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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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第百五話 安治

朝鮮から来る船団を偵察する為に、物見の船を周辺に出して、情報を安治は集めていた。


嘉隆たちと話が終わった後、直ぐに、配下に指示を出して行われた。

その際に、五島列島の海賊衆にも依頼し、対馬の代官にも要請を行った。

博多の商人たちにも情報を得つつ、安治は壱岐に向かっていき、そこで状況確認を行った。


明は九州や琉球ではなく、台湾に向かう予定だと明に潜入している忍びや、明の商人たちから情報を得た為、正綱は琉球へ向かうのを止め、台湾に留まった。

嘉隆と武吉は、高雄に駐留して、周囲に物見の早舟を大量に出して、ポルトガル、スペインの船影を探していた。

大海に出れば船を見つけるのは至難であり、近づいてくるのを待って、迎撃する事にしていた。


安治は、配下からの報告に目を通していた。


「予想していたより、船の数が多いな」

「それは、無理やり漁船を徴収したのでしょうか」


安元の問いかけに、手を左右に振り答えた。


「いや、明の船の一部がこちらに来ているようだ」


安元はその言葉に眉を顰めた。


「船の数で言えば、元よりこちらが不利。明が軍勢をよこしたとなると、このままでは厳しいのでは」

「兄上、そんな弱気でどうする!」


安信の言葉に、安元は目を吊り上げて、怒りの表情を浮かべた。


「安信、若輩者が利いた風な言葉を言うな!」


そう安信を怒鳴りつけた。

それに対して、安元に安信は反論した。


「ここ此れに至れば、四の五の言い、弱音を発するべきではないだろう!そんな事を言っても敵は逃げてくれぬぞ!」

「貴様!」


そう言いながら二人は、胸ぐらをつかまんばかりに近づいて行った。


「静かにせんか!」


安治が一喝し、二人はその場で棒立ちになった。

戦場で鍛え上げられた安治の声は、二人の身体が硬くなるほどに、殺気があり威圧するものであった。


「安元、お主の危惧は分かっている。だが、不利だからと言って、この場から撤退する事は出来ん。分かっているだろう」

「は、はい、分かっています。それゆえ、五島の海賊衆や対馬のもの達と協力すべきと考えています」

「そう、それが分かっているなら良い。安信」

「は、はい!」

「お主の勇ましさは良い、私の若いころに似ている……が、安元が慎重な意見を言っている時に、詰るような言いようはみっともないぞ」

「すみません」


安治の言葉に、安信は頭を下げた。

二人の姿に、安治はため息をつきながら座りなおすように促した。

座ったのを見ながら、安治は首を撫でた。


「五島の海賊衆は、残っているのは魚を取って暮らしている者が多い。大半のもの達は、こちらの軍に合流しているから、そこまでの戦力はない」


その言葉に安元は頷いた。


「出来るのは漁をしながら敵の動向を探ってもらえれば十分かと」

「ああ、殿下から頂いた望遠鏡だったか、あれを渡してある。もし、明が高山国ではなくこちらに向かって来た場合は、陸に退きつけながらの戦いになるだろうが、面子を気にする明は、高山国に向かうだろう」

「それで、一部の船と朝鮮の船で、こちらを攻めさせると」

「領外として、領地としての認識がなかったかもしれないが、南蛮あたりが煽って、自領を占拠されているのは問題ではないかとでも吹き込んだんだろう。忍びの報告では、それに類似するような事が書かれていた」

「なるほど」

「それでは父上、何故、一部とは言え、戦力の船の朝鮮にまわしたのでしょうか」

「これも忍びの報告だが、朝鮮はこの一件乗り気ではないものが大半だったらしい。しかし、明からの要請の為、兵を船を出さなければいけなくなったこと。一部のものが、博多まで進めて略奪をすれば利になると解いてまわった為に納得したようだ。朝鮮の王は、かつての元朝による出兵を思い出して、不吉な事と行ったそうだ。賛成派がそれを聞き、当時の雪辱を晴らせると説得したようだ」

「これはまた、……」


安治の言葉に、二人は呆れた表情を浮かべた。

雪辱と言いながら賛成派は、博多などを荒らして、財を得れる為に説得したのだろうと思った。


「まあ、あちらの将にも有能なものもいるようだ。殿下からは気を付けるようにと言われている。明も朝鮮も官の腐敗は手が付けれないようだが、将はまともな者も居るようだからな」

「ほう」


その言葉に、安信は好戦的な表情を浮かべ、安元は呆れた表情を浮かべた。


「倭寇退治の協力もしてきたが、あちらの役人は態度がでかくて、見下した言葉が多かったよ。明もそうだが」

「そうでしたね……」


二人の表情を見て、安信は憤慨した表情を浮かべた。


「まあ、あちらはこちらが下位と見ているのだろうが、最近はましだが、公家や坊主どもの相手をしていると思えば、大差ないわ」


安治の言葉に、二人は苦笑を浮かべた。


「だからと言って、手加減する気はないが、兵たちの士気は最低らしい。倭寇退治をしたり、海で問題がある時に助けてくれたりしているこちらより、役人の方が憎いらしいからな」

「そういえば、明の書物を読んでいると、明では兵に支給されるべき物資や給金を減らして、懐に入れるものがいて処罰される事もあると」

「そうだな、それに集められた兵たちは元は漁師や農民だ、好き好んで戦に出るわけがない。我々と違って、官の腐敗あれど、諸国乱れた乱世と言うわけでもなかっただろうからな」

「……では、父上、離反をかけれるのでは」


安元の言葉に、安治はにやりと笑った。


「ああ、別にこちらとしては、あちらに攻める気は一切ない。攻められたから先制して攻撃し迎撃するだけだ。無駄に血を流す必要もないし、こちらも流したくない」

「しかし、逃亡すれば、後々罰せられるのが嫌で、倭寇と称して賊になるのでは」

「安信の考えはありえる。なので、指揮官の乗る船を早々に潰して、潰走させればよい」


安治の言葉に、二人は眉を顰めたが、意味が違っていた。


「敵の指揮官の船だけとは、難しいのではないでしょうか」

「それだと活躍の場がない」


安治は二人の言葉に、笑顔を見せた。


「指揮官の船は、将旗が立っている。その船めがけて、突撃すればいい」

「はあ?!」


安元は驚愕の表情を浮かべた。


「そんなことは自殺行為ではないですか」

「無理ではない。ガレオンとナオで周辺から砲撃している間に、戦舟で突進する」

「無謀です!」

「大丈夫だ、南蛮船との戦いは初めてだろう。まして、大量の大筒を使った戦いの経験は少ないだろう。まして、炸裂するような砲弾を受ければ、相手も恐怖し混乱するだろう」

「しかし……」

「相手の港周辺位に、機雷を配置しておく。それをかわして、出てくる船はそこまで多くあるまい。港の近くであれば、沈んだ船のもの達も陸に逃れやすいだろう。生き残れると思えば、未知のものに攻撃から逃げたくなるものだ」


それでも、安元は苦い表情を浮かべた。


「父上、俺は戦舟にのれるのですか」

「安元はガレオン、安信はナオを指揮してもらう」

「え、何故」

「まさか、父上は死ぬ気ですか」

「お前たちは……」

「そうとしか思えませんが」

「陽動と遠方からの攻撃であれば、家臣たちが補佐に付けば、お主たちなら十二分な戦功を上げれるし、任せられる」

「しかし、一番危険な事を……」

「わしはこの戦を最後と考えている」

「やっぱり!?」

「だから、勘違いするな。この戦が終われば隠居して、安元に家督を譲る」

「……」


安治の言葉に、安元は先の会議での嘉隆たちの話を、ふと思い出した。


「まさか、父上……」

「ん?なんだ」

「嘉隆様を散々批判しておいて、同じことを考えているのでは……」

「あやつらと同じにするな。本心で、隠居してゆっくりするつもりだ」


その言葉に、安元は疑いのまなざしを向ける。

そのまなざしを逃れるように、安治は咳ばらいをした。


「これに勝利すれば、大規模な海戦は今後、しばらくは起きないだろう。なので、お前たちの指揮を見せてもらって、納得したいのだ」


安信は、安治の言葉に感動した表情を浮かべたが、安元は信用しなかった。

落ち着いているように見せているが、安治は賤ヶ岳で武功を上げた一人。

性根は変わっていないと思っていた。


「まあそれに、機雷によって、あちらが出向してこない場合もある」

「ありますか」

「ある、兵士の士気が低すぎる。下手に船を出して、船内で反乱を起こされたら押える事は出来ないだろう。まして、これは、守る戦いではなく、攻める戦い。こちらが侵攻していたら、家族を守るため必死になるかもしれないが、こちらは侵攻する気はないからな。兵や民は敏感だぞ、そういう所は」

「で、忍びや商人たちに噂を広めさせていたのですね」

「ああ、前から、商売はしたいが攻める気はない。倭寇討伐も交易の為にしているとな。実際、そういう風に博多の商人たちや海賊衆の残っているもの達も動いていたからな。上がいくら叫んでも、元から信用されていないのだから、どちらを信用するかは」


安元は、納得したように頷いた。


「機雷の設置は、安元と安信が行え、相手の港付近に近づいた時は、半月になっているはず。夜目の利く連中を付ける。夜のうちにやってこい」

「あの鉄でできた紐は必要なんでしょうか」

「船が出たら巻き付くようになる。何度か、実験したから問題ない」

「分かりました」

「設置するのは、明と朝鮮の指揮官のいる場所だけで良い。他の場所は様子を見る」

「わかりました」


そう言って二人は、準備をする為に陣屋を出て行った。


「まあ、多分、大規模な船での戦いは起きないだろう。問題なのは、終わった後だ……」





壱岐を出港した、安治の船団は一度対馬に立ち寄り、情報を確認した後、明と朝鮮の船団が集まっていると言う釜山に向かった。

一部は、済州島にいるが、偵察と明との連絡用の船があるだけだった為、放置していた。

安元、安信によって、港の周辺に機雷の設置が行われた。


明・朝鮮の軍は、安治の船が近づいてくることを、商人や漁師たちから情報を仕入れていたが、まさか、こちらが出向する前に、向かってくるとは思っておらず、対応を討議する事になった。

しかし、指揮官や上層部は、文官が多く、戦いを経験していないものばかりであった。

武官は蔑まれ、また、有能な将も戦功をあげられたくない為、遠ざけられ、釜山にはいなかった。


迎撃すると決まったのは、安治の船団がかなり近づいてからで、機雷の設置後であった。

そして、出港した明の指揮官の船が機雷に接触し沈没。

朝鮮の指揮官も同じ運命を辿った。

その後、指揮官が変わり、船団が出向していったが、機雷により沈む船が出た。

しかし、船の数が多かった為か、被害を受けながらも船団は港を出た。

港を出て、陣形を整えようとしたところに、待ち受けていたガレオン、ナオの船が移動しながら、遠距離で攻撃を繰り返して行っていった。

また、想定していた以上の離れた距離からの攻撃と、爆発音により兵たちは混乱し、まとまった行動をとることが出来ず散り散りになって、逃げ出していった。

元々、兵の士気も低く、将の指示を聞くことがない船も続出した。

明も朝鮮も今回の派兵に否定的な将は更迭され、賛同したものが将となっていたが、更迭された将は人望も能力も高かったものも多くいた。

その事も両国の災いになった。

安治の予想通り、全軍による戦いは起きなかった。


安治は、海に投げ出された者たちを拾い上げ、武装解除していった。

逃げた船では、将が逃亡に賛同もしくは率先したものは命が助かったが、反対したり、恨まれていたものは殺害され、船を乗っ取られて逃亡していった。

ただ、船の被害は多かったが、将などの被害があっても、兵の被害は少なかった。

重装備の将は溺れる者が出て命を失ったが、兵は軽装であり、海に投げ出されても、木片に繋がったり、海岸が近かった場合は、泳いだりして逃れていた。


「やれやれ、戦う事がなかったか」


安治は大きくため息をつきながら、機雷の回収と、港へ使者を派遣した。

使者には、港を攻める意思はないと伝えさせ、また、助けた将兵を送り返すと伝えた。


使者の言葉に、港のもの達は疑ったが、助けた兵を引き渡したのち、日本の船が去っていくのを見て、本当だったんだと喜んだ。

略奪が行われるのではないかと、おびえていたためだ。

ただ、使者が逃げて行ったもの達の行動は保証できないから、警戒はするようにと言っていたことを思い出し、港のものたちは、周囲を警戒するように自警団を作った。

残っていた明や朝鮮の役人も居たが、戦に敗れた事を知って、明の皇帝への報告や朝鮮の王への報告をどうするかで言い争っており、役に立たなかった。

また、残っていた兵たちも暴漢になる恐れもあった為、港の住民はそれらにも警戒が必要であり、返還された将兵の扱いにも苦慮する事になった。






安治は対馬に戻り、逃亡した明・朝鮮の兵たちに備えた。

賊になり、対馬や五島あたりに来る恐れもあったので、配下に警戒させていた。

また、隠岐にも注意するように配下を送った。

その後、顛末を台湾に居る嘉隆、武吉、正綱に安信に書状を持たせて送り、京の秀永には、安元に書状を持たせて送った。

秀永には、朝鮮との交渉をする使者を送ってもらうように依頼した。

多少言葉は分かるが、交渉となると難しい。

その為、専門の者を送ってもらうように依頼した。

宗氏や博多の商人などを使えば良いが、宗氏は動向に信用が置けない為、対馬から領地替えが行われ、こちらにはいない。

下手に関わらせれば、領地替えの恨みを果たされる恐れもあるので、使えなかった。


「まさか、指揮官に突撃すると言って、行わなかったのは、少し恥ずかしいな。しかし、乱捕りできなかったから、嘉隆殿たちに何か言われそうだが。まあ、残党と海賊を攻めて、何か得れれば誤魔化そう」


そう安治は呟きながら、戦後処理を行った。

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