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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第百十一話 隆季

倭寇は南で、海賊は北の位置で、距離を取りつつ高山国に向かっていた。

特に風もよく、問題なく進んでいた。

監視をしている者たちは眼を凝らしながら前方を見ていたが、船影は見えてなかった。


「頭ぁ、奴ら見えませんなぁ」

「そうだな」

「見えるのは、倭寇と海賊、後方のスペインの連中も見えないですなぁ」

「そうだろう、奴らは俺たちが日本の連中とやり合っている時に来るつもりだろうよ」

「獲物を横取りですかい、俺たちと変わらないですなぁ」

「ま、奴らはこちらを見下して、馬鹿にしているからな」

「ええ」

「その油断をしている穴だがな」


にやにやしながら頭目は子分と話していた。


「日本の船が見えたら、戦わず被害を抑えてそのまま避けつつ高山国を目指す、今なら手薄だろう」

「略奪し放題ですなぁ」


二人は笑いあった。


「あっちの海賊連中も同じ思惑だろうよ、日本とスペインが潰しあってくれれば、俺たちもおいしいし、多分、明や朝鮮は負けているだろうから、良い流れになってそうだしな」

「へへへ、そうですなぁ、高山国を荒らしてねぐらに戻って情報を集めて、動けばよいですなぁ」

「そういう事だ」

「頭ぁ!」


周囲を監視している子分の声に頭目は体を向けた。


「どうした!」

「前方に船影!」


その声に周囲にいた子分たちが動き出した。


「帆を広げて、とっぱするぞ!」

「「「おう!」」」


頭目の声に周囲の子分は声を上げた。






「あっちの連中も猿の船を見つけたようだな」

「そうですね、まあ、どちらも猿だから匂いでもあるのですかね」


そう言って周囲は笑い出した。

スペイン海軍と同じように、キリスト教徒、白人以外を見下した言動をしていたが、彼らにしてみれば、それが揺るがない真実と思っていた。


「まあ、あっちもまともに相手する気はないだろう」

「避けて、高山国を襲うんですな」

「そうだ、あそこも広いからな、まあ、被らなければ見逃してやってもいい」

「ですな、邪魔すれば潰せばいい。大砲も、鉄砲も少ない連中ですから制圧は直ぐでしょうよ」

「いや、攻めれば逃げるだろ、しつけは大事だな」


その言葉でまた笑い声が広がった。


「馬鹿軍人どもと精々潰しあってくれればいい。今の高山国は日本によって豊かになっている所もあるだろうから、奪い放題だ、野郎ども、いくぞ!」

「「「おう!」」」






隆季に率いられた早舟は、倭寇や海賊よりも早く船影を見つけていた。

その為に、既に大砲やバリスタなどの用意を済ませていた。


「坊、船を二手に分けると」

「倭寇と海賊にぶつける」

「しかし、船数が……」

「早舟だから相手からの攻撃は受けにくい、それに奴らの事だから、後ろのスペインと潰しあいをさせたいはずだから、まともに組み合わないだろう」

「しかし……」

「南から隆重、北から久隆で倭寇と海賊の側面をつかせる予定だ」

「取り逃がす連中も出ませんか」

「そもそも船数が違いすぎるから、後続に父たちに任せる」

「まともに動けないようにすればいい、距離を取られないように、帆を含めて潰せばいい。陸地に攻めようとしても陸地の防衛は済んでいる。陸地に上がれば潰せる」

「……分かりやした」


そう言って、家臣は周囲に指示を出しに行った。


「そういえば、あっちは、堀内(氏善)の爺様が指揮していたな。なんで、元海賊衆の爺様たちは元気なんだ……」


隆季はそう言って呟いたが、それを聞いた家臣は、あなたも危険を負っても運用するから同じ穴の狢だろうと思ったが、口に出すものはいなかった。







隆季の船の船影がギリギリ見える距離で、隆重と久隆は航走していた。

すると、隆季の船から光がちらちらと光ってみてた。


「坊、隆季様の船から合図ですぜ」

「では、我々は北上するぞ」


その隆重に船団は北東に船の針路向け、同時に久隆の船団は南東に針路を向け始めた。






「頭ぁ、奴ら、二手に分かれるようですぜえぇ」


船影を見ながら子分か、日本の船団が二つに分かれるのを見た。


「南西に針路を向けて、あいつらをかわすぞ」

「しかし、やつら分散して船数少ないから沈められませんかぁ」

「馬鹿野郎、こっちは、大砲も鉄砲も少ないんだぞ、接舷して乗り込まないと勝機は少ないし、乗り込んでも奴らと斬り合えば分が悪い」

「あっちは、二つか三つぐらいですぜぇ」

「そうであっても、こっちは寄合だぞ、他の頭目共のが協力するとは思わんぞ」

「確かにそうですなぁ」


そう話しているうちに、日本の船が近づいてくる。


「頭目!奴らの船が!」

「なんだ!」

「見てください、もう近くまで来てますぜ!」


その声に、頭目は改めて、前を向いた。

少し話している間に、船影がはっきり見えた。


「なんだありゃ、早い、早すぎるな」

「他の頭目たちも針路を変え始めてますぜ」


さらに頭目は他の倭寇の船を見直した。

大体三つに分かれていて、率いているのは全体の三分の一ほどで、他の倭寇はそれぞれの頭目が率いていた。

他の二つは更に南に針路を変え始めるものと、日本の船が少ない事を見てぶつかるものに分かれた。


「ちっ、まあいい、やつらが日本の船を引き付けるなら俺たちは逃げるぞ」

「「「へい」」」






「提督、こちらに二隻ほど向かってきますね」

「馬鹿なのか、やっぱり猿だな、戦いを理解していない。地上だけではなく海上だけでも数が全てだ。たった二隻で、俺たちに向かってくるとは、蛮族は蛮族か」


そう言って、提督は大きく笑い出した。


「他の連中も同じ考えのようだな」


周囲を見てみると、当初は正面で避けよう動いていた船が、来る船に向かうように針路を変えていた。

それを確かめて、提督は考えた。


「これは、同士討ちを狙った作戦か」

「そうですか、やつらそんな猿知恵ありますか」

「船団を考えれば、砲撃が当たる可能性がある」

「それは確かにそうですね」

「まあ、別に戦って無傷で勝てるかもわからないから、俺たちはこのままの北西に向かうぞ」

「良いんですか」

「別に狙いは日本の船を沈めるのではなく、略奪だからな」

「確かに」


そう言いながら北西の針路で進んでいった。






「射程ギリギリに入ったら砲撃を開始しろ」

「氏善様、船首の方は一門ですし、当たらないかもしれませんが」

「構わん」


家臣たちは不満げな表情で命令を実行した。

砲弾は倭寇の船団の先頭のすぐ近くに落ち、家臣の予想通り当たらなかった。

しかし、倭寇の方がスペインの方では届かない距離なのに、間近に砲弾が落ち慌てたのか船団が乱れた。


「敵の大半が南に流れていきますな」

「あれは、あっちが対処するだろうよ、こっちは目の前の連中を潰せばいい」


そんな話をしている間に更に倭寇との距離を詰め、砲撃の射程に捉えれる距離となった。

しかし、倭寇の船団は乱れたまま西に進み、接舷する予定が崩れてしまった。


「少し北に向けつつ、右舷ので砲撃を行いすれ違った後、後方のバリスタで燃える水をぶつけてやれ」

「はい」


氏善は倭寇の北側を進むように航走しながら、砲撃を連続で行い続け倭寇の船にダメージを与え続けた。

砲弾だけではなく、炸裂弾も併せて砲撃し数隻を沈めたり、航行を不能にしたりした。

そして、すれ違った時に後方のバリスタから燃える水に火をつけ、倭寇の船に放った。

ぶつけられた船は火が広がっていた。


「敵は、ほぼ壊滅したな」

「ええ、初弾で混乱した影響あったのかもしれませんが、砲撃もありませんでしたからな」

「やっこさん、火力がないから接舷で潰せると思っていたかもしれんな」

「ああ、そうかもしれませんね」

「もういい、もうまともに動けないだろう。六隻か」

「そうですな、南に逃げたのが四隻、南西に逃げたのが七隻ですか」

「なら、六隻を潰しに行くか」

「北側の海賊はどうするで」

「九鬼の若いのが何とかするだろ」


氏善は興味をなくして、次の獲物に向けて針路を南東に向けるように命じた。







海賊たちは、二手に分かれて、日本の二隻を挟んで攻撃するように船を操作していた。

それを見ながらあえて、隆季はその二手にわかれた真ん中を移動するように命じた。

家臣たちは、反論することなく、粛々と配置に付き、船を操作し風を帆に当て速度を速めた。


「坊、覚悟はよろしいか」

「なんの覚悟だか」


そう言いながら、隆季は肩をすくめた。

流れ弾に当たる可能性はある。

船での戦は、下は海であり、外洋であるこの場では落ちれば、船が沈めば逃げることなく死ぬ可能性は高かった。

救助船や脱出船など、小型の船もあるが、人数が限られている。


「相手は海賊だ、日本の海賊の流儀と力を見せれば良い」


隆季の言葉に、周囲は頷いた。

真ん中を突っ切る為、砲撃の距離の優位性はない。

しかし、砲弾の種類は、通常砲弾と炸裂弾があり、通常砲弾も飛距離と貫通力が増すように工夫されていた。

話している間に、船は早くも海賊の船の間を通ろうとしてた。


「撃て」


短く隆季が支持すると、左右の大砲から一斉に砲撃が開始された。

通常砲弾と炸裂弾を撃つ大砲を並べて放っていた。


「照準は大体で良い、どうせ撃てばその方向に敵がいる、気楽に撃て」


海賊船が並行して航走する真ん中を通る為、撃てば当たると隆季は言い放った。

そして、その言葉が正しいかのように、外す砲弾もあるが、確実に砲弾は敵を捕らえていた。

海賊船から放たれる砲弾は、直近に落ちたり、船首・船尾の一部を壊してはいたが、深刻な損傷は受けていなかった。

まして、飛距離は日本が上の為、海賊船の大砲の有効距離であれば、放った砲弾は確実に海賊船に甚大な損傷を与えていた。


「敵は、砲撃が苦手なのか」

「いえ、こちらの船の速度が速いので、捕らえる事ができないんじゃないですか」

「確かにそうだが、針路方向は分かっているのだから予測して撃てば良いんじゃないか」

「確かにそうですな、だから船首や船尾に掠っているんでしょう」


敵に炸裂弾はないため、直撃でもしない限り問題はなかった。

日本側の砲弾は、有効射程距離よりも近いため、速度が落ちることなく、海賊の船に突き刺さったり、帆の柱にぶつかり被害を与えていた。

日本側の一方的にも思える砲弾を撃ち合いながら双方通り過ぎた。

しかし、海賊側の船は直撃が少なかったが、船体に大きな穴が空いていたり、炸裂弾によって甲板が酷い有様になり人的被害もでて、度の船も速度が落ちていた船が過半数だった。


「いったん南下し、再度ぜんっぽうに回り込みながら円をかくように北に回り砲撃を加える。右の砲撃手は左の砲撃の補助に回れ」

「敵の船に乗り込まないので」

「要らない、下手に乗り込んだらこちらに飛び乗る可能性もある。無駄に兵を減らす必要はない。砲撃で沈めれば良い」


そうして、回り込もうとすると、損傷が少なく動ける船が三隻ほど北上して逃げ始めた。


「坊、船尾の監視から逃げる奴がいるらしいですぜ」

「まあ、それは弟達が始末するだろう、今は残っている連中を沈める」

「では、残り九隻の止めを刺しますか」


惰性で航行している九隻に止めを刺すべく反転させ始めた。


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