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浪速の夢遊び  作者: 秋鷽亭


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閑話(佐久間信盛)

本編とは、直接関係はありません。


※九月三日、誤字を修正。

※二千十六年九月二十四日、誤記を修正。

※二千十六年十一月二日、誤字修正。

※二千十七年四月二日、サブタイトル変更。

秀吉は、羽柴秀長から根来攻めの報告の書状を読んでいた。その書状には、初戦において、正則が突出し、根来衆に撃退されたこと。また、撤退の際に、追撃を受け、甚大な被害を受けた事が書かれていた。正則の隊の被害は大きいが、侵攻には影響がない旨も書かれており、秀長に任せておけば問題ないと秀吉は安心していた。


「”退き佐久間”か……」


三成は、秀吉のつぶやきを聞き話しかけた。


「どうかされましたか、秀吉様」

「いやな佐吉、市松のいくさぶりを考えると、佐久間信盛の差配を学んで欲しいものだと思ってな」

「信盛殿と言えば、信長様の家臣であった方ですか」

「そうだ、まあ、一向門徒との戦いで、評価が低いがな、佐吉もそう思っておるだろ?」

「……はい」

「わははははは、そうだろうな、お主が見た、信盛の姿は晩年の老いた頃……いや、違うな」

「違うとは?」

「信盛は、有能な武将だ。わしであれば、もっと、良いように使っていただろうが、信長様の元では無理だったな。筆頭格になり、領地が拡大しことも、問題だったんだろうがな」

「それは、信長様が信盛殿の家内勢力拡大を恐れたという事でしょうか」

「まあ、それもあるだろうが、問題は、信盛自身の能力の限界だな」

「能力の?」

「そうだ。信盛の文武両道の将だ……ただ、それは、尾張一国、もしくは、美濃国あたりを手に入れたところまでのはなし、天下をにらみ始めた織田家の中では、その力は不足していた。いや、本人が、それに気が付き、変化に対応していけば、問題なかったのかもしれないが、信盛は昔のまま、尾張時代の考えや態度のまま、信長様の天下へ付き従ったのが、追放の悲劇に繋がったんだろう。当時のわしのような、いち重臣であればよかったが、多分、信盛自身、死ぬまで気が付いてはいなかったかもしれんな」

「それは……」

「佐吉、お主も信盛の事を覚えておけ、状況の変化に対応できぬものは、この世から消されることを」

「……」

「尾張一国やその周辺国ならば、慣習や豪族や民への対応も地域が違っても大差ないだろう。しかし、畿内に行けば、魑魅魍魎の公家や騒乱の経験豊富な豪族や民が居る。公家なぞ、蟻の一穴の失策をあげつらって、銭を要求するわ、相手を蹴落とすわ、佐吉ならばわかるであろう」

「はい」

「そんな複雑な政の中に、尾張者の考えなぞ、鼻で笑われるわ。まして、信長様も、田舎者と陰であげつらっておった都雀や公家共もおる。信盛の態度も公家や畿内の者共の反感を買っておったのに、気が付いていないようだった。わしなら、坊主か古式の詳しいものをひとりつけ、補佐をさせながら教え込むぐらいのことをするが、信長様は、そのような手間はかけぬ人だったからな……」


三成は、秀吉の話を聞きながら、自分自身が説教を受けているように思えて、居心地が悪くなっていた。三成自身、変化に対応できるほどの器用な人間ではないと思っているところが、居心地の悪さを増していた。

秀吉は、そんな三成の姿を見ながら、心の中でため息をつく。三成の兵站や内政の有能さは、他に追随を許さないほどであり、戦働きは、可もなく不可もないが、失敗はない。ただ、人の心を読むことが出来ない。他人に心を開かないのは、戦国の世では、必要な事ではあるが、心の動きや空気を読めないのは、致命的な失策になる。秀吉自身、天下人へ手をかけ、強大な権力を持っているが、人の心の動きには細心の注意を払っている。三成に、それを説明しても、頭で分かっても、実践することはできないだろうと思っている。


「まあ、先ほどの”退き佐久間”の話だがな」

「はい」

「わしが、信長様に仕えて始めた頃、信長様の弟信勝様と戦いに参加した時に、その差配を見たのよ。敵方には、勝家が居て、兵力差は三倍以上あった厳しい戦いだった。信長様に仕えていた林秀貞も裏切りよったな。勝家自身が、信長様の本陣に突入した際、信勝の近臣津々木蔵人を引きつけ、偽りの退却をしながら、追撃してきた蔵人の側面を別働隊で攻撃して、撃破したのよ。その差配は、見事で、芸術的でもあったわ。守るべき場所を守り、一糸乱れず引きながら、相手に打撃を与えるなど、なかなか出来ぬわ」

「突出する戦いの市松とは違いますな」

「そうだ、打撃力は必要だが、守るべき時に守れる武将は貴重な存在だ。わしの子飼いでは、紀之助ぐらいか。まあ、佐吉も辛うじてひっかかるぐらいか」


そうにやついた顔で、秀吉は三成に話しかけた。三成は苦い顔をしながら顔を下に向ける。そんな様子を見ながら秀吉は昔の思い出を話し始める。






秀吉が参加したのは、信長と信勝の家督争いの稲生の戦いであり、信長の宿老であった林秀貞が裏切り、信勝に付き、戦巧者の柴田勝家が信長に仕掛けた戦いであった。兵力差は、三倍以上であり、信長の敗戦は確実と思われた戦いであった。






「ん?お前は、最近、信長様に仕えだしたものだな?」

「はっ、信長様からの言伝があります」

「うむ。して、なんと?」

「もう直ぐ、信勝様が、軍勢を分けて、側面を突こうとする可能性がある。苦しい戦いではあるが、この危機に対応できるのは、信盛様しかおらぬゆえ、頼むとのことです」


伝令として来ていた当時まだ、藤吉郎と名乗っていた頃の秀吉から信長の話を聞き、信盛は、感慨ふけっていた。信盛自身、平手政秀のように信長から信頼されているとは思っていなかったし、頼られているとは思わなかった。

その政秀も死去し、残っている家臣の中で、信長を支えれるのは自分だけだと自負があった。本来、政秀の代わりに信長を守るべき立場の秀貞は、信長の傾奇ぶり見て、見限り信勝に同調しているのを隠していなかった。

信長の連れている若衆は、見るべき能力がありそうなものもいるが、まだまだ、若造であり、頼りにならない。

此処は、信秀様の期待に応え、信長様を支援すると心に誓っていたが、このように、直接的な信頼の言葉を受け取れるとは、夢にも思わなかった。


「その言葉、誠か?」

「はっ、一言一句、間違いございません」

「承ったと、伝えてくれ」

「はっ、では」

「まて」

「何か?」

「お主、名は?」

「木下藤吉郎と申します」

「そうか、おい」


信盛の言葉と共に、そばに仕えてきたものが、刀を持ってくる。


「お主、見たところ、まともな刀を差していまい。伝令の褒美だ、それを受け取れ」

「しかし、それでは……」

「かまわん、それは、わしの刀が折れた際の控えのものだ。お主が持って行っても、問題ない」

「あ、ありがとうございます」


秀吉は、その場で、土下座をして感謝を伝えた。その姿を見て、信盛は、一瞬、見下したような表情をしたが、信長からの言葉を伝えに来たものであると思い出し、表情を改めた。


「その刀で、手柄を立て、信長様の役に立て!」

「はっ!命にかけましても!では、失礼いたします!」


秀吉は、信盛に一礼して、駆け足で信長の元に戻っていった。その後姿を見ながら、信勝が派遣するであろう軍勢に対処するための策を考えていた。


(権六によって、今、信勝様の軍勢は有利に立っている。派遣される軍勢もそれを知ったうえでの事であろう。であれば、一度、偽りの撤退をすれば、何も考えず我武者羅に追撃するはず。そこを側面から攻撃すれば、敵は壊滅するはず。ただ、来るものが戦巧者であれば、難しいがな……)


秀吉の伝令から四半刻後、信勝の軍勢の姿が、信盛に見えてきた。


「率いている将は誰か、分かるか!」

「馬印から、津々木、津々木蔵人です!」

「おお!あの痴れ者か!ならば、お前!50人ほど弓隊を引き連れて、側面に回り隠れておれ、そして、やつらが、此処まで来た瞬間に、弓をあるだけは放て!」

「はっ!」


指示された武士は、その場から素早く兵をまとめ、立ち去って行った。信盛は、それを見ることなく、正面から来る津々木の軍勢を見据えていた。


「皆の者!勝利は見えたぞ!蔵人如き知れ者が軍勢を率いるなど、末森勢は追いつめられている証拠ぞ!もう直ぐ、信長様が、権六を打ち破り、秀貞を踏みにじり、信勝様の本陣を突くだろう!ならば、我々は、武功を上げる機会はこの時しかない!皆の者、わしの言うことを守れば、恩賞は思いのままぞ!」

「「おう!!!」」


信盛は、現状、そのような楽観的ではないことを理解していた。勝家の攻撃は、強力であり、信長自身危うい状況で戦っているのは、先ほどの伝令で分かる。援軍を送れるだけの余裕がないということだ。元々の兵力差から言えば、そんな余裕があるわけがない。

ただ一つ、信長の軍勢が信勝の軍勢に勝っているのは、信長のそばに仕えている者たちが、勇猛で忠誠心あふれている者たちが多いということだ。信長を守るにはそれに賭けるしかない。そして、信盛自身は、此処で、津々木を粉砕して、勝家や秀貞の威勢を削るために動くしかない。

その為には、兵たちに、不安を与えず、意気軒昂にさせるしかない。それに、この策は、退きをしなければならい、臆病風に吹かれたら、組織だった撤退はできず、もろくも崩れて、逆に、こちらが崩壊してしまう。


「弓隊前へ!まだ射るなよ!」


弓隊が構えている状態で、津々木軍が進軍してくる。兵たちは、まじかに迫ってくる軍勢の槍の穂先が、光に照らされ、それを見ていると、体が震えてきた。その恐怖心逃れるために、弓を放ちたいが、組頭からは、止められており、逆らえば、首をはねられる可能性もあり、じっと我慢していた。


「殿、20間を切りました!」

「よし!弓隊は放て!」


信盛の号令のもと、次々と、弓から矢が放たれる。殺傷率が高くなる距離まで、津々木軍を寄せさせていた為、ほとんどの矢が、敵軍に突き刺ささる。




「ぐっ!」

「眼!眼が!?」

「痛てぇ~、痛てえ~、助けてくれ!?」


矢が眼に当たり死ぬ者、眉間を撃ち抜かれ死ぬ者、のどを突き刺され苦しみながらのたうちまわるものなど、負傷者が続出していた。津々木軍も進軍速度が落ち始めた。


「何をしている!信盛の軍勢は、こちらの半分以下だぞ!」

「至近距離から弓矢で射られ、被害が拡大しています。ここは一旦、引いて、弓矢の対策をしてから進むべきではないでしょうか」

「何を悠長なことを!敵の二倍の軍勢を持って、引くなど、臆病者のすること!信長の本陣を今にも柴田が落とそうとしてるのだぞ!このような処で、ぐずぐずしてられるか!」

「しかし、無策のまま行けば、被害が広がります」

「黙れ!臆病者が!」


(ちっ、この愚か者が、十全でなくとも対策を取れば、十分勝てるものを!兵を何だと思っているんだ、こやつは!)


「ふん、貴様の事は、信勝様に伝えておく、腰抜けで、刃向うことしか出来ぬ、愚か者だとな!臆病者は去れ!さぁ、皆の者、信盛を討ち、信長の陣を攻撃して首を取れば、恩賞は思いのままぞ!進め!」


(こいつ、失策があれば、わしの責任にして、逃れるつもりか!くそっ、信長様のうつけぶりに愛想をつかして、信勝様に付いたが、このような愚か者を側に寄せ、重用していることを考えれば、信勝様の方が、愚かということではないのか?こいつに従っていては、犬死するだけだ。ちょうど、去れと言ってたのだから、去っても良いだろう)


「わかりました。津々木殿、お主の命に従い私は、これで、引かせてもらう」

「何?誰が、引けと言った!」

「去れと言ったではないか」

「逆らうか!」

「お主と話すだけ無駄なのは分かっている。では、な!」


そう言い残すと、自分の従えてきた兵を引き連れ、離脱して行く。驚いたことに、それに続いて、何名かも同調して去っていき、兵が、三分の一ほど減ってしまった。

その行動に、顔面を紅潮させ、ぶるぶる震えながら、見ていると、前線から伝令が来て、朗報届き、表情が一変する。


「弓矢の攻撃を突破し、切込みを開始しました!」

「見てみろ!押しているではないか」


その直後、前線から伝令が来る。


「佐久間の軍勢は臆病風に吹かれ、引いています!」


蔵人は気色を浮かべて、右手を上げる。


「ふん!あの臆病者どもめ!後で、信勝様に成敗してもらうわ!そのまま追撃しろと伝えよ、勝利は目前だ!進め進め!」

「「おう!」」




「殿、敵が、何も考えず、追撃してきております」

「ふむ、やはり、蔵人は痴れ者だ」

「敵から幾人か離れていったようですか、もしや、迂回をしているのでは?」

「それはないだろう。大方、蔵人が献策を詰って、相手を怒らせたのではないか?」

「しかし……」

「わかった、何人か気の利いたものを周辺に放って、様子見よ」

「はっ」

「それと、準備はできているか?」

「既に、簡単な柵を作り、弓隊の残りを待機させております」

「よし!一気に其処まで引いて、足止めするぞ」


信盛はそう言い、軍勢を引かせていった。引く際、まず、弓隊を一定の距離まで引かせ、引かせる間、槍隊と石の礫隊で、敵の進軍を鈍らせ、鈍ったところで、槍隊と石の礫隊を引かせ、敵軍が進撃し始めると、今度は、引かせていた弓隊で攻撃するなどを繰り返し行い、目的の地点まで退却した。




「小癪にも、あの程度の柵で、我らを止めようとは片腹痛い!突撃して、粉砕せよ!」


蔵人の掛け声と共に、兵が進撃を早め、弓矢で攻撃を受け始めた時に、側面から弓の攻撃を受けた。


「な、何事!?」

「て、敵襲です!」

「ば、馬鹿な?!」




「そら、蔵人は、側面からの攻撃で、混乱しておるぞ!おお!蔵人が逃げおるわ!」


信盛は、大声で、敵軍に聞こえるように、叫んだ。前線は、弓矢の攻撃で、組頭など、前線で指示するものが居なくなっているところもあり、混乱し始める。そして、後ろの蔵人の方を見ると、確かに、逃げ出しているのが見て取れた。実際は、一部の者が、混乱して、後ろに引いただけだが、前線の混乱している中、正確に判断できるはずもなく、退却しているようにしか見えなかった。


「に、逃げろ!こんなところで、死にたくない!」

「そうだ、そうだ、大将が逃げているんだから、わしらも逃げるぞ!」


まるで、引き潮のように、津々木軍が背を向けて逃げ出していった。


「そら!お前たち!これまでの鬱憤を晴らすときぞ!逃げ出した者どもを追え!」

「「おお!」」


信盛の声に、佐久間軍は勢いを増し、津々木軍を攻めたてていった。

攻めたてられた、津々木軍は壊滅し、蔵人は、命からがら信勝の本陣に逃れていった。

その後、信盛の軍は、小休止をはさみながら、秀貞の軍の側面を突き、おりから勝家の軍を破った信長の軍勢と合わせて、秀貞軍を壊滅し、信勝を敗走させた。




「さすが、信盛様だ。見事な差配をする。わしも一軍を率いてあのような戦いをしてみたいものだ」


秀吉は、信盛に伝言を告げ、信長に復命した後、信長から信盛の状況を見ておくようにとの命令があり、信盛を遠くから見ていた。もし、信盛が負けた際、素早く、報告するようにとも言われていた。


「しかし、この信盛様から頂いた刀、結局は、戦場では使うことなく、影働きで使うことになるとは……」


勝家の放った、間者を信長と信盛の往復の間に、三名ほど切り捨てていた。


「蔵人も、勝家のように慎重であれば、負けなかったものを……」






秀吉は、昔を思い出しながら信盛の事を考えていた。


「退き戦や守勢の戦は一級の差配が出来るが、一向門徒の大坂攻めは変化がなさ過ぎた。兵糧攻めを意図していたのかもしれないが、他の動きに注意がいっていなかった。公方、毛利の動き、織田家内部の勢力争いなどな。まして、一向門徒も一枚岩ではない。切り崩しの謀略もせず、包囲のみでは、信長様の逆鱗に触れるのは当たり前だろうが、信盛はそれに気が付かず、自分の地位に安閑とし固執していたことが、失敗の本質だろうな」


信盛は、信勝との争いでは、終始一貫して、信長を支持し戦い続けていた。その功績は、重く、少々の失敗は、信長も目をつむっていたが、一向門徒の戦い方を見て、天下統一を考えた際、どの方面を担当する力量もなく、家内を任せる能力も不足しており、その割に領地や勢力が大きい存在だった。その為、織田家再編を考え、追放されたのではないかと、秀吉は考えていた。勝家のように、従順に忠誠を誓い、戦に強く、支配地が変わっても領内を整備できる能力があれば、信長も使い続けたかもしれないが、信盛や一緒に追放された秀貞達は、尾張時代のままで、情報変化に対応できず、天下統一後に有害になると判断されたかもしれない。

愚者に広大な領地と、強大な権力は、有害にしか働かない。また、足利幕府での四職や、有力大名を見れば、広大な領地を持つ大名は将来的に政権に悪影響があり、信盛のような織田家内でも地位が高ければ、将来、足利幕府のように統制がとれなくなるかもしれない。あのまま、信長が天下統一した場合、秀吉自身も、追放されるか、領地を取り上げられるか削られ、代わりに官位などを与えられ力を削がれる可能性もあったと考えていた。ただ、信長は、身内や気に入った者たちには、非常にやさしかった為、そこまではないとしても、領地に、軍目付のような者たちを送り込んでくる可能性は否定できない。


「市松に、退きの戦は出来ないでしょうね。奴は猪武者でしかありませんから」


三成のその返事を聞き、秀吉はにやりと笑った。


「お主も人の事が言えるのか?」


その秀吉の返事を聞いて、苦い表情を三成はする。


「秀吉様といえども、その事は……」

「何を言っておる、若いうちは、そんな見事な差配は難しいわ。できるのは紀之助ぐらいだろう。市松の失策については、お主自身も気をつける必要があるぞ。それが、学ぶという事よ」

「……はい、わかりました。でしたら、私も秀吉様の失敗を見て勉強することにします」

「わしの失敗?」

「はい、おなご関係で、失敗して、正座で説教を受けたくないので、側室については、妻と相談して考えます」

「ちょ!お前、何を言っているんだ!わしに対して、その言い方は酷くないか!」

「寧々様からの愚痴を聞く、私の身にもなってください」

「ま、真顔で言うか!分かった、これからは、佐吉が言ったからと寧々にはいう事にするわ!」

「(はぁ)それは、秀吉様、墓穴を掘る事になると思いますが……」

「う、うるさい!!!」


言い合いを秀吉と三成がしていると、廊下の方から大きな足音が聞こえてきた。三成は、何事かと振り返ると、秀吉は腰を浮かせ、逆のふすまを開けて、逃げようとしていた。

その動きに気が付き、三成が秀吉に顔を向ける。


「秀吉様、どうなされました?」

「い、いや、急用を思い出したから、行くことにする!」

「急用であれば、私も手伝いますが?」

「ええい!急用と言えば、急用なのだ!引き留めるでない!」


そうしている間に、足音が部屋の前で止まり、襖がスッと開く。


「旦那様!また、家臣の嫁に声をかけたというのは、本当ですか!」

「い、いや、寧々、話を聞いただけだ!」

「嘘をおっしゃい!彼女が泣きながら、話してくれました!旦那が腹を切ろうとまでしていたのですよ!」

「そ、それは、し、知らぬぞ!」

「あなたの女癖の悪さで、家臣を殺す気ですか!!!」


寧々の怒声で、部屋が震え、秀吉は土下座しながら許しを乞うていた。

それを見ながら、三成は、深いため息をして、頭を左右に振る。


「駄目だ、秀吉様のようには、なりたくない……」


閑話は、思いついた時に書きます。


ちなみに、佐久間信盛の稲生の戦いでの活躍は、架空です。

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