第22話
私の気持ちとは裏腹に、あっという間に雲に隠れていた日も落ちてあたりは暗くなり始めた。
前回とは違い、淡いピンクの夜着を身に纏い、髪には香油が塗られた。
準備が整い、一人残されたこの時間、先程の事を思い返すと腹が立ってくる。
「・・・まったく・・・」
衣裳部屋に入ったロナに続いて入った私に、ロナは宰相から申しつけられたとこの夜着を押し付けてきた。
もちろん散々文句を言っていたら、エリナが宰相をつれてこの部屋にやってきた。
宰相はてきぱきと侍女達に指示を出し、最後には私に向きなおってこう言った。
『・・・今後、陛下がお見えになる際はこちらで準備をさせていただきます。ご不満がおありのようでしたら、衣裳を脱ぎ捨てて下さっても構いませんよ?・・・陛下のお手を煩わせなくてすみますしね』
その言葉に絶句した私に、宰相は見向きもせず部屋を出て行ったのだ。
本当に夜着を脱ぎ捨てたところで、衣裳部屋には一人で着つけられる簡素な服は置いていない。
それこそ、宰相の言うとおり下着のみの姿でいるわけにもいかず、しぶしぶと出された衣裳を身につけたのだった。
「・・・いきなり王が訪れるだの、夜着はこれを着ろだの、一体何なのよ!!」
そもそも、また王がこの部屋に来ると言うのがいけないのだ。
あれだけ、私を鋭い目で睨んでおきながらなぜまたわざわざここに来ると言うのだろうか。
「私に何か恨みでもあるわけ?」
八つ当たりとはわかっているが、ベットに並べられているクッションをバシバシとベットの外へ投げ捨てる。
何もなくなったベットに思わず顔を伏せる。
「何がこの国の為よ!!私がここにいるだけでいいなら私の事なんて放っておいてくれたらいいじゃない!!」
誰もいない部屋で怒りに任せて叫び続けた。
隣りにはもう誰もいない。私を着替えさせ用は済んだとばかりに皆部屋を出て行ったのだから。
「・・・・っく・・・・かえりたい・・・・」
何もかもがもう嫌になった。
外で降り続ける雨のせいだろうか。心の中で泣いていた涙が外に溢れだしてきてしまう。
「帰すわけにはいかんな」
すすり泣く中、低く鋭い声が聞こえハッと身を起こすと、開いた扉の傍に王が立っていた。
気配もなくそこに腕を組み扉に身を預けた王に目を丸くする。
「・・・なっ・・・!!」
なぜそこに!!
そう怒鳴りたくなったが、王が来る事はわかっていた。キュッと唇を噛みしめその人を睨みつける。
「・・・・最初と随分態度が違うようだが?」
くっと笑いながら王は私がいる所へと近づいてきた。
思わずベットの端に逃げてしまう。
「・・・・近寄らないで!!」
トンと背中が壁に当たると、もう逃げ場がない事を悟る。
「なぜだ?私の妃になりたいのだろう?」
くっくっと低く笑いながら、楽しそうに私に問いかける声とは裏腹に目は鋭く私を睨みつけていた。
「誰がっ!!」
ギッとベットの軋む音が聞こえるとクイっと顎を掴まれた。
「・・・さっさと逃げればいいものを・・・」
ぽつりと王がつぶやいたかと思うと、いきなり口を塞がれその言葉に反論する事ができなくなった。
「んんっ!!」
荒々しく口づけされたかと思うと、いきなり王の舌が私の中に入ってきて、まるで口の中全てを貪るかのように動きだした。そうしている間にも王の鋭い瞳は私を捉えていた。
必死で王を引きはがそうと、両手で王の身体を押すがびくともしない。
「・・・んっ!!んん!!」
次第に息が苦しくなって、王の胸をどんどんと叩く。
視線をそらされる事無く、やっと王の唇が私から離れた。
「っはぁ・・・!」
解放された口で必死に空気を吸い込むと、顎を掴まれていた手もやっと離される。
呼吸を整え、キッと王を睨むと、王はぺろりと自分の唇をなめた。
「何も知らない純潔を散らすのも一興だな」
その言葉に思わず身体が震える。
まさか、このままこんな王に私を奪われてしまうのかと思うと、急に怖くなった。
どこかで思っていた。今回も何もせず帰ってくれるのではないかと。
だが、目の前の男から発せられた言葉に私は震える身体を止める術がなかった。
「・・・・お前は、俺に抱かれる為にここにいるのだろう?」
にやりと笑いながら、私に覆い被さって来る王を睨み付けた。
「貴方にやられるくらいなら、私はここで舌を噛みきって死んでやるわ!」




