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第一話 残照

初投稿になります。

拙い部分は許してください。


※二千十六年十一月二日、誤字修正。

※二千十七年六月三日、誤字修正。

僕は、死を選んだ。

これで、何度目だろうか、死んだのは……

死ぬことを強要され、何度も殺されてきた。

でも、今回は、自分で死を選んだ。



何度も繰返した生死を誰にも言えない、言ったところで、信じてもらえなかっただろう。

死ぬ時期は同じ、数え三歳の時、殺され方は色々あり、窒息死、毒殺が多かった、あとは、絞殺、刺殺か。


繰り返された生死を経験したのは、戦国時代も終わり、織豊時代と言われる時代。

父は豊臣秀吉、母親は浅井長政と織田信長の妹と言われる市との娘、淀君。

その子で、夭折したと言われる鶴松が、僕の前世……いや、本来の自分なのかもしれない。


死に方は違っていたが、死ぬことは決められた人生(もの)だった、いや、人生と言えるほどの長さもないか。

悔しくて、諦めきれずにやり直してきたが、前回死んだ時に、死を受け入れた。


そうしたら、違う時代に産まれ、20歳を過ぎるまで生きていた……

死を受け入れた後に、生まれ変わったのが、平成と言われる時代。

僕が短い生涯を生きた時代から400年は過ぎた世界。

その世界で、豊臣家のその後を知った……けど、何の感情もわかなかったことを覚えている。

長く生きたら楽しい事が待っていると思っていた、けど、それは幻想だった事に気が付いたとき、説明できない感情が沸き上がった。


六人家族、両親と兄妹三人。

父親は政治家で、愛人の家に行くことが多く、偶に会っても、モノを見るような目で見てくる人だった。

母親は、自己顕示欲が強く、レベルの高い学校へ進学することを子供たちに強要するような人だった。

兄は銀行員、姉は弁護士になり、早々に家から出ていった。

妹は進学校へ進み、家にいるのが嫌なのか、寮へ移って行った。

僕は、中レベルの学校に入り、普通の成績で、普通の大学に進学したが、それが母親には気に入らず、いつもヒステリックに怒鳴りつけていた。


兄妹の関係は悪くはなかったが、皆家から出ていった。

親とは距離があり、近づきたくなく、家の中では孤独を味わう日々を送った。

友人といえる人も居たが、大学も別れ連絡を取り合うこともなくなった。

それ以外は、姉や妹を狙う連中、父に取り入ろうとするような連中しかいなかった。

周囲は僕ではなく、両親や兄妹しか見ていない、僕を認めていた訳ではなかった。


そして、僕は気が付いた、自分がひとりだと言うことを、誰も僕を必要としていないということを。


僕は自ら死ぬことを選んでしまった。




生死を繰り返していた時、辛かった、でも、父である秀吉は、惜しみない愛情を注いでくれた。

短い人生でも幸福だったことを、平成の世で実感することが出来た。


父秀吉に望まれ生きた鶴松で、生きたいと願った。

今度こそは生き残って、父秀吉を助けたい。




眼を瞑り、死を待ちながら眠りにつく……

次に眼を開けることが出来るのか、分からずに……



……眼を開けたら、天井に豪華な日本画、僕を見ている、豪華な着物を着たやせ細った初老の男性。

戻ってきた”鶴松”の人生。

生きるのを諦めた、諦めたはずの時代。

でも、平成の時代を体験した僕は、今世は生き残りたいと思ってしまった。

今度こそ、今度こそ……







廊下から大きな足音を立てながら誰かが近づいている。

豊臣秀吉が日を開けずに、鶴松に会いに来ている。

歳を取ってからの子供だからか、子煩悩、親バカと言えるだろう。


「鶴松! 鶴松は大事ないか!」

「お待ちください、鶴松様に何も大事など起こっておりませぬ、声の音量をお下げください、鶴松様が驚かれます」

「佐吉! 何を言っておるのか! わしの子がそのような事で驚くことはない!」

「殿下、大きな声を出すと、鶴松様の耳がおかしくなります」

「馬鹿者! わしの美声を!」

「……(はぁ)」


地響きのような震える大声で、鶴松の名前を叫んでいる。

まるで、耳元で大銅鑼を鳴らされるような感じを周囲の武士や侍女は感じているようだ。

政務を投げ出して、仕事を停滞する秀吉の行動に振り回される石田三成が後ろから付いてきている。

鶴松が産まれ、まだそれほどの時が経っておらず、周囲も何が起きる分からない為、緊張感が漂っている。

鶴松が死ぬのは数え三歳の時であり、現在は生まれたばかりであり、今までの状況から考えれば、安全であると言える。


バッン!

大きな音を立てながら襖が開き、秀吉が勢いよく入って来て、その後ろから、静かに三成が入ってくる。

ドスンドスン!

力強く踏み込めながら秀吉が鶴松に近づいて歩いていく。


「おお、鶴松! 大きくなったな!」

「……殿下、昨日お会いしたところです」

「五月蠅い! 赤子は一日で大きくなるんだ!」

「……(はぁ)」


何とも言えない苦しみと悲しみと嬉しさのあいまった表情を鶴松がした。

それは、痩せた顔の初老の秀吉の顔、懐かしいく、前世では、自分を見てくれなかった父と真逆の秀吉の表情を見たためだった。

それを見た秀吉は、辛い表情をしながら、鶴松に顔を寄せてくる。


「どうした、鶴松よ、そのような表情をするでない、見ているこっちが辛いではないか……」


(僕は、この時代、寿命は短かったけど、秀吉を見ていると、本当に幸せだったんだと思う。

今度こそ、長生きして、秀吉を楽にさせてあげたい、僕を大切にしてくれる人を守りたい。)


付き従っている三成は、表情に疲れの色がにじみ出ており、眼の下にクマが出来ているのが見える。

鶴松のことで、政務を放棄して、会いにくる秀吉を抑止することが出来ず、疲れた顔を三成はしていた。

三成は政務を取り従っている際は、疲れた表情も見せず、鋭利な雰囲気を漂わせているが、此処では気を許しているのか、素の表情を見せている。

素の表情や、隙を周囲にも見せていれば、小姓上がりの加藤清正や福島正則などとの確執も大きくなることもなかったかもしれない。


「殿下、小田原の北条への対応について、真田殿を待たせております。お戻りください」

「むっ、そうか、仕方ないな……鶴松ぅ、また来るからなぁ」

「……(はぁ)」

「佐吉、行くぞ」

「はっ」


ドスンドスン!

また、力強く踏み込めながら秀吉は部屋から出ていく。

ふと、振り返りながら秀吉は三成に指示を行う。


「佐吉、利休も呼んでおけ」

「はっ」


三成はそばに控えている若者に、利休を呼んでくることを頼み、秀吉の後についていく。

秀吉は、また後ろを振り返り、おもむろに走り出した。



「で、殿下、どうなされました!」

「佐吉! 付いてこられるか! 競争だ!」

「い、意味が分かりませぬ!」


大きな足音を立てながら、二人は去って行った。





スッっと、音もなく部屋の襖があき、豪奢な着物に身を包んだ女性が、お供を引き連れ、部屋に入ってきた。

美人と言ってもいい顔つきながら、その表情は、鋭いもので、周りを拒絶するような雰囲気を醸し出していた。


「これは、淀君、先ほどまで殿下が来ておられました」

「そうですか」


そう、この眼、親の仇を見るような、蔑むような眼で僕を見る。

確かに、父である秀吉は、小谷城攻めにも参加し、市姫と三姉妹を引き取り、淀君の父浅井長政の自害にも間接的に関わっている。

また、義父である柴田勝家に関しては、北ノ庄城を攻めて、自害に追いやり、母市姫の死にも関わっている。


(戦国の世とはいえ、秀吉には、恨みもあるだろうな)


後世では、鶴松、秀頼は、秀吉の実子ではないと言われている。


(秀頼はどうかわからないが、僕・鶴松は二人の子供だろう。淀君自身が、「汚らわしい下賤の血を引いた私の子供」と呟きながら僕を殺害したからな。でも、厄介なのは、殺害するのは、淀君だけではなかった。淀君から逃れても、他の人が、それを逃れても、雨後の筍のように暗殺者が出てきたので、逃れられなかった。生き残ることを考えて、対策を取りたい)


「お抱きになりますか」

「不要です」

「……はい」


淀君は、ゴミをみるような、汚らわしげに鶴松を一別して部屋を出ていこうとする。


(モノとして見られたり、無視された経験はあるけど、この汚いものを見るような目つきは、淀君だけだな……)


スッっと、音もなく部屋の襖を、共の女性が開き、淀君は退出していく。

後に残された乳母や、見守っていた武士たちは、居心地の悪さが解消され、ホッとした雰囲気をかもしだしていた。





歩いている先に、ひとりの男性が頭を下げて立ち止まっている。


「利休殿、お頼みしていた薬はまだですか」

「南蛮より取り寄せるものですので、まだ時間がかかります」

「分かりました、なるべく早く頼みます」

「入手次第、淀君にお渡し致します」


その返答を聞いて、頷き、淀君はその場を後にする。

利休は無表情で通り過ぎていくのを待っていた。





「(真田)安房よ、待たせたな」


声をかけられた、真田昌幸は頭を下げた。

側に、三成が控えてから、北条の動きに対して確認を行う。

再三、当主氏直に上洛することを命じたにも関わらず、北条は、当主氏直の叔父である氏規を上洛させたのみで、豊臣に服従する様子はなかった。

北条と戦った経験があり、諜報・謀略に長けている真田昌幸に、北条の様子を探らせていた。

関東に閉じこもり、中央の情報を集めることを疎かにし、豊臣秀吉の出自から見下した北条は、豊臣の実力を見くびっていた。

徳川家康と姻戚関係にもあり、戦いの場合は、豊臣への壁として期待しているような書状を徳川家康にも送られていると報告があがっていた。

服従したとはいえ、徳川家康がどのような動きをするか不明で、秀吉としては、動きづらかった。

その為、惣無事令を違反したとして、大義名分を得て、徳川家康を抑え、北条攻めを行いたいと考えていた。


「(真田)安房よ、北条の動きはどうなっている」

「上野国へ忍びを送り込み、情報収集をおこなっているようです。また、我が名胡桃城周辺にも多数の忍びを見たと報告が入っております」

「そうか、もし、名胡桃城が攻められたとしても、無理に守りきる必要はないからな、このような事で、そちの家臣を失っても意味がない」

「はっ、ありがとうございます」

「北条は攻めてくると思うか」

「北条は、四代氏政から貪欲に関東に勢力を広げてきましたゆえ、上野にも侵攻してもおかしくはありませぬ」

「そうよな、引き続き、奴らの情報収集と挑発せよ」

「分かりました」

「それと、北条を攻める際は、源次郎を返すゆえ、武功をあげさせよ」

「ありがとうございます」


秀吉は、しばし、外に目を向けた。


「先ほど、鶴松が老成したような表情をして、涙を流しおった。それを見ていると不安に感じるのだ、これから先のことをな」

「……」

「源次郎は、心優しき有能な若武者だ」

「ありがとうございます」

「すまぬが、(真田)安房よ、源次郎を鶴松に仕え、支えてくれぬか」

「……(源次郎であれば、生き抜けるだろうし、中央とのつながりは必要だな)」


天下人になる豊臣秀吉に頼まれれば、断ることは不可能としか言えない、断れば家が潰される可能性がある。

豊臣家がこのままで続いていくのか、秀吉の子供は夭折することが多いことを考えれば、不安しかない。


「分かりました、未熟ではありますが、よろしくお願い致します」

「受けてくれるか、すまぬな」

「はっ」

「三成、差配は任せる、小田原を始末した後、源次郎を鍛えれるように差配してくれ(だが、源次郎だけでは、足りぬ、もう少し、鶴松を支える者たちがほしい)」

「分かりました」


秀吉が他に仕えさせれるものはいないかと思案しかけた時に、小姓が入ってきた。



「殿下、加藤清正様、福島正則様、加藤嘉明様、大谷吉継様がお見えになっております」

「分かった、(真田)安房よ、北条の動きがあれば、報告せよ」

「はっ、では、拙者は、これにて失礼します」



真田昌幸と入れ替わるように、加藤清正、福島正則、加藤嘉明、大谷吉継が入ってきた。

石田三成を見つけた正則が、眼を怒らせた。



「佐吉! また、殿下に要らぬことを言っていたんだろう!」

「市松、いちいち佐吉にかみつくな、今、真田殿が出て行ったであろうが」

「虎之助は、佐吉の味方をするのか!」



二人の言い合いを、嘉明と吉継は呆れながら見つめ、三成は口をへの字に曲げて、見つめた。

長浜の小姓時代から正則が三成に対抗意識を持っており、何時も突っかかっていた。

それを清正、嘉明、吉継がなだめる形が出来上がっていた。

小姓組は、言い争いながら競い合い、山崎の合戦、賤ヶ岳の合戦、四国・九州征伐などで活躍して、豊臣家の躍進を支えてきた。

険悪な雰囲気ではなく、子供のじゃれあいのような状況であり、秀吉もその状況を笑いながら見つめていた。



「ところで、お前たち何しに来たのだ」

「北条の攻めの噂に聞きまして、市松と虎之助が殿下に確認しに行こうと騒ぎ出し、紀之介と共に止めようとしたのですが、止められず、此処に来ることになりました」

「孫六! お前裏切るのか!」

「市松、本当の事を言われて怒るのはどうかと思いますよ」

「紀之介!」

「馬鹿者が、そのような重大事、簡単に公にできるはずもなく、このように騒ぎ立ててどうする。諸大名の眼もあることを考えろ」

「佐吉、偉そうにほざくな!」

「静かにしろ、殿下の前だぞ」

「くっ、虎之助まで……」

「わはは、お主らは元気があってよいな、どうせ、先陣に入れてほしいとかだろう? 北条を攻めるなら、関東以西の諸大名が参加する、お主らだけを優遇することは無理だぞ」

「で、殿下……」



崩れ落ちる正則を、三成はため息をして、吉継は微笑みながら、嘉明は首を横に振りながら、清正はニヤニヤしながら見ている。

皆を見ながら、秀吉は、まるで我が子を見るように、ニコニコしながら見つめていた。



「ふむ、小田原攻めでは、お主らの活躍の場所は用意しておくから、大人しくしておれ」

「はっ、ありがとうございます! 見ておれ佐吉! 戦とは何か、俺が教えてやる! 貴様は、後方で、おびえておればよい!」

「何を? 市松、貴様何を言っている」

「ふん、銭勘定しか出来ぬくせに、偉そうな面をしやがって!」

「ふむ、なるほどのぉ、市松には後方の輜重がどれだけ重要か分からぬか、それなら、今度の戦は出せぬなぁ」

「で、殿下それは!?」

「佐吉に役目を指示したのはわしだ、それを貶すなら、わしを貶すことだぞ」

「も、申し訳ございません!」

「殿下、そこまでにしておいて頂けませぬか」

「佐吉……まあ、よい、追って話をするから、今日のところは帰るのだ」

「くっ、佐吉、恩には思わぬからな!」

「分かった、分かった」



やり取りを見ている三人は、やれやれとした目を、正則に向けている。


「そうだ、お主等、寧々にあっていけ、寂しがっているだろうからな」

「「はっ、分かりました」」


子供の頃の延長で、賑やかに騒ぎながら小姓組は、三成を残し部屋を出ていった。

その後、真田昌幸から北条が名胡桃城へ攻め込んだと報告を受け、秀吉は惣無事令を違反したとして、小田原攻めを開始する。



(もうすぐ、小田原の戦いが始まるな、何名か助けたい人がいるけど、今の年齢では何も言えない……

まだ、あと、一年半はある、どうすれば助かるのか考えよう。

二歳を過ぎれば、少しは動けるようになるはず、自分では防げないだろうから、誰かに助けてもらわないといけない。

誰に協力を仰ぐか考えなければ……)


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