国、お主には言われたくはない」


憮然としながら政実は返す。


「お前は、九戸の当主だぞ、万が一のことがあったらどうすんだ」

「そんな下手はうたんよ」

「しかしだな」

「家国、兄上は言い出したら聞かない、諦めよ」


家国は救いなしとあきれながら、顔を左右に振った。


「兄上、清正殿に、一騎打ちの事、連絡してきます」

「おう、任せた。俺は少し体を慣らしておく」

「いや、明日だぞ、今からやると日が落ちてからになるわ」


実親は、政実の相手を家国に任せ、部屋を出て、清正の下に向かうことにした。




「して、清正殿、実親殿は何と」

「明日の朝、一騎打ちを申し込まれた」


清正の言葉に、秀範は眉を顰め、氏規は呆れ、江雪斎は微笑んだ。


「奥州武士らしいというか、実力を見たいと」

「笑い事ではありませんぞ、江雪斎殿」

「秀範殿、頭が固いですな」

「硬くて結構です。もし、相手が何らかの策で、清正殿を害さないとも限らないではないですか」

「それはないです」

「しかしです、氏規殿」

「伝え聞いている政実殿の性格や、九戸の者たちの事を考えれば、正面から戦って、名を残そうとすることはあっても、卑怯な真似事はしないでしょう」

「しかし」

「まあまあ、秀範殿。話の続きがあるのではないですか、清正殿」


江雪斎が、氏規と秀範の話に割って入り、にやにやしている清正に話を振った。


「江雪斎殿、確かに話の続きはあります」

「それは」

「降るとしても、家臣や領民が納得できる形や結果が必要であるとの事です」

「ほう」

「それでは、清正殿なくても、私でも良いのでは」

「いや、秀範殿。軍を率いている大将である私の実力を見たい、見せつけないと殿下の力を判断する事ができないのでしょう」

「しかし、傷を負ったり、万が一の事が起きれば、どうなさるのです」

「槍に鞘をするから大丈夫だろ」

「鞘をしても、致命傷になりますよ!」

「鞘に布を巻き付けるようだから、問題ないようだぞ」

「だからですね」

「秀範殿、諦めなされ」

「江雪斎殿」

「頭でわかっても、心が納得できなければ、心服させることはできません。此処で、清正殿が正々堂々と、政実殿を打ち破れば、九戸の者たちも納得して降ることができるでしょう」


江雪斎の言葉を聴き、秀範は深いため息をついた。


「……分かりました。しかし、危険と判断すれば、強引にでも介入します」

「入れるものなら入ってみよ」


清正は、秀範の言葉を頼もしく聞きながら、挑戦的な笑みを向け、秀範は真正面から受止めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ