第6話
「・・・・・ここだ」
そう言って一つの部屋の前でルイは立ち止まった。
「・・・・ご冗談でしょう?こんな暗い場所に私を留まらせるおつもり?」
絨毯が惹かれていない石がむき出しになったままの廊下に壁。
明かりを取る為の燭台の距離も広く、明かりの役目をはたしていない。
「では、俺はこれで」
私の言葉など聞こえていない様に、騎士は元来た道を戻っていこうとする。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!!」
そう言った時にはすでに騎士の姿はどこにもなかった。
「ちょ、ちょっと!!誰か!!誰かいないの!!」
大きな声を出しても誰一人として姿を見せる事はなかった。
「・・・・・この国の人間はどいつもこいつも使えないわ!!私が王妃になったら全員クビにしてやるわ!!」
誰にも聞かれる事無く私の怒りは暗い廊下に消える。
仕方なく、目の前の扉を開け中に入ると、やはりそこは暗い廊下に相応しい暗く狭い部屋だった。
「・・・・・あ、あの・・・」
部屋の狭さや暗さ、汚さに質素さ。全てにショックを受けていると、部屋の中から声がした。
「ひっ!!」
部屋に同化しすぎていて気付かなかった。
質素な机に一人の女が座っていたのだ。
「あ、す、すみません。驚かせたみたいで・・・」
そう言って座っていた女は立ち上がった。
「あ、あなた、何者?」
「えっと、私は貴方と同室のエリナです」
女の言葉に眉を寄せる。
「同室?何の話をしていらっしゃるの?」
「えっ?えっと・・・貴方はリリアーナさん・・・ですよね?」
「無礼者!!様と呼びなさい!!私を誰だと思っているの!!」
こんな小娘にさん呼ばわりなんて、この国は一体どうなっているのだ!!
「は?はぁ・・・・。もしかしてどこかの貴族様でしたか?で、でも、こんなところに貴族様が来られるはずがないし・・・・??えぇ??」
私の言葉に女は首を傾げていた。
その時、鐘の音が聞こえた。
「あ!いけない。時間だわ。と、とにかくこれから宜しくお願いします!!明日から私が貴方に着く事になりますので!!」
そういうと女はエプロンらしき布を片手に慌てて部屋から飛び出していった。
「な、な、なんなの?!あんな小娘にどうしてあんななれなれしく話しかけられなくてはならないのよ!!」
女が走り去った方角を見つめながら、再び暗い廊下に私の声は消えて行った。
と、とにかく冷静にならなければ。
今、自分の置かれている状況を把握しなければ。
そう。リリアーナ貴方は出来る子よ。
カンミロイヤル国で、貴方に逆らう者などいなかったでしょう?
自分にそう言い聞かせながら、この汚い部屋を眺めた。
女が言うには私に着くと。
「つまり、あの女が私の侍女と言う事かしら。・・・・・あれは、ダメね。すぐに替えてもらいましょう」
そもそも、私の侍女はどこに行ったのだ。
主人がこんな汚い部屋に連れてこられて困っていると言うのに、ルイナめ。
ルイナもそろそろお払い箱かしら。
意識をそらそうと必死に今までの事を振り返るが、どうしてもこの部屋の事が気になって意識が集中できない。
「ありえないわ。ありえない。私をこんな部屋に案内した騎士も。こんな間違いを起こす様な騎士を雇っている王も。どいつもこいつも使えないわね」
ちらりと、部屋を見れば、汚いベットらしきものと机が1台づつ・・・。
「あの女、同室とか言っていたけれど、この部屋はどうみても一人用よね。むしろ、豚小屋だわ」
あぁ、身体が重い。
いつもならふかふかの椅子に座ってふんぞり返っているだけで私の欲しいものが手に入るのに。
ここにはそんなふかふかの椅子もなければ、私の欲しいものを持ってきてくれる侍女もいない。
仕方なく持っていたハンカチをベットらしき物の上に敷き、その上に腰かける。
その際に、ベットはミシミシと大きな音をたてた。
「うるさいわね。こんな物に私が座っているなんてこの世の終わりだわ!!」
こんな汚い部屋に閉じ込められて、私の神経はもう限界だった。
「いえ、そうだわ。別に大人しくここにいる必要はないはずよ。あぁ、私って素直だからあんな馬鹿な騎士の言う事を素直に聞いてしまって・・・・」
そうだ。私が自分で王を探せばいいのだ。
馬鹿な騎士に、馬鹿な王が迎えに来ないのだから、こちらから出向いて差し上げよう。
そうして、一言・・・いや、思った事全てこの国の為に進言して差し上げましょう。
「まったく、ここまで馬鹿な国だとは思わなかったわ。これならば、まだ国から出ない方がよかったわ」
溜息を着くと、何とか重い身体を持ち上げ、この汚い部屋を後にした。