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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第百ニ十九話 捕虜

「ここの飯はうまいな」

「だろう?」

「重長、若いんだから足りんだろう、もっと食べろ」


利益とヤマタは笑いながら、酒を飲みつつ飯を食べながら、飲み屋の店主に追加注文をしていた。

重長はため息をつきながらも食事をしていた。


「辛気臭い顔をするな、重長、飯がまずくなる」

「政宗様……はぁ」

「残念なものを見るような視線を向けるな」

「食事は良いです、けど、毒見もなく、酒まで……油断しすぎでは?」

「ふむ、確かにな。だが、そこまで俺は飲む気はない」

「いえ、飲むのが……」

「水を飲むよりは良いだろう」

「確かにそうではありますが、お茶で良いではありませんか」

「まあな、だが、酒の方が合う」

「いやいや……はぁ」


重長は政宗に振り回されており、秀永に振り回される重成に共感があり、苦労話をこっそり二人でしてた。

しかし、秀永はまだ安全を確保したうえでの行動である為、重長と比べればまだ気苦労は少ないとも、重長は思っていた。


「重長は考えすぎだ。ここの店主は、そこまで悪辣ではないぞ。俺にも普通に対応するからな」

「そりゃ、お前に何かあれば、兵士たちが此処に来るから無体な事はしないだろう」

「まあな、慶次郎。でも、他の所では俺たちに対して露骨な所もあるぞ。嫌悪感、小ばかにした目線や態度をする所もあるぞ」

「そんなことをしたら、気が短い奴なら問題がおきないか」

「政宗殿の言うとおりだが、それは下っ端の連中だな。後は、商人が雇っている連中だからな、問題が起きてもその場で終わる」

「いやいや、スペイン人たちが不利益になれば、総督たちが責められないか」


自国以外の住人と問題が起きれば、自国民を守る行動をとると政宗は思った。

今までの南蛮人の発言や行動を見ると、日本だけではなく、日本の周囲の住民を見下しているような発言を度々聞いた。

また、猿だの野蛮だと言われた事がある。まあ、そのものは既に首を刎ねられたが。


「それはそうだが、別に総督も商人も騒がないぞ」

「何故だ?自尊心が高い連中だろ、面子が潰されたら激怒するんじゃないのか」

「政宗殿の認識も間違いじゃないが、いちいち下っ端のもめ事を扱っていたら手が足りない」

「だが、下っ端の不満が溜まらないか」

「そう、だからもめ事は気晴らしをさしているようなもので、殺害などが起きれば別だが、喧嘩ぐらいなら話を聞いて、現場を確認し責任がある方が賠償、牢屋に入れるぐらいで終わる」

「しかし、雇い主の商人が巻き込まれたり、総督府の幹部が揉めたら」

「その時は、多少こちらが有利になるが、しかし、やりすぎると暴動が起きる」

「ああ、そうか、此処はスペイン人より原住民、明人が多いのか」

「そうだ、そして、補給も地元や明から運ばれ、東の大陸やスペインから運ぶよりも早い。なので上層部や貴族、大商人が絡まない限り偏ることは無いし、もし、揉めれば明との取引が滞り、航海中に倭寇が大量に現れかねないからな。面倒事は避けたいわけだよ」

「ふむ、しかし、奴隷として扱っている者たちがいるのでは」

「そんな連中は、街にはあまりいない。大半は農場にいるからな」


そんな話を聞きながら、政宗は奴隷として、奴隷のように扱われている連中をこちらに引き込めば、落としやすいのではないかと考えた。


「そう言えば、ここら南に回教徒の国があると聞いたが」

「回教徒、ああ、あるな」

「攻めなかったのか」

「まあ、攻めてはみたが勝てなかったな。それに、そこまでうまみのある所ではないかもしれないな。交易も出来るし、今ままでは保留していた」

「放置して、日本を攻めたのか」

「あっちはこっちを攻める事はなかったし、黄金や銀、工芸品などが産まれる日本の方がうまみがあるだろう」

「確かにな。だが、その国は、お前たちと違う宗教を信じているんじゃないのか」

「そうだな。本国とポルトガルは、かつて、回教徒に攻められて奪われていた土地だったから、関係性は良好とは言えない」

「なら、耶蘇教の坊主どもは攻めろと言うんじゃないのか」

「本国やその周辺の国々であれば言うだろな。だが、こちらは僻地だ。狂信的な連中は別だが、祈っても助けてくれるかもわからない、富を約束するか分からない神より、取引で利益を得れる異教徒と手を結ぶ方が価値がある。まして、本国からの援助もあるか分からない状況ではな」

「だが、坊主どもはやっかいではないか」

「やっかいだが、何を言おうが出来る事と出来ない事がある。まあ、あまり五月蠅いと航海中に殉教する事になるかもしれんな」


重長は目を見開いてヤマタを見て、利益、政宗は苦笑した。

行動が制約されるなら、陰で始末して事故で亡くなったと言った方が説明しやすいと考えた。


「まあ、これが元貴族だったり、本国や教皇庁と繋がりがある有力者だと使えないがね」

「責任問題か」

「そうだ、責任を取らされる可能性が高い。どれだけ理由を付けたところで、やつらは助かりたければ、命か財かどちらかを出せと言ってくるだろうな」

「どこも変わらないな」

「真摯向き合う坊主も居るが、生臭坊主が多い」


そう言いながら、ヤマタは含み笑いをした。

重長は眉を顰めたが、政宗や利益は肩をすくめた。


「店主、街はどんな感じだ」

「そうですねぇ、スペインの方々はあまり見かけませんね」

「あまりか」

「ええ、偶に食料の手配の為に街にくる人はいますが、食事に来る人はいませんね」

「あの連中がか」

「はい、酒を飲みに来ることはないですね。まあ、商人が城塞に運んではいるようですが」

「城塞の話は何かないか」

「んー、食料や酒を運ぶ商人や人足は、城塞の門の前で荷を渡して、城塞には兵士たちが運び込んでいるようですよ」


重長以外は、話しを聞きながら食事をつまみ酒を飲んでいた。


「良く、あの兵士たちが暴れ出さないな」


そう言いながら、ヤマタは金貨を一枚机に置いた。

店主は、酒の瓶の交換をしながら金貨を懐に入れた。


「商人や人足に聞いた話では、兵士たちが愚痴を言っていたらしいですよ。総督や一部の幹部が逃げたと」

「ほう……」

「その兵士を叱りつけた役人が、商人や人足にここでの話は他言無用と言ったようですが、商人は黙っても、人足は酒が入れば口が軽くなるので、総督らがいないと街中では周知されてますよ」

「兵士が嘘をついていると思わないのか」

「嘘をついても良い事もないでしょうし、そんな話を広めたところで治安を考えたらよろしくないでしょう。あと、旦那が敗れたと言う話が街中で広まった数日後の夜に、船が何隻か港から消えてましてね。それを踏まえて、兵士の愚痴の信ぴょう性が上がったんですよ。その後、街中の兵士が城塞に集まった事も決定的かもしれません。城塞を守る兵士が減ったから集めているんだろうと」

「ああ、ありがとう」

「いえいえ」


そう言いながら、店主は奥に戻っていった。


「城塞は落とせるか」

「今の話を聞いても、主力の陸兵はいないだろう」

「どれぐらいの兵数ですか」

「いても数百……五百はいないかもしれないな」

「それぐらいの兵で、この町や他の地域を抑えられるんでしょうか」

「重長殿の疑問は分かる。本国から離れている以上、兵力の移送には限界がある。維持もだ。なので、現地や明人……倭寇だな、そんな連中を使いながら管理をしていた。兵は少ないが重火器や武装を高めて、反乱が起きれば即鎮圧に動いて潰していた。後は、生かさず殺さずで雇っていたな。ただ、司祭あたりが教化と言って、原住民を教徒にするため、現地の信仰を潰した事があり、その時は大変だったよ。碌なことしない、やつらは……」

「いやいや、お前の国だったら普通の事じゃないのか?」

「そうだな、お前の考え方が異端だろ?」

「まあ、政宗殿や慶次郎の言う通りだな。異端審問官に見つからないようにするのが大変だった」


そう言って、ヤマタは肩をすくめた。


「異端審問官ってなんだ?」

「ああ、慶次郎は知らないのか、殿下から聞いていないか?」

「んー、聞いたことないな」

「政宗殿は知っているのか」

「殿下から聞いた。よく言えば信心深い真面目な信仰者、悪く言えば狂信者だそうだ」

「ほぉ、日本でも叡山、日蓮宗、一向宗と宗派の名の下に戦に駆り立て、他宗派や大名、領主に戦いを仕掛けていたが、それとは違うのか」

「それはどちらかと言うと、十字軍と言われる遠征が近い気がするな。後は、カソリックとプロテスタントと言う宗派の対立があり、それが南蛮諸侯が組して争いの火種になっているとも言っていたな」

「はは、国は違えど、人とは業の深いものだな」

「まったくだ」

「で、異端審問官とはなんだ」

「ようは、教義、信仰に反する者を取り締まると言った感じかな?」

「なんだそれは、異端審問官は何処に所属しているんだ?」

「耶蘇教の教会らしいな」

「国王や領主は、領民が取り締まられたら何もいわないのか?」

「耶蘇教の方が立場が上の様だな」

「それはそれは、やっかいなことだな」

「そうだ、定めた式目よりも優先される恐れがあり、拒否したら破門と言われ立場が失わる。そうなると家臣からそっぽを向かれる可能性があるようだぞ」

「破門?なんだ、南蛮の国王たちは出家でもしているのか?」

「出家はしていないが、信徒の様だぞ。だから、耶蘇教の教皇に破門と言われたら王や領主としての権威がなくなり、下剋上を起こされる可能性がありえるとか。日本なら破門されたら改宗すれば良いだけだがな、ははは」

「そうだな、ははは」


政宗と利益の話を聞いて、ヤマタは驚いた。

秀永から聞いたと言う事は、秀永および豊臣政権ではスペインなどの国々の情報に精通していると感じた。

王室、貴族や領地の問題など、詳細は分からないかもしれないが、ある程度の知識はあると考えた。


「ヤマタも大変だったな」


利益はそう言いながら、ヤマタの椀に酒を注いだ。

それを苦笑しながらヤマタは飲み干した。


「日本も色々あるようだが、祖国や周辺は耶蘇教に支配されているようなものだ。今までは、批判も出来なかったが、最近はプロテスタントがカソリックの在り方を批判して台頭し争っているが……まあ、同じ耶蘇教だから諸侯への支配は変わっていないけどな。日本に寝返って楽になったよ。言いたいこと言えるからな!」


そう言って、ヤマタは笑った。


「まして、殿下は懐が深い。言いたいことを言っても処罰されないから!祖国だと投獄される可能性がある。特に俺のような立場が弱い者は悲惨だからな」

「それは、こっちでも変わらないぞ。殿下は特別だ」

「そうなのか?ご隠居も懐が深そうだが、やはり親子だな」

「ああ、ご隠居はな……あれは、俺と同じだ」

「政宗殿と同じとは?」

「大抵の大名は、猜疑心を抱えている」

「まあ、そうだろうな。人を使う立場になれば、上にも下にも注意をしなければ足元をすくわれるからな」

「俺も後継者として当主になる予定だったが、色々あって家中でも反対勢力があって不安定だったから、猜疑心を持たざる得なかった。しかし、殿下は生まれながらの天下人になる流れだったから、従うのは陛下のみ、家臣は服従している。だが、ご隠居は下から這い上がって来た方だ。仕えたのは苛烈な信長公、そして歴代の重臣たちが居て、相当鬱屈し続けただろうな……その状態で上がいなくなり、権力を持った……」

「それは、荒れそうだな」

「そうだ、初めて会った時は、笑顔で陽気な声だったが、目の奥底が笑っていなかったな。だが、殿下が産まれ成長し続けていくにつれ、角が取れたように思えたよ」

「ほう、親バカか」

「かもしれんな」


政宗がそう言うと、ヤマタと利益と共に笑い出した。

そんな雑談をしていると、外が騒がしくなってきた。


「おい!ここに商人ではない日本人が来ていると聞いたぞ!」


そう言って、スペイン人の兵士数人が店になだれ込んで来た。


「ん、誰かが知らせたかな?」

「まあ、そうだろうな」


政宗と利益が話していると、ヤマタがニヤニヤしながら兵士たちを見た。


「ん?見た事があるよう……」

「まあ、それは良い、何か用か?」


兵士がヤマタを見て、気が付きそうになるが利益が声をかけ、注意をそらした。


「そうだ!貴様らは何処から来た!」


そう言って、兵士たちが剣を突き出した。


「おいおい、うまい飯と酒を飲んでいる邪魔をするなよ」


やれやれと言う表情で、利益と政宗はため息をついた。


「五月蠅い!正直に答えろ!」


兵士たちの怒号を気にすることなく、利益は懐から煙管を取り出して口にくわえた。


「舐めているのか!おい、こいつらを捕らえろ!」

「は!」


その声と共に、兵士たちが政宗たちに襲い掛かった。

それと同時に、利益は椀を兵士の顔に投げつけ、政宗は卓持ち上げて兵士たちに投げつけた。

周囲の兵士は避けたが、顔に椀をぶつけられた兵士はよろめき、投げつけられた卓にをまともうけて仰向けに倒れた。

利益は卓が投げられたと同時に、立ち上がり椅子を手に持ち、斬りつけて来た兵士の剣を弾き、顔面を殴った。

政宗も椅子を片手に、兵士の腕に椅子を叩きつけ剣を落し、それを重長が拾い上げ、兵士たちを斬りつけていった。

ヤマタは何もせず、手に持った酒の瓶から椀に酒を注ぎながら、斬りあいを見ながら酒を飲んだ。


「な!?」

「驚いている暇があるのか」


指揮をとっていた者の近くに利益が寄っていき、危険を感じ利益に斬りつけたが、煙管で剣を弾いて体制を崩した所を引き倒して、組倒し腕をとって上に座った。

そして周囲を見ると、兵士たちは重長に斬り倒されていた。

政宗はいつの間にか部屋の隅の椅子に座り重長を見ながら、手にした椀や瓶を投げつけて重長の手助けをしていた。


「店主、これがお代だ」

「へい」


店主も荒事になれているのか、平然な表情をしてヤマタから金貨を受け取った。


「お釣りをお持ちします」

「いや、良い。これもお詫びだ、後片付けを任せるぞ」

「分かりやした」


そう言って、ヤマタは金貨を数枚店主に渡した。


「さて、そいつから情報を取るか」


そう言って、政宗は立ち上がり、利益が下敷きにしている兵士のもとに近づいた。


「慶次郎、此処じゃ迷惑かけるから場所を移すぞ」


政宗がそう言うと、利益は兵士を立ち上がらせた。


「は、離せ!」

「五月蠅いな、騒ぐと始末するぞ」


そうヤマタが言うと、兵士は黙り込んだ。


「と、いうかお前たちスペインの言葉が分かるのか?」

「少しはな。まあ、饒舌には無理だが」

「ははは、そうかそうか」


利益が答えると、ヤマタは笑った。

利益は、自らより大きい兵士を軽々利益は担ぎ上げて、店を出ていき、政宗らはその後ろを付いていった。

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