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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第百ニ十三話 酒宴

秀永らが酒宴を楽しんでいると、廊下の方から声と足音が聞こえてきた。


「お待ちください、確認して参りますゆえ、何卒」

「ははは、気にするな、殿下はそんなこと気になされぬ」

「そうではありませぬ!」

「政宗殿、止まってください!」

「ははは、氏直殿も何を慌てておるんだ!酒宴であれば余興も必要ではないか!」

「お伺いもなく、酒宴に乱入するのを余興とは言わぬぞ!」


周囲を警護していた者たちの声ともに、制止する声が聞こえてきた。


「殿!警護の者たちを困らせてはなりませぬ!まして、捕縛されないだけでも恩情をかけられているのですぞ!」

「ははは、そこは俺の魅力のせいだろう!」


政宗の声は悪びれることがないものだった。

その声を聴いて、秀吉はにやにやし、秀永は苦笑を浮かべた。

重成と安治は顔を顰めたが、他の者たちは笑っていた。

イサークは不思議そうな表情を浮かべた。


『ヤマタ殿、一体何事でしょう。声の感じからして敵とも思えないが、かといって、主の酒宴に遠慮なく入ってこようとするのは不敬として罰せられるものでは?』

『さてな、でも見てみな、皆笑っている……一部を除いてはな』


そう言ってヤマタは、笑いながら顔をひそめた二人を見て大笑いした。

安治はため息をついたが、重成はヤマタを睨み付けた。

それに対して、ヤマタはにやりと笑い返した。


『重成は若いな。感情が表に出過ぎている』

『若者の特権では?しかし、皆楽しんでいますね。本国だった大騒ぎでしょう』

『いいや、通されるならば、ある程度知られている者か、親しいものだろうから、危険はないだろうよ。さて、どのような奴が来るか』

『……』


楽しんでいるヤマタに呆れた表情をイサークは浮かべた。


「かかよ、あ奴は何時まで経っても落ち着かんな」

「そのようですね」


そう言って、秀吉は寧々と笑いあっていたら、襖が開かれて政宗が入って来た。


「殿下、ご機嫌は如何ですかな!この政宗が土産を携えて来ました……っ」


政宗はそう言って、秀永を見た。

しかし、その近くに、何処かで見た様な老人を見て、言葉が詰まった。

ひとりは、知っている如水であったが、もう一人はすでに亡くなっているはずの人物が座っていた。


「……これは、これは……あの世から遊びに来られたのですかな?太閤様、いや秀吉様」


ただ、持ち前の図太さからすぐに持ち直し、言葉を繋いだ。

後ろで引き留めようとしていた、重綱と氏直、その後に付き従っていた成実、氏勝は、秀吉を見て固まっていた。

流石に、腰を抜かすことはなかったが、政宗以外は青ざめた表情をしていた。

内心、政宗も恐怖を感じたが、表に出すことはなかった。


「なんじゃ、政宗、来たら悪いか」


秀吉の問いかけに、人ならざる者の気配ではなく、然りとした人の気配を感じて、政宗は平常心になった。


「いえいえ、滅相もない、秀吉様に再びお会いできて誠に嬉しく思っています」


政宗は部屋に入り、すぐさま座って平伏しながら言葉を繋いだ。


「秀吉様もやはり、お子様が気になり黄泉の世界から地上に来られましたかな」


そうお道化ながら政宗が話すと、秀吉は爆笑した。

秀永と如水も笑ったが、重成だけは射るような視線を政宗に向けたが、政宗は何ら気にすることはなかった。

政宗と秀吉の言葉のやり取りに意識が戻り、氏直らは政宗のように座り平伏した。


「た、太閤様におかれましては」

「良い良い、気にするな酒宴ぞ氏直、わしは足もあるから、化けたわけではないぞ。そこの戯けは分かって言っておるぞ」


そう言いながら、秀吉は笑いながら氏直の挨拶を遮って笑った。


「後ろにいるのは、成実か。こんな戯けた事を言うやつではなく、秀永に仕えぬか」

「申し訳ございませぬ。我が主は政宗様のみにて」

「戯けものの癖に、家臣は慕っておるなぁ」

「ははは、私の魅力でございます」


そう言いあいながら政宗と秀吉は笑いあった。


「高台院様もご無沙汰しております」

「政宗殿も相変わらずですね」


政宗の挨拶に、寧々は頷いた。


「政宗の後ろに居るのは、誰かな。中々の若者、秀永に推挙するのか」

「いえ、この者は景綱の子重綱でございます」

「ほう、あの景綱のか、おや、景綱はどうした」

「何分歳ゆえ、国内の領地を見てもらっております」

「ふむ」

「景綱さんの体調を崩していると聞いていますが」

「今は大丈夫です。しかし、景綱も歳ですから体調も崩すこともあり、無理はさせられません」

「そうか、政宗のせいだな。気苦労が多かったろう」


政宗の言葉に、成実は軽くうなずき、重綱は無表情であった。

政宗はちらりと二人を見ながら、口をへの字に一瞬だけした。


「景綱には傍にいてほしいですが、国元を任せられるのはあのものしかおりませぬゆえ」

「それで、お主は好き勝手にしているという事か、もう少し、家臣をいたわれ」

「……秀吉様がそれを言いますか」

「如水何か言ったか」


政宗に対する秀吉の言葉に如水が反応し秀吉は聞き返した。


「はい、人の振り見て我が振り直せですな」


如水の言葉に、秀吉は顔を顰め、周囲は笑いをこらえた。

しかし、ヤマタだけは爆笑していた。

ちらりと、ヤマタを見た秀吉は肩をすくめた。


「お主に言われたら、返す言葉もないわ」

「ええ、殿下が影響を受けたせいで、三成殿や重成殿が苦労しておりますぞ」


秀吉に諌言しているようにみて、秀永にも諌言が広がった。

重成は大いに頷き、理解してくれる人がいるのかと内心感動していた。

安治は慰めの言葉をかけてくれることがあるが、今までの者たちは笑うばかりで味方になってくれなかった。


「まあ良いは、氏直、そちの後ろのものは、綱成の孫か」

「はっ、そうでございます」

「良い若者じゃな、氏直を支えよ」

「はっ」


言われた氏勝は頭を下げた。


「しかし、政宗さんは分かりますが、何故、氏直さんも来たんですか」

「どういうことですかな」

「政宗さんは、南蛮との戦いなら面白そうと来るかもしれませんが、氏直さんは国内の事もあるし、国外に出た者たちへの支援もしていたので来るとは思わなかったんですよ。真面目ですから」

「ふむ、私は真面目でないと」

「はい」


政宗の言葉に、満面の邪気の無い笑顔を秀永は向けた。

その笑顔をみて、政宗は言葉に詰まった。


「っ、まあ、楽しければ良いのです。一度きりの人生ですからな」


政宗は苦し紛れに言葉を続けた。


「で、氏直さんは、どうされたんですか」

「はっ、政宗殿が東から帰国され、殿下への報告で大坂に来られた際、殿下が不在であると知り三成殿から高山国行を知り、後追うために港で準備していた際、私も港におり話をしていたら、いつの間にか来ることになっておりまして……」

「巻き込まれたのですか」


そう言って、秀永らは笑った。


「そうですね。ただ、話している時に、私も行ってみたいとは言ったんですが、まさか。それに、政宗殿はいつの間にか氏照伯父上に話をつけていて、送り出される始末でして……」


氏直は困惑の表情を浮かべた。


「氏直殿の希望を叶えたのに、この言い草は……心が傷つきますなぁ」


わざと政宗は傷ついた表情をしたが、誰も同上はせず、成実に至っては蔑んだ目つきをしていた。


「流石に、私も勝手にした訳ではありませんよ。氏直殿の気持ちを聞いて、氏照殿と話し合って了承を得てますよ」

「氏政さんではないのですか」

「氏政殿は、早雲寺の方に行っていて不在でしたので」

「なるほど」

「来たいとは言いましたが、まだ、やる事残ってたんですけど……」

「氏照殿が請け負うと言ってましたよ」

「そうですか、ところで、氏照殿だけですか、来たのは」

「いえ、慶次郎もおもしろそうだと一緒に来たんですが、着いたと同時に遊郭の方に行きましたよ」

「慶次郎さんらしい」


そう言って、秀永は苦笑を浮かべた。


「で、政宗、土産はなんだ」


話がひと段落着いたと感じた秀吉が、政宗に土産を催促した。


「おお、そうでした、重綱」


政宗がそういうと、重綱が傍らに置いた箱を政宗の前に置いた。


「実は、国元に帰った際に、伯父上から鮭の塩漬けを何匹か頂きましてな。殿下に合うと伝えると、さらに追加で手渡されまして。殿下に鮭の養殖方法を聞いてから、殿下に心酔しておりますから……」


そう言いながら珍しく、政宗は目線を植えに上げて、天井を見ていた。

厳格で領内を納め、謀略にも長け、気の抜けなかった義光が、秀永に鮭の養殖方法を聞いた後、何か意味の分からない自慢話と秀永への称賛の書かれた称賛の書状を渡された事を思い出していた。

其処まで親しくはなく、反目していたと言っても過言ではないのに、なぜか、鮭に関しての事だけは楽しそうに話してきた。

だけではなく、長時間の話になり、政宗は拒否することもできずに聞き続け、精神的に疲れる事が多かった。

今では、シベリアにいる義康、政道に鮭の生息域と生態を知らせる様にと書状を何度もだしていて、義康に嫌がられ、政道には呆れられていたが、義姫が命じて調査は継続して行われていた。

その際に、「やっぱり、伯母上は父上と血がつながっている!」と、厳命された義康は陰で泣き、政道が慰めていた。


「ほう、これは最上鮭か」


前におかれた木箱の蓋を政宗が取り、重成がそれを受け取り秀吉、秀永の前に運んだ。

尚、ヤマタだけは立ち上がって、木箱の中身を見て、重成が睨み付ける一幕もあった。


「順調のようですね」

「はい、今は蝦夷と連絡を取り合い、養殖を広げようとしているようです」


秀永は政宗から話を聞いて頷いた。


「では、これを調理してもらいましょうか」


そう秀永が言ううと、重成が小物たちを呼んで鮭を運び出した。

そうしていると、そっと、寧々が指示していた政宗たちの全も運び込まれ政宗たちも酒宴へ参加することになった。

重綱、成実、氏勝は最初は遠慮しようとしたが、秀吉が参加することを命じ、秀永が賛同したため、参加することになった。


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