第百四話 嘉隆
船の性能、武器などはあくまで、創作です。
呂宋からスペインの船団が出港の準備を終えたと早舟での知らせがあり、高山国に集められた船が警戒態勢に入っていた。
呂宋からの航海日数を考え、周辺に早舟を出して、情報を集めていた。
秀永は、蒸気船の研究を行っていたが、現状では実用に耐えれるようなものは作られていなかった。
その為、クリッパーを早舟として建造し、戦列艦を元に鉄張りにして戦舟を建造した。
それ以外にもガレオンやナオを作り、輸送や陽動など、用途に応じて、組み込みながら船団を作り上げた。
手探りを抜けて、形になり始めていたが、実践運用は、倭寇などの小規模な海戦のみで、大規模なものはまだだった。
今回の戦いは初めての、大規模な海戦になると思っていた。
呂宋からは、ガレオンが6隻主体の船団で50艘ほどで、なかには商人の船を接収したものも含まれていた。
日本に勝利した後の権利と、奴隷貿易を認める事を条件に協力させたと情報を手に入れていた。
また、澳門からも、ポルトガルの8隻のガレオンが主体の船団が出港していて、スペインの船団と協力して攻めてくると密偵から情報が入っていた。
同時に、杭州に集められた明の船団が向けて出港し、それに合わせて朝鮮からも船団が出港する。
朝鮮は、日本に攻める気はなかったが、宗主国である明の命令と、倭寇討伐を理由に対馬へ向けて進む計画らしい。
国内が治まれば、今後は海での海戦が重要と言うのは、予想できたので、各地の海賊衆を集め、海軍として命令系統を整理した。
当初は、反発からの叛乱などがあったが鎮圧し、海軍を作り上げた。
海軍を運用する司令部を作り、長官には九鬼嘉隆を据えた。
副長官には、村上武吉、向井正綱、脇坂安治を配置し、それぞれの海賊衆の主だったものを幹部として取り込んだ。
将来的には、現場の司令部と、作戦立案し現場への指示を行う管理部門を作りたかったが、そこまでは行えなかった。
それぞれの海賊衆が固まり、勝手に動かないように、情報伝達が行いやすくなるように、各船員の配置は属していた海賊衆に関係なく行った。
もめ事も多く発生したが、海の上では一蓮托生であり、いがみ合っていては命に係わるとして、運行時はもめる事も少なかった。
その後、海賊衆以外のものたち、流民や農家や武士の長男以外のもの達も加入して、海賊衆への所属意識は薄まってきていた。
高山国にある司令部内では、4方向からの侵攻が予想を聞き、海軍内では顔を青くするものや、怒号が飛び交ったりし、混乱していた。
しかし、長官の嘉隆は、にやにやしており、傍らにいた守隆は呆れた表情をしていた。
指揮官である武吉、安治、正綱は落ち着いていたが、慌てふためいているのはそれぞれについてきた補佐や、司令部煮詰めている者たちだった。
武吉は不敵に笑っていたが、安治と正綱は厳しい表情をしてた。
「静かにしろ!」
嘉隆が司令部の喧騒を一言で黙らせた。
「……」
皆は表情を顰めて、目を下に向けた。
「今更、がたがた言っても仕方ないだろう。そのための準備もしてきた」
その言葉に皆は目を上げ、嘉隆を見た。
にやりと嘉隆は笑った。
「戦の手柄が向こうから来るんだぞ、まして、船が手に入れば、褒章もあるし、なんなら船も貰えるかもしれない……まあ、南蛮の連中は清掃はしていないだろうから、綺麗にしないといけないだろうが」
皆は褒章と、船を貰えるなどの言葉に目を輝かせた。
「船はこちらの方が性能が良いだろうが、遊ぶ船や商売をするには良い船だろうよ」
「しかし、嘉隆殿。四つの方面からの侵攻、防ぐのは難しいのでは」
安治の言葉に、皆は頷いた。
「呂宋から50艘ほど、澳門から40艘ほど、明からは100艘ほど、朝鮮からは30艘ほどだったか、守隆」
「はい、ただ、公称では明1000艘、朝鮮は300艘らしいですか」
嘉隆はそれを聞いて小ばかにした表情を浮かべた。
「戦で誇大に言うのはよくあるが、増やしすぎだな。それに、大型の船はそんなに多くないはずだが」
「明は大型のジャンク船が200艘、中型が300艘ほど、大半は小さな漁船も含めているようで、朝鮮は大型が2艘、中型が10艘ですね」
顎をさすりながら、嘉隆は不思議そうな表情を浮かべた。
「明ならもっと大型の船が用意できるんじゃないか」
「いま、明は財政難で新型の船はさほど作られておらず、老朽化したものばかりで近海は大丈夫ですが、九州までの荒波を耐えられるものが少ないようです」
「ふむ」
「それに、主体は倭寇になるようです」
「そうか、許すから船を出せと」
「ええ、それと、日本での略奪を許し、それを功績とするという事らしいです。なので、大型中型の大半は倭寇のもののようです」
「うまくいけば、双方損害が出ると、そして、蛮族を懲らしめるという事か。手も汚さず、利と名声だけを得ると……ふん」
それを聞いた皆は、怒りの表情を浮かべた。
しかし、船の数を考えれば、双方の被害も大きく、九州の沿岸の被害が大きくなるのではと考えた。
「こちらの戦力は、戦舟が14艘、早舟が28艘、ガレオンが24艘、ナオが30か……まあ、勝てないことはないか」
「ええ、ただ、こちらは連戦が想定されます」
「確かに、一か所であれば勝てるだろう。しかし、四方向からでは難しいのではないか」
「正綱殿、確かに厳しい。かつての船であれば、勝つことは無理だったろうし、良くて相打ちだったろうな」
「その通りだ」
「安治殿も正綱殿と同じ意見か」
「うむ」
「武吉殿は、楽しそうだな」
「わかるか」
「わからいでか」
武吉と嘉隆は見合って、笑いあった。
安治と正綱はそれを苦々しく見た。
「笑っている場合か!」
安治は二人を怒鳴りつけた。
武吉と嘉隆は顔を見合わせ、やれやれと言った表情をした。
「まあ、落ちつけよ」
「そんな事を言っている場合か!」
「いい加減にしろよ、一世一代の勝負の前に、海の者がそんなことでどうする」
嘉隆の言葉に苦虫を嚙み潰したような表情を安治はした。
安治は元々海賊の出ではない。
その為、海での考え方が海賊衆とは少し違っていた。
「しかし、どうする」
安治は気持ちを落ち着かせ、嘉隆に聞いた。
「まず、朝鮮は大したことは無いだろう、そこまで本気でもないだろうし、戦舟1艘、ガレオン4艘、ナオ4艘と周辺の船を使えば潰せるだろう」
嘉隆の言葉に、安治は眉を顰めた。
「さすがに、船の数を考えれば無理ではないか」
「いや、朝鮮の船に、そこまで大筒や投石などの武器を載せているとは思えない。まして、対馬や壱岐が近くになる。いざとなれば、陸地からの砲撃で充分に対応できる。撃退すれば、周辺の島を落とす事も可能だろう」
「手を広げれば、後々面倒になると、殿下も言われていたのではないか」
「島なら賠償交渉でおさえる事も可能だと言われていた。済州島は良いが、あまり近い所は手を出さない方が良いと。また、報復として沿岸の港は攻撃しても良いと言われている」
安治は、その話に懐疑的な表情を浮かべた。
「これは、殿下や岩覚殿、如水殿などが話し合った結論だから、外れはしまい」
「そうか……」
「あと、明の杭州から出るのは流石に船も多い、戦舟3艘、早舟4艘、ガレオン6艘、ナオ8艘で対応してもらおう」
「少なすぎないか」
「近海なら明の大型船は強いが、沖合ではそこまで脅威ではない。そもそも、明も大筒をそこまで所持しているとは思えんし、所持していない」
「しかし、倭寇が主体だぞ、慣れているだろう」
「確かに、ただ、こちらも殿下から頂いた兵器がもある」
「ああ、あれか……機雷というやつか。試してみたが、効果はあると思うが、沖合でうまくいくか」
「そこは早舟を活用することで解決するしかあるまい。その為の訓練もしてきた」
「……そうだな」
「早舟には、機雷の設置と、速度による敵の射程外からの砲撃でかく乱してもらう必要がある。その為に、熟練の古参たちを多く配置しているんだ。奴らなら大丈夫だ」
「分かった」
「で、残りは、各方面の情報収集の為に配置している早舟8艘を除けば、戦舟10艘、早舟16艘、ガレオン14艘、ナオ18艘になる」
「それを二つに分けて、呂宋と澳門から敵と対峙すると」
「そうなるな。明や朝鮮と違い、南蛮は沖合の戦いにも慣れているし、大筒の使い方にも慣れている。同数程度で戦うのほらには一番いいが、無理なのだからしかたない。大筒の性能はこちらの方が上のはず、投石機を使った火壺の攻撃は難しいかもしれないが、機雷もある。乗り込めば、兵法家たちの突撃部隊もいる。なんども想定した訓練をしてきた。勝てる」
そう言って、嘉隆は力強く言い放った。
その言葉に、落ち着きを失っていたもの達は、強く頷いた。
訓練時に負傷や死傷したものを出した、これまでの地獄のような訓練を思い出して。
周囲を見て、満足するように嘉隆は頷いた。
「それで、嘉隆殿配置は」
「配置に文句を言うなよ」
武吉の言葉に、嘉隆は確認をしながら、周囲を見た。
武吉、安治、正綱は、頷いた。
「よし、安治殿は、対朝鮮を任す」
「理由は」
「あっちは、純粋に海だけの戦いだけではなく、対馬や五島との交渉が必要になるかもしれん。ならば、陸と海を知っている者が良いだろう」
「なるほど」
「対明は、正綱殿に任す」
「分かった。海戦で勝利すれば、杭州や沿岸部を攻めても良いのか」
「許可は貰っている、が、こちらにも分け前を渡せよ。そうそう、安治殿もな」
そう言って、二人を見て、嘉隆はにやりと笑った。
二人はそれを見て、苦笑しながら頷いた。
「それで、俺は、呂宋か澳門のどちらだ」
「武吉殿は、澳門だ」
「ほう、それなら、澳門まで行っても良いのか」
「ああ、余裕があればな、そちらも許可は取っている、が、やっぱり、分け前をよこせよ。こっちは、海の上だからな。流石に呂宋までは攻めれない」
「嘉隆殿であれば、行けるのではないか」
「行けても、補給が続かない。遠すぎる。下手をすれば、奴らが残存の船をまとめて、邪魔をしてくる可能背もある。攻めるなら、体制を整えてからだ。船と物資が足りない」
「そうか、それは残念だな」
そう言って、武吉は大きな声で笑った。
それにつられて、他の者たちも笑った。
「それに、呂宋を攻めるなら高山国のように、確保しなければならないからな。明や朝鮮のような国があるわけではないから、日本から人も入れて、治める事を殿下は考えているようだ」
「なるほど」
「だから、呂宋にいる南蛮の者たちを叩き出す。現地の者たちは、抵抗しなければ受け入れる。ようは、日本の民になるという事だ」
「それはなんとも」
「まあ、それは、今回の海戦に勝ってからの話だし、考えるのは殿下だ」
「おい、丸投げか」
武吉は嘉隆にツッコミを入れた。
「海のことは任せてもらうが、陸と統治は、やる気はないよ」
嘉隆はそういって、にやりと笑った。
「攻めるとなったら、安治殿と正綱殿が主体だな。うん、海は任せろ」
「いや、それは面倒事をこっちに押し付けているだけでは」
安治は呆れながら言った。
「殿下の話では、呂宋より東、遠く離れた場所に、陸地があるらしいな。そこでは南蛮が現地の者たちを支配して、銀を生み出しているらしい」
「そんなことを言っていたな」
「そうだ、そこにも行ってみたいものだな」
「……そうか、そうだな」
「いやいや、武吉殿、嘉隆殿何の話を」
「そりゃ、この海戦が終われば、守隆に家督を譲って、行っても良いかと思ってな。殿下にも話している」
「おう、それなら、俺もつれていけ。元吉に家督を譲る」
「父上、別に構いませんが、まだ、南方にも多くの国がありますし、土地もありますよ」
「そうか、そうだったな。うむ、どうしたものか」
「だから、お二人とも、勝たねばそのような事言っておられませんぞ」
「安治殿は、夢がない」
「そうだな、夢がない」
「いや、正綱殿も何か言って下され」
「そうか、わしも忠勝に家督を譲って、行くのも良いか」
「な、何を言っているのですか!?」
四人の話を聞きながら、守隆は話が違う方向に行っていると思い、大きなため息をついた。
勝敗は時の運であり、勝った話をするなぞ、鬼が笑うようなものだと頭を左右に振った。
「守隆殿も何か言って下され!」
「安治殿」
「なんだ」
「諦めましょう」
「なんだって!?」
「先の事を思い浮かべれば、勝つしかないのですよ。そう思いましょう」
「諦めるな!」
悟ったような表情をする守隆を見て、安治は必死に訴えかけたが、守隆は微笑を浮かべて返した。
それを見て、俺がおかしいのかと呟いて、安治は両手で頭を抱えこんだ。
その間に他の三人は、先の事を考えて、夢を膨らませていた。
周囲の者たちは、なんか勝てるかもしれないと、三人の会話を聞いて思ってしまっていた。
呂宋を船出した、スペインの船団は順調に、高山国への航海を続けていた。
「しかし、東の猿を退治するのに、此処までの船がいるか」
「総督からの命令ですからね」
「黄金の国ジパングか……確かに、鉄砲を馬鹿みたいな値段で勝ったと聞いているが……蛮族には、あんな古い銃でも価値があったんだろう。流石、未開の地の猿だな!」
そう言って、船団を率いる指揮官は高笑いした。
副官はそれを見ながら、内心、油断し過ぎであると苦々しく思った。
副官も日本は神を信じない未開の蛮族と考えている。
しかし、日本に行った商人や宣教師の話を聞く限り、油断できるものではないと思っていた。
海での戦いは、船が優位であるために勝てると思うが、陸地の場合は、苦戦する可能性もあると考え、対策を立てていた。
しかし、指揮官は、副官の話を聞き、臆病者の一言で一蹴した為、不安が心を占めていた。
他の者たちも指揮官と同じ意識で、副官と同じ危機感を持ったものは少数しかいなかった。
嫌な予感がしているが、指揮官や各船長の腕は確かであり、海戦への心配はしていないが、陸地の戦いには消極的になっていた。
「そういえば、宣教師どもは乗船しているのか」
指揮官の言葉に、副官は顔を左右に振った。
「誰も乗っていません」
「あん?あの野郎ども……神の教えを伝える気がないのか」
「大半の者が、この度の出征に反対していました。だからなのか、乗船は拒否しました」
「ちっ、やつら、これから船に乗れなくなっても良いと言うのか。神の教えばかり言ってるくせに」
指揮官は不満な表情をしたが、副官は情報収集の為に宣教師や商人に話を聞いており、負けるか、勝っても被害が大きいと宣教師たちは判断したと思っている。
それを思い出して、難しい表情を浮かべた。
「この戦いが終わってから、奴らに思い知らせてやる!」
「お気持ちは分かりますが、ローマに伝わると面倒です」
「ちっ、おもしろくないな」
渋面の表情を司令官は浮かべた。
「やつらがいるかいないかで、船員の士気も変わってくるんだが……いないものは仕方ない」
海の上での移動は、常に命がけであり、宣教師がいるだけでも、船旅に慣れていない船員たちは安心する。
「負けるとでも思っているのか、奴らは」
「それは分かりませんが……」
「面白くないが、船員や他の船には、呂宋にて、神に勝利を祈っていると言っておけ、ひとまずは」
「わかりました」
司令官は、船の数、乗船している兵の数を考えても、勝利出来ると確信していた。
そして、勝利した後に、黄金の国ジパングへ侵略して、金を奪えると信じていた。
「これで、俺もジパングの王になれる!」
総司令官は将来を思い浮かべ、表情が緩んだ。




