第百ニ十ニ話 宴会
皆が宴会場に入ると、秀永と寧々が既に座っていた。
秀永の近くでは、重成が緊張した面持ちで立っていた。
「おお!秀永よ、元気であったか!」
秀吉は大きな声で秀永に声をかけながら、秀永の元に行き背中を叩いた。
秀永は苦笑しながら秀吉を見た。
隣の寧々は、ニコニコしながら二人のやり取りを見ている。
「父上もお変わりがなく、嬉しいです」
「そうじゃな、関白をひいて表舞台から去ったら、気苦労もなく、快適な生活だわ。かかぁに旅に連れて行けるしな」
「ほほほ」
秀吉の言葉に、寧々は笑った。
「重成!座れ!」
「い、いえ護衛が」
「どうでも良いわ、そんなもの他にしっかり行っておる!」
「重成さん、座ってください」
「は、はい」
ふたりが話している間に、皆が席に着いた。
本来なら立場を考えて席に作るのだが、秀吉の意向で席は自由とされた。
参加した、秀吉、寧々、秀永、孝高、嘉隆、武吉、安治、重成、イサーク、ヤマタと人数も少ないため、座る位置は円に配置された。
若い女中たちが入って来て、皆の盃に酒を注いでいった。
「では、飲もうではないか!」
秀吉の言葉に、皆は盃を掲げた。
皆は酒を飲みながら、料理を食べ始めた。
秀永は、イサーク、ヤマタらが箸をまだ使えないと思ったが、呂宋に拠点を置いた時に、明の商人との会談もあり、箸の使い方を覚えていたので、料理を周りとともに食事をした。
『イサーク』
そう言いながら、ヤマタはイサークに酒を注いだ。
『総司令官』
そうイサークは言うと、ヤマタはにやりとした。
『名前は変えたぞ、お前もどうだ?』
『……ああ、そういえば、名を変えられたんですね』
『ああ、秀永様に諱を与えられたら、完成だ』
『何が完成するんですか……』
『ははは、それとお前と俺は、同格の同僚だ、敬語は不要だぞ』
そう言って、ヤマタはイサークの肩を叩いた。
イサークは苦笑を浮かべ。
『そうですが、まあ、この話し方は誰に対してもしていますよ』
『そういえばそうか、で、名はどうする』
肩をすくめながらイサークは答える。
『変えませんよ、めんどうです』
『へぇ、お前なら祖国を裏切る事を悔いて、名を変えて過去を断ち切るかと思ったがな。まあ、降るとして、秀永様に仕えるとは思わなかったがな』
再び苦笑をイサークは浮かべた。
『スペインは、ヨーロッパでは強国です。今が絶頂期に見えます』
『なら、何故、寝返った?』
『絶頂期の後は没落です。王が有能であれば、危機感を持つでしょう。大臣が有能であれば、王に献策するでしょう。しかし、彼らは今の現状に満足し、さらにその興隆が続くと錯覚しています。無敵艦隊が敗れた時、気が付くべきでしたが、彼らは現実から目を背けた』
『ふむ、だが何度も敗れたが、かと言って国力は其処まで落ちていないぞ』
『そうですね、イングランドも勝ちましたが、まだまだ、国力差はあるでしょう』
『だろ』
『でも、あの国は閉鎖的です。何か新しいものを産み出す熱を感じません』
『歴史が長ければ、確かに体制は固まっているから、仕方ないだろう』
『ええ、しかし、この国は、今まさに新しい体制で熱気があります。そんな中で自らの力を試してみたいのです』
『ほうぉ』
ヤマタは、イサークの事を理詰めで、真面目で融通が利かない優等生と見ていた。
才能はあるが、野心もなく、現状の変化を嫌っているのかと思っていた。
『まさかなぁ、お前がそんな考えを持っていたとは……俺の見る目もまだまだだな』
ヤマタの言葉に、イサークは含み笑いをした。
『いえ、私はヤマタ殿が思っている通りの人ですよ』
『そうか、今話していた内容が、昨日今日、降伏してから芽生えたとは思えない』
『その通りです。しかし、降伏した後、日本の将兵と話、作られた、整備された街や港を周っていると、私も何かをやり遂げて、残したいと思うようになったのです……そうですね、私の心の奥底にあったんでしょう』
そう言いながら、イサークは酒を飲んだ。
その姿を見ながら、ヤマタは満足そうにうなずき、笑った。
『ははは、今のお前の方が好感が持てるぞ。前もなかなか役にたつ部下と思っていたがな。同僚としては今が良いな』
ヤマタはイサークの背中を上機嫌で叩き、イサークは苦笑するしかなかった。
「あなた様、あの二人が南蛮の」
「多そうだ、まあ、あのヤマタというやつは、ふてぶてしくて油断が出来ぬ、おもしろいやつだ」
秀吉の言葉は、ヤマタを危険な存在として見ているような言葉に聞こえたが、寧々は微笑んでした。
「なるほど、乱世にゴロゴロいた人たちと思時という事ですね」
「そうだ。国内でも野心溢れた者がいるが、外にもどうような奴がごろごろいるんだろうな」
「確かに、秀永の話でも争いのない平和な国は、ほぼないと言っていましたね」
秀吉は大きくうなずいた。
「だからこそ、野心を持っているものを使う器があれば怖くないし、面白き事よ」
秀吉の言葉に、寧々は苦笑を浮かべた。




