第5話
はて・・・。目の前の男はなんて言っただろう?
私の聞き間違えだろうか?
「こら、ルイ。はるばる我が国に来て頂いた姫にそんな事言うものではありません」
ピシリと、騎士らしい男の隣りに立っていた髪の長い綺麗な男がそう言った。
見た目はものすごく好みだ。銀の長い髪を一つにくくり、着こなされた白いジャケットは綺麗な顔ならではだろう。が、しかし、そんな事よりも今はこの現状を説明してもらいたい。
「リリアーナ姫。お初にお目にかかります。私、この国の宰相をしておりますオルガーと申します。以後お見知りおきを」
オルガーと名乗る男の挨拶に私はハッとした。
「・・・ご丁寧にありがとう。私はこの度こちらに嫁ぐ事になりましたリリアーナ・M・カンミですわ。そ、それで、他の方はどちらに?そういえば、私の侍女も見当たらない様ですが」
淑女の礼を取った上で、先程から気になっていた事を尋ねてみた。
「あぁ、侍女様は先に王宮の方に入って頂きました。姫についてい来られた他の方も皆王宮にておもてなしをさせていただきますのでご安心ください」
にっこりと笑ってオルガーと名乗る宰相はそう言った。
だが、私が聞きたいのはそんな事ではない。
「いえ、そんな者達の事はどうでもいいのです。私を迎えてくれるはずの夫は・・・・。パレードは・・・?」
周りを見渡してもそんな雰囲気は全くない。
それどころか、この目の前の男2人以外に人影がまったくない。
「あぁ、申し訳ありません。わが王は執務に忙しく姫をお迎え出来ない事に心を痛めておりました。姫にはしっかりとお詫び申し上げるよう申し遣っております。それから・・・・パレードとは?姫の国ではそう言った事があるのでしょうか?不勉強で申し訳ありません。しかし、こちらではパレードなどは行ってませんので・・・」
深々と頭を下げる宰相にグッと言い募りたくなる罵詈雑言を飲み込んだ。
「そ、そうですか。こ、こちらこそ、こちらの国の文化に不勉強なもので、不躾な事を申しました。先程の言葉はお忘れになって下さい」
プルプルと震える両腕に額に浮かんでくる青筋をなんとか抑えそう言った。
「そうですか。では、姫。この者がこれから滞在されるお部屋までご案内しますので、どうぞゆっくりおくつろぎください」
そう言って片手を胸の前に再び頭を下げあっさりとこの場を後にした。
そうして、宰相の隣りに先程から棒の様に立っていた騎士に身体を向きなおした。
「では、よろしくおねがいしますわ」
「・・・・・・こちらに」
こちらが下手に出てる事をいいことにこの目の前の騎士は何とも無愛想な返事を返してきたものだ。
宰相といい、この騎士と言い、この国の臣下達は全く使えない。
早々に、王に会ってこの事を告げ、この者達をクビにしてもらわなければ。
「ねぇ、あなた名は何と言うの?」
まったく、私を前に名を名乗らないなどなんて不敬なのかしら。
それをわかっているのかわかっていないのか、前を行く騎士は私の方にちらりと視線を向けると全く隠そうともせずに溜息をついた。
「・・・・ルイだ」
ため息に加え、この喋り方に我慢も限界が達した。
「あなた、誰に口を聞いていると思っているの!?そんな不敬な態度を取ってもいいと思っていらっしゃるの?この事を王に告げればご自分がどうなるか考えて行動しなさい!!」
慌てて私に頭を下げるだろうと、騎士を見やれば眉間に皺を寄せた顔でこちらを見ていた。
「・・・・お前は馬鹿か・・・・」
そう言っただけでルイは再び歩き出した。
「な、なんですって!?貴方本当にご自分の立場が分かっていない様ね!!」
思いもよらない言葉を吐かれて更に頭に血が上る。
「・・・・付いてこないのなら案内はしないが?」
投げつけた言葉はあっさりと無視され、もううんざりといった表情を隠そうともせずそう言った。
本当なら案内なんて必要ない!!そう言ってやりたかったが、来たばかりのこの城の中を知るわけもなく、グッと言葉を飲み込んだ。
「・・・いいわ、あとで覚えてなさい。今私に取った態度を後悔させてやるんだから。・・・・早く案内なさい!!」
悔しい。
なんだかこれでは負け惜しみの様だ。
ルイと名乗った騎士は再び深いため息を吐き城の中へと入って行った。




