表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/147

第二十七、一話 九戸

二年目となりました。

細々と続けており、見捨てずにお読み頂いている皆様に感謝しております。

また、誤字の指摘など、ありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。


一話の文字数は少ないですが、お読み頂ければと思います。

[連続投稿 4回の1つ目]

三春城と同じく清正は、氏規、江雪斎を伴って、九戸城に入った。

今回は、飯田直景だけではなく、護衛として、木村正勝と斑鳩信好も伴っていた。


政実は、臣従した南部信直に仕えてはいるが、心から仕えている訳ではなく、不承不承で仕えていた。

政実と信直の関係が険悪な理由は、南部家の後継者争いの結果であった。南部家の先々代晴政は、奥州北部を席巻し、周囲を圧倒するほどの勢力を築き上げた傑物であった。唯一の問題は、後継ぎが産まれなかった事から、政実の弟実親や信直を婿養子とし、後継者を決めようとしていた。しかし、その後、晴継が産まれ、養子たちとの関係が怪しくなってきた。

実親は、兄政実の指示に従い、晴継に仕えることを晴政に伝え、晴政の屋敷を出て、九戸の屋敷に移った。信直は、明言を避け石川家の屋敷に移った。後継者の立場を保持していると示した。その信直の態度を、晴政は不愉快に感じ、信直との関係に亀裂が入り、溝が出来た。家臣の中には、晴継が産まれた後も、信直と関係を強めていこうとするものがおり、晴政は、次第に信直を信用しなくなっていった。

晴政としては、信直を討ちたかったが、信直の父高信は家中の有力者であり、北信愛、八戸政栄など有力者の支援がある信直と争えば、家中が分裂することは確実であり、南部家衰退を危惧し、手を出すことが出来なかった。救いは、南部家最強の九戸党を率いる政実が、晴政を支持しており、信直をけん制する事ができ、家中が乱れることがなかった。だが、その結果、政実と信直の関係は悪くなっていくことになる。

晴政の死後、晴継が不慮の死を遂げる。特に病を得ていたわけでもなく、死因がはっきりとしなかった。政実は、信直の関与を疑った。なぜなら、晴継の死後、信直の南部家当主就任の手際が良すぎたからだった。信愛、政栄が、家中を取りまとめ、三戸城に、素早く信直を入れ、晴継の病死の発表と南部家継承を宣言した。それは、政実や実親が動き出すよりも早すぎ、晴継の死が分かっていたような動きだった。

反発のないまま家中が信直を南部家当主とすることで纏まった為、政実は、実親を擁立することを諦めるしかなかった。

当主就任後、信直は、実親を冷遇し、政実には一定の配慮はするが、南部家中枢からは追い出した。そのやり方に政実は、憤りを覚え、領地にこもることが多くなった。

戦への参加要請には一応兵は出したが、無難に戦うだけで、損害を抑えようとした。今回の小田原への出兵も、体調を崩したとして、断った。その返答に、信直は激怒したと言うが、信愛が宥め、小田原に出陣させたと間者から報告を受けている。

小田原での情報は、間者だけではなく、信直が父高信を討ったとして不倶戴天の敵と付け狙っている大浦為信からも受け取っていた。

政実と為信は、性格は全く違うが馬が合い、為信が南部家に仕えている頃から親交があった。高信を討った後も、為信を庇い、信直が討伐を起こそうとしても、のらりくらりと出陣をしなかった。

為信からは、信直が政実の討伐について、周囲で話はないと書状で受け取っていたので、清正の来訪は、懲罰ではないと踏んではいるが、何故来たか予測は出来ていなかった。




平伏している政実、実親の部屋に、清正たちが入ってきた。


「お二方とも、面を上げてください」

「はっ」


清正の声に、二人は面を上げた。


「本日は、どのようなご用件でしょうか。もしや、何か不始末でも」

「そう身構えなくても良いです」

「……」


清正と政実は目を見つめあい、お互いの力量や真意を知ろうとした。


「ふむ、駆け引きをしても無駄なようだ」

「そう思われますか」


そう言いあい、清正と政実は笑いあった。


「それで、ご用件は何でしょう」

「単刀直入に言おう、豊臣家に仕えぬか」


清正の言葉に、政実は目を細めて見つめ返した。服従した南部家からの露骨な引き抜きに問題はないか、信直の依頼による領地取り上げではないかと、実親は眉間に皺を寄せた。


「ふむ、それは、信直殿から要請ですかな」

「信直殿には話をすることの許可を得てはいますが、発案は信直殿ではありません」


左右に顔を振って、清正は否定する。

信直にとってみれば、秀吉の近くに行く事は、将来、南部家を乗っ取る布石にもなりかねないと危惧したが、秀吉からの要請を断れるはずがない。政実や実親が南部家家中からいなくなれば、不穏分子が居なくなり、家内の統制がとれ、政実の領地を取り上げられると考えて、内心は喜んでいた。


「では一体、どなたの発案ですか」

「殿下の子、鶴松様です」

「……」


政実は、表情を曇らせた。聞いている話では、鶴松は3歳ほどの幼子、思考能力も判断力もまだない年齢のはずで、人を馬鹿にしているのだろうかと考えた。実親は不愉快な表情をした。


「鶴松様は、まだ、幼子と聞いておりますが」

「その通りです。まあ、疑念を抱かれるのも仕方ありませんが、事実は事実です」

「殿下の命令とした方が良いのでは」

「鶴松様が、政実殿を家臣として迎え入れたいとの話です」


その話を聞いて、秀吉が鶴松に仕えさせる為に、作り話をしているのだろうと政実は結論付けた。


「ま、信じられないのは仕方ないです。私とて、半信半疑ですから」

「清正殿」


清正の発言を、氏規は注意した。


「実際に見なければ、信じられませんよ」

「ふむ」

「しかし、殿下が言われた以上、私は、忠実に動くのみです」


その発言に、清正の忠義、誠実は感じた。鶴松云々の話は置いておいても、清正を信じても良いと政実は思った。


「ところで、仕えるとして、疑問が二つ」

「何でしょう」

「私と実親と家臣のみが上方に行くということになるのでしょうか」

「いえ、其処は何も言われていないので、領民でも一緒に行きたいものが居れば構いません。土地を切り開く必要はあるようですが、領地は与えるとの事です」

「それは、九戸のもの全てを連れて行っても良いと」

「ええ、構いません」


領民をすべて連れて行って良いという発言に、実親は呆れた表情をした。九戸で兵を集めれば、千単位で集まる。それを移動させる際の糧秣などを考えると、頭を考えたくなる。


「領地に関しては、武蔵で与える事になると言われています」

「湿地が多い武蔵か」

「そこは、時間をかけて、開発するようなので、収穫するまでは支援を約束するとの事です」


政実は、眼を閉じ考え込んだ。

秀吉からの誘いに嫌はないし、今後の事を考えれば、信直と対立する事は確実であり、手打ちをする気は無い。

しかし、直ぐに諾となると、奥州武士の沽券に係わるし、上方の腰抜けどもになめられたくはない。ただ、己の意地の為に、九戸の民や家臣を死に追いやる事に対する葛藤もある。

上方に尻尾を振る腰抜けと。安倍頼時・貞任の挙兵以降、上方に、朝廷に搾取され、蝦夷と蔑まれてきた奥州の地。九戸家は、南部家家祖光行から分かれているとも言われているが、九戸の血は、奥州の地から分かれたものではない。

九戸家は、奥州に根を張り、血を繋ぎ、奥州の心を持つ武士となった。奥州武士の強さは、北畠顕家による上洛軍にも参加し、上方にも見せつけた。だが、上方の評価は変わらなかった。その上方に押さえつけられた鬱屈した思いは、関東以北の諸将すべてにある。嫌っている信直も持っていると思っている。

此処で、秀吉の下に行けば、尻尾を振った負け犬に見えないか、奥州武士たちに嘲笑を受けないか、いや、己の矜持はどうなのか、様々な思いが心を駆け巡った。


「兄上」


実親の声に、眼を開け、顔を向ける。


「家中の者も集まっております、此処はいったん保留し、皆と話し合って結論を出しませんか」

「……そうだな。清正殿、申し訳ござらぬが、家中の者と話し合いをしたのですが」

「確かに、此処ですぐに結論が出る話ではないのは分かっております」

「申し訳ない」


政実の提案を受け、清正たちは、自軍に戻って行った。

実親は、思案中の政実をその場に残し、家中の者を呼びに部屋を出ていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ