第4話
長い道のりだった。
やっと、レイスピア国に入ったようだ。
馬車が、ガタガタと揺れる。
「もうっ!!腰が痛いわ!!お尻も痛い!!早くしなさい!!」
馬車の中では私の怒号が飛び交う。
「王女様。我慢なさってください。あと少しで城につきますから」
困ったように私を慰めるのは、私の侍女の中でも一番長く勤めあげているルイナだった。
「それにしても、一体どういう事なの!?なんで侍女が貴方一人しか付いてこないのよ!!」
今まで城の中では常に私についていた侍女は4人。
その中の一人がルイナだった。
「さぁ、皆、王から暇を出されましたので・・・」
「まったく、お父様も私が嫁ぐ前にやめさせなくてもよかったのに。新しい侍女なんて全く使い物にならなかったし・・・。まぁ、いいわ。こちらの国にも新しい侍女など掃いて捨てるほどいるでしょう」
相変わらずガタゴトと揺れる馬車にイライラが募る。
「それにしても、ルイナ。私はこちらでは王妃となるのよね?」
「ええ、王女様。・・・ご成婚されましたら王妃様と御呼びしなければなりませんね」
淡々と私の問いに答えるルイナに満足な答えを貰い、少し気分も良くなる。
「王妃ね・・・。こちらがどんな国か知らないけれど、今度からこの国が私のものになるのね」
カーテンを開き窓の外に目をやると、質素な家が立ち並んでいた。
「・・・我が国に次ぐ大国と聞いたけれど、あまり大きな国ではないみたいね・・・」
今までの様な暮らしはもしかしたら出来ないかもしれない。
「・・・まぁ、そうなれば王宮にしっかりと寄付させればいいのよね。税を上げてもいいけれど、それは私一人ではちょっと時間がかかりそうだし・・・・」
とにかく、お母様は私に不自由のない様にしてくれるようにこちらに言ってくれると言っていた。
ならば、私が早々困ることもないだろう。
一人、納得した所でルイナが声をかけてきた。
「王女様。城が見えて参りましたよ」
再び窓の外に目を向ければ、我が国よりは劣るものの、立派と言っていいだろう城が見えてきた。
「ふぅん。まぁ、いいんじゃない?」
あれならば、多少手を加えるだけで住みやすい城になるだろう。
さぁ、そろそろ迎えのパレードでも見えてくる事だろう。
「ルイナ。身だしなみを整えて頂戴。最初が肝心ですものね」
カーテンを閉め、ルイナの手により身だしなみを整えた。
お母様から譲り受けたこの金の髪に、お父様の唯一の自慢と言ってもいい高い鼻。
豊満な胸はドレスからこぼれ落ちるくらいだ。
豪華な貴金属をこれでもかとあしらい、ドレスは好印象を受けるであろうピンク色。
どれをとっても私に相応しい格好だ。
「・・・・それにしても、外からは何も聞こえないわね」
すぐそばに見えた城はまだ遠かったのだろうか。
パレードの音は一向に聞こえない。
「左様でございますね。もしかしたら、城に皆があつまっているのかもしれませんね。王女様を一目見ようと」
ルイナの言葉になるほど。と頷く。
確かに民などの前に出るより先に、貴族達にお披露目をすることが優先されるだろう。
ならば、猫を被るのも城についてからでもよさそうだ。
そう思っていたら、馬が歩みを止めた。
「さぁ、王女様。ついたようですよ」
そう言って、ルイナは先に馬車から下りた。
ここで、すぐに馬車から下りる様な真似はしない。
なぜならば、外で私を迎える用意をし、夫となる王が私を迎えにくるのが普通だからだ。
「ふふ、この国は一体どんなところかしら?」
全く何も知らずにここへきてしまったが、これからの事を想うと笑いが零れる。
ここでは、私を咎める事のできる両親がいないのだから。
王だって、私の国との結びつきが欲しい為に私を妃に迎えるのであれば私に逆らう事はないだろう。
ならば、実質トップはこの私。
これが、笑わずにいられようか?
そんな事を思い描きながら待てど、迎えはなかなか来ない。
すぐに下りるのは無様だが、いつまでたっても迎えに来ないとは一体どういう事だ。
あまりにも遅い事に、我慢の限界だ。
思わず馬車の扉を開けて外に出て見ると、そこにいたのは男が2人だけだった。
「ど、どういうこと・・・?」
「あぁ、やっと出てきた。待ちくたびれた」