第8話
汚く暗い部屋を抜け出したものの一体どこへいけばいいのか検討もつかない。
「本当に最悪だわ!!ルイナはどこへいったの!!私のそばを離れるなんて、侍女失格ね!!絶対にゆるさないわ!」
歩くたびにヒールの音がカツカツと鳴り響く。
「まったく、どうして廊下に絨毯を敷き詰めないのかしら。私に何かあったらどうしてくれるの」
ため息を付きながら、硬い廊下を歩く。こんな硬い床を歩くなんて久しぶりすぎて靴擦れを起こしそうだ。
「いいわ。これも王に進言して差し上げなければ。あぁ、この国はきっと私のおかげでいい国になるわ」
ほぅっと片手を頬に添えながら歩いていくと、廊下が分かれていた。
「あら、どっちに行ったらいいのかしら?」
まっすぐ続く道に右に曲がる道。
まっすぐ伸びる廊下は相変わらず暗くてジメジメしている。
右に曲がる道も相変わらず暗く先が見えない。
「どっちも暗いわ。まったく、この城は暗い場所しかないのかしら。これだけ城が暗いのならばきっとこの国の王も暗い性格をしていらっしゃるんだわ」
今からため息が止まらない。
とにかく今はどんなに暗い王でも、その王に会うことが先決だ。
「・・・・・右ね」
ポツリとそう言うと右の廊下を進む。
代わり映えのしない廊下が続くとおもいきや、以外にもその廊下はすぐに終わった。
「行き止まり・・・・。はぁ。無駄足だわ。あぁ、もう疲れた。休みたい。全くどうして私がこんな想いをしなければならないの!!嫌だ!!もう国に帰りたいわ!!」
だんだんここにいることが馬鹿らしくなってきた。
せっかくこの私が嫁いで差し上げようとしているのに、迎えもなければ、こんなところに押し込めるなんて。
「もういいわ。帰りましょう。王などに合う必要はないわね。とにかく外に出れば馬車があるでしょう。それに乗って国に帰りましょう」
そう決心して元来た道を戻ろうと振り返った。
「きゃぁぁ!!」
暗闇の中に人影があった。
「いやぁ!誰か!!誰か!!」
「・・・・うるさい!」
影が動いてこちらに向かってくる。
「こないで!わ、わたくしを誰だと思っているの!!!」
「・・・・・リリアーナ姫だろ。いいから黙ってくれないか」
その言葉に悲鳴を上げるのを止め、暗闇に佇む男を見た。
「・・・・・あなた・・・・・さっきの騎士ね」
少し近づいて見ると、先程見たばかりの騎士の姿がそこにあった。
「・・・・・うろうろするな。部屋に戻れ」
騎士だとわかった瞬間、先程のまでの恐怖は吹っ飛んだ。どころか、騎士の言葉にさっきの怒り湧いてきた。
「なんですって!!あんな部屋なんかに戻れますか!!私を一体誰だと思っているの!!この国の王妃になるのよ!!」
その私にこの騎士は一体何を馬鹿な事を言っているのだろう。
この国では騎士の教育が全く行き届いてないではないか!
でももう、いいわ。そんな事はどうでも。
とにかく、私は今ゆっくり休みたい。
ふかふかのベットで、綺麗な部屋で、呼べば侍女が来てくれるそんな部屋で休みたかった。
「お前の様な奴が、アイツの妃になんてなれると思うなよ!!」
怒鳴りすぎて、疲れすぎて、今にも意識が途切れそうな時に、騎士はそんな事をいった。
本当に、どこまでも馬鹿な人。
「あなたに何の決定権があると言うの?たかが騎士風情が偉そうな口を利かないで。さっさと私がいるべき部屋に案内なさい!!」
そう言って騎士を睨みつける。
「お前は何もわかってないんだな。だったら、教えてやるよ。お前が案内された部屋は間違っていない。この国に来たのは嫁ぐ為じゃない。この国で下女になる為なんだよ」
騎士は呆れたようにそう言った。
が、しかし私には騎士の行っている事がさっぱり理解できない。
「・・・・あなた馬鹿?私が本当に誰だかわかっていて?」
「・・・はぁ。カンミロイヤル国の第1王女リリアーナ姫だろ」
「そうよ。私は王女なの。そして、この国の王様と結婚する為にこの国に来たのよ?わかる?」
馬鹿には親切丁寧に教えてあげないときっとわからないのだろう。
というか、言葉が通じているのだろうか?
「つまり、私が下女になるなんてありえないの」
どうして、王女の私がそんなクズみたいな事をしなければならないの。
バカも休み休み言って欲しいわ。
本当に、この国はこんな馬鹿な騎士のような人しかいないわけじゃないでしょうね?
「はぁ・・・。話が通じないのがこれほど大変だとは思わなかった」
騎士はしばらく黙っていたが、そうぽつりとつぶやいた。