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第百三十二話 義光

政宗は秀永から東の大陸へ向かう秀次の補佐・副将として赴くことの説明を受けた。

伊達家や佐竹家が中心となり、南下しスペインに対して圧力をかける事になる。


「南部家はどうなります」

「南部家も行ってもらいますが、副将の一人ですね。津軽家が蝦夷や樺太の対応を、蠣崎家、安東家と行ってもらっていますから、東に行ってもらう方が安全かもしれませんね」

「うーん……」

「叔父上は統治能力に問題ないのですが、軍の差配はうまいとは言えません。その手の家臣がいるので、大きな失敗もしなくなったと思いますが、流石に戦線が広くて一人では管理しきれないと思っています」

「東は山脈があるので、東部の監視だけで良いかもしれませんが、南下するとなると人手は要りますな」

「ええ、相馬家は原住民と協力しながら馬の飼育を行ってもらってますしね」

「ああ、なかなかこっちに移動させるのも大変とか」

「そこは時間を掛けながらではありますが、それなりの実績は出てますので」


政宗はそう言いながら、顎を撫でて思案していた。


「無理ですか」

「いえ、殿下なら命令すれば良いので」

「そうなんですけど。不満を持ったままだと、うまく機能せず問題が起きる可能性がありますので、なるべくなら自主的に動いて頂ければと思っています。何が引っかかる事があるのですか」

「ええ、このままだと、スペイン艦隊と戦う可能性があるんですよね」

「はい、只、いつになるのか。早くても一年はかかるかと」

「一年ですか……」

「もしかしたら、来ないかもしれません。先の艦船での船の損失を考えると、東の大陸からこちらに来る船の数は大型のものであれば、本国、大陸の東側に備え置くことを考えれば、20もあるかどうか。それより小さいものだと、数多くあると思いますが」

「ガレオンというやつですか」

「そうですね。なので、本国や東側の艦船も集めて、こちらに来るとするなら本国の海防が危なくなるので、周辺国を巻き込んで合同で船を出してくるかもしれないと思っています」

「引き込めば、敵対国の船も減ると言う事ですね」

「ええ、ですのでその調整が短期間でおわるかどうか」

「確かに……」

「まして、何かによって、西側の艦船も維持できなくなる可能性もあり、更に減る可能性もあるかもしれませんが、船団は大軍になると思われるので、東の大陸ではなく、こちらの南方から来る可能性があります」

「かなり厳しい航路と聞いてますが」

「厳しいですね。でも東の大陸の場合だと、船で陸を引いて移動するか、北か南に船を出さないと難しいので、どっちもどっちかと思います」

「それだけ厳しいと、かなりの船が脱落する気がしますね」

「そう思いますが、南蛮らの国の支配が長い地域もあり船の修繕をする所も多いかと思うので脱落も減らせ、西から来ると推測しています」

「なるほど、一年以上ですか……」

「それがどうしましたか」

「いや、私もその戦いに参加したいと思いましてね」

「ああ、そういう事ですか」

「その戦いは、歴史に残る大戦となるはず。千載に残る戦いに名を刻めるのは武士の本懐化と」

「本音は?」

「参加したら目立てる、自慢できる、かっこいいから」

「はい、そうですか……でも、東の大陸での戦いも、千載に残る戦いと思いますよ」

「うーん……地味?」

「地味ですか……」

「行く事を嫌がっているわけではないんです。大戦に参加できないのが残念で……」

「うーん、そう言われると、参加は厳しいとは思いますね」

「かといって、東の大陸の権益は欲しい……ふむ、綱元、重宗に任せるか」

「景綱さんが怒りませんか?」

「……」

「こちらに来そうですよ」


秀永からそう言われると、政宗の額から汗が流れて来た。


「そこは、殿下からの命という事で……」


爽やかな笑顔で、政宗は秀永に頼んだ。


「嫌です」


それを即秀永が拒否した。


「ちなみに、父上に頼んでも無理ですよ」

「え」

「父上が頼んでも、私はお願いしたと景綱さんに言いますよ」

「……」


顔を歪めて、政宗は天井を見た。


「それに、政宗さんが行かなければ、義宣さん、利直さん、利胤さんの勢力が強くなりますよ。特に、義宣さんは、叔父上の扱いを理解していますからね。政宗さんとの関係もありますし、綱元さんらは勝てますか?」

「……はぁ、無理ですね。ただ、私が行けば、義宣殿と関係上、争いが起きる可能性があります」

「その危惧はありますが、そこは叔父上に期待しています」

「その秀次様に対する信頼は何処から……」

「家臣団も有能ですし、ある意味、父上に似てますからね」

「分かりました。向かいましょう。」

「ありがとうございます」

「とっとと、終わらせて帰ってきますよ」


そう言って政宗は笑った。

そうしていると、廊下から駆け足で近づいてくる足音が聞こえて来た。


「ん、何かあったのか」


足音は部屋の前に止まった。


「失礼します。政宗様はおられますでしょうか」


政宗と秀永は顔を見合わせた。


「いるが、重綱か」

「はっ」

「殿下、入れてもよろしいですか」

「いいですよ」

「では、入って来い」

「はっ、失礼します」


そう言って、重綱は部屋に入って来た。


「して、何かあったのか」

「はい、実は、義光さまが来られまして……」

「はい?最上の叔父上が?何故?」

「分かりませんが、殿に会わせてくれ、殿下に願いがあると」

「どういう事だ」


重綱が話している間に、足音が近づいてきた。


「義光様、今、殿は殿下と打ち合わせ中ですので、しばし、しばしお待ちを」

「おお、そうか、それならば都合がよい。甥と恐れ多いが殿下は義息、腹を割って話せる機会だ」

「まって、下さい」


廊下から声が聞こえて来た。


「成実と叔父上か……さすがの成実でも叔父上を止める事は無理だろうな……」


義光は謀略の面が目立っているが、武勇も優れており、同じく成実も武勇に優れているため、無理に抑えようとすると双方が怪我をする恐れがあり、成実も強引に止める事は出来なかった。


「殿下、入ってもよろしいでしょうか」

「かまいません」

「では」


そう言って、義光は部屋の中に入って来た。

後ろではため息をついた成実が立っていた。


「成実さんも入ってください」

「はっ、申し訳ございません」


そう言って、成実も入って来て、政宗の斜め後ろに重綱と共に座った。


「殿下、突然の来訪、申し訳ございません」

「その通り、失礼すぎますな、叔父上」

「なんのなんのお主の無神経さと身勝手に比べれば、さほどの事でもない」

「いやいや、お伺いの連絡もないのは、どうかと思いますぞ」

「ふむ、分かった。今回のお前の身勝手な行動は、国許の景綱と、義にも連絡しておこうか」

「……まあ、偶には良いと思いますよ」


そう言いながら、政宗と義光は笑顔で話していたが、眼は笑っていなかった。

それを見ながら秀永は苦笑を浮かべた。


「殿、義光様、殿下の御前です」


重綱が政宗と義光を注意した。

その言葉に二人は、顔を背けた。


「それで義光さんは、何かありましたか。ああ、お土産の塩鮭ありがとうございました。おいしかったです」


そう言って、秀永は義光に頭を下げた。


「い、いや、頭をお上げ下さい。殿下、軽々に頭を下げてはなりません」

「その通りです。周囲に軽く見られますぞ」


義光、政宗は秀永に注意した。


「ははは、義光さんは、私の義父です。義父に頭を下げるのは問題ないと思いますよ。それに、ここは公式の場ではありませんから」

「はぁ、殿下は公式の場でも頭を下げそうで怖いですな」


義光は、深いため息をついた。


「それは、良いです。で、何かありましたか」


秀永の問いに、義光は頭を下げ秀永は見つめた。


「実は、お願いがあります」


真剣な義光の表情に、秀永は首を傾げた。

今まで、義光が公式でも、義父としてもお願いをした事がなかった。


「駒との跡継ぎの願いですかな?」


政宗が言うと、秀永はびっくりした表情を浮かべた。


「馬鹿か、お前は!そんな分けないだろう!いや、孫は見たいが……」


義光は、政宗を叱りつけた。

それを聞いて、秀永はほっとした表情を浮かべた。


「殿、話が進みません。黙ってください」

「重綱、お前……」

「その通りだ、ちょっと黙っていろ。黙っていられないなら、黙らせようか?」

「成実まで……」


重綱、成実の言葉に、政宗はやれやれという表情を浮かべて黙った。


「では、改めて、殿下、東の大陸へ兵を更に進めると聞いておりますが、事実でしょうか」

「ええ、スペインを抑える為に、南下する必要がありますので」

「そうですか、南下ですか……」

「それがどうしましたか」

「いえ、東の大陸にも鮭が取れる所があると聞いたので、一度行ってみたいと思いまして」

「なるほど」


義光の言葉に、合点がいった表情を秀永を浮かべたが、政宗は呆れた表情を浮かべた。


「叔父上、出羽で鮭の人工ふ化に携わっていたのではないのですか。あと、越後も関わっていたと」

「それは、それだ。ある程度の成果や情報得た。資料の整理も出来た」

「あと、蝦夷や東の半島にも行ったと聞いていますよ。母上から愚痴の手紙が何度も来ましたよ」

「別にわしが居なくても息子や家臣がいる」

「いやいや、それこそ、鮭の調査は家臣に任せればよいでしょう」

「何を言っている。実際に見るのと聞くのとでは全く違うぞ。身に行ける所に実際行って、どのような環境で生きているのか、どう味に違いがでるのか、調べてみたいだろ」

「私は別に興味ありませんな」

「お前は、女子なら直接見に行くだろう。それとかわらん」

「全く違いますよ、女子は跡継ぎや一族を残すためのもの。鮭は趣味ではないですか」

「はぁ、お前は本当に、義の子か……浅い、考えが浅すぎる!」

「あん?」


政宗は義光の言葉に不愉快な表情を浮かべた。


「鮭が安定して手に入り、滋養が高い鮭が手に入れば、薬にもなるだろう。そう、鮭は日本を救うんだ!」

「何言ってんだ、この叔父」


呆れた表情を政宗は浮かべた。


「まあ、冗談はさておき……」


義光の言葉に、政宗は疑いの目を向けた。


「養殖をするための環境、その地域の個体を調べ、より繁殖力が高く、大きな鮭が手に入れば、高級ではなく庶民が食べれる事が出来る。また、効率よく養殖できれば、その地域の食糧事情も改善できるし、同じ系統の魚の養殖に仕えるだろう。情報はあればあるほどよいのだ、応用が利く」


ため息をしながら政宗は頭を振った。


「色々、理由をこじつけたが、叔父上が趣味に走っただけではないか」

「まあな。わしも家督を譲って、半ば隠居状態だ」

「義康を筆頭に、従兄弟たちが愚痴りまくった書状が定期的きているだが、叔父上」

「しらんな!」


そう言って、義光は笑った。


「そういうお前も隠居して、趣味に走りたいんじゃないのか」

「まあ、そうですが」


義光の指摘に、政宗は頭をかいた。


「ただ、当主でなければ兵を動かせないから、やりたいこともしずらいですな」

「ふむ、兵か……まあ、大軍は無理でも、小規模であれば動かせるのではないか」

「そうなんですが、そうなると海戦とか、難しいじゃないですか」

「ああ、そうだな」


政宗と義光の話を聞きながら、秀永は考えた。


「なら、政宗さんと共に、義光さんも東の大陸に行きますか」

「おお、それは!」

「ただ、最上は西の大陸を担当してるので、東の大陸に行く場合は、大した兵は持っていけませんし、出来れば北部の調査と、後方支援をお願いしたのですが」

「ふむ」

「秀次叔父上を総大将として、南部家、佐竹家、相馬家、伊達家が主力になる予定です。南下をする予定ではありますが、後方の支援拠点の構築も必要になります。そこは、豊臣家からも出しますが、各大名家も人を出してもらい作る予定です。秀次叔父上は、構築後、何か軍を率いて更に兵を進めますので、管理監督をお願いしたいと思います」

「うーん、なかなか、調査の時間が……まあ、息子の一人を連れて行って、大半を任せてしまえば良いか」

「それでもかまいません。本当は、政宗さんにお願いしようとしたんですが……」

「なんだ、お前、また我儘を言っているのか」

「叔父上さんに言われたくはないですな」

「いっておれ」


政宗と義光は、ふんっと言って、顔を背けた。


「義光さんが後方支援を管理してもらえると、幾分らくになるかもしれませんね」

「いや、豊臣の吏僚は有能なものが多い。そこで学んだ我が家臣を見てもわかる。分かりました、引き受けさせて頂きます」

「お願い致します」

「はぁ、叔父上と行動を共にするのか……」

「文句あるのか?」

「大いにありますな」

「なんだと」

「政宗さん」


義光と政宗が言い合いそうになるか、秀永が言葉をはさんだ。


「義光さんが補佐に入れば、予定よりも早く終わるかもしれませんよ」


秀永の言葉に、政宗は一瞬考えた。


「なるほど、叔父上よろしくお願いします」


政宗の態度の変わりように、義光は呆れた。

秀永は、理由を説明すると、大いにため息を義光はついた。


「お前らしいな」

「叔父上の鮭への思いにはかないませんな」


政宗と義光は顔を合わせて、苦笑し合った。


「あとは、医療関係も調整しなければならないですね」

「なるほど、環境が変われば、病気や害虫も違ってくると」

「ええ、呂宋に来る前に色々準備しましたが、感染症や毒素などに対応した薬も必要になります」

「殿下は、施薬院の復興と支援をしていましたな」

「それでも、まだまだ、足りませんが……」

「これからですな。そうなれば、東の大陸で手に入る薬草なども調べる必要がありますな」

「そうですね。まだまだ、東の大陸の拠点周辺だけでしたから、現地の人たちの協力を得て、発展させていきたいですね」


その後、どういう編成にするか、物資、現地での準備などを話し合った。


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