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我儘姫  作者: 睦月
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第20話

一晩声を押し殺して泣き、朝までにはいつも通りの姿でいられるよう冷たい布で目を覆ったおかげか、朝、私の姿を見たエレナに特別変わった様子は見られなかった。

まぁ、泣いていたと知って彼女が反応するかどうかはわからないが。


「さて、これからどうしようかしら。とりあえず、私が変わってないと思わせた事は良かったけど、このままあの王が来なくなられたら、また下女に逆戻りかしら・・・」


泣きすぎてダルイ身体を何とか持ち上げて、いつもの席へと着く。

今日も窓の外は澄んだ空に小鳥達が飛びまわっている。


「ふぅ・・・。久しぶりにあんなに泣いたからなんだか頭もボォーっとしてしまうわ」


頬にさわやかな風が当たれば、思わず笑顔が零れる。


「・・・・気持ちいい風ね」


最近ではすっかりこの一人の時間が、私を癒す唯一の時間となっていた。

しかし、そんな時間もやはり長くはもたないのだろうか。

私の癒しを邪魔するように、部屋にノックの音が鳴り響いた。


「・・・まったく、私には癒される時間もないと言うの?」


こっそり溜息をつき、大きく息を吸うと私は、背筋を伸ばした。


「・・・どうぞ、はいりなさい」


扉に向かって少し声を張り上げる。


「失礼します」


そう言って、部屋に入ってきた人物は久しぶりに見る人だった。


「・・・あら、エリナはいなかったのかしら?あなた様が来られるとは伺っておりませんでしたが?」


入ってきた人物をにっこりと迎えながら、決して私は席を立たなかった。


「突然のご訪問失礼します。エリナには貴女のお茶を入れてくるよう申しつけました。貴女様にお話ししたい事があって参りましたので」


そういうと私の席の近くまで歩いてくる。


「あら、宰相様ともあろう方が、女性の部屋に入るなんて無礼じゃなくて?お話があるのであればそちらのお部屋で伺いますわ。それに、エリナは私付きの侍女でしょう?勝手に使われては困りますわ」


そういうと、宰相の眉間に皺が寄る。


「・・・大事なお話です。侍女に聞かせてもよろしいですが、貴女様のお立場があるでしょうからこちらにお邪魔させて頂きました」


私の嫌味にきっちりと答えてくるところは、相変わらず嫌な男だと感じる。


「あら、私に立場なんてあったのかしら?下女になったり、王女になったり、一体どれがこの国での私の立場なのか、私ですら分からなくなるのに、いまさらではないのかしら」


くすくすと笑いながらそう言うと、宰相はふっと息を吐いた。


「・・・・本題に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?私も貴女様と言葉遊びをしている程暇ではないので」


「あら、そんなお忙しい宰相様がわざわざ何の御用かしら?あぁ、こちらの王との結婚の日程でも伝えにきてくれたのかしら?」


喜ばしいと両手を合わせながらにっこりと笑う。

それに、大きなため息をついた宰相など気にしないように。


「・・・ご冗談でしょう?陛下はお怒りでした。貴女様は何も変わっていなかったではないか!と。一体なぜ馬鹿な真似をなさったのですか?また、下女になど戻りたくないでしょう?」


その言葉に思わず怒鳴りつけたくなった。

だが、そんな思いを隠す様に更ににっこりと笑ってやった。


「あら?それを言いたいのは私の方だわ。私は王に好かれるよう努力してますのよ?それなのに、エレナ達の所為で、王に嫌われてしまったじゃないの」


私の言葉に宰相は呆れたように首を振った。


「好かれる?貴女様は反対の事をなさっているのではないですか?なぜわざわざ化粧や香水を付ける必要があるのです。侍女を辞めさせろなど、貴女は下女になって何を学んだのです!」


頭の切れる宰相が、怒りのあまりかストレートな感情をぶつけてくるあたり、宰相の思惑通りにいかなかったのだとわかる。思わず素で笑ってしまいそうになった。


「あら!宰相様にさせて頂いた経験は貴重でしたわ。やはり下女は下女よね。汚い真似をする事がお上手なのだもの。私がしている事なんて子供のやっている様な事だと思い知らされましたわ。王妃ともなるともう少し厳しく、下の者を躾ないとなりませんわね」


にこにことそんな言葉を並べていると、宰相は再び頭を振る。


「・・・話になりませんね。わかりました。いいでしょう。我が国にとって不利益を被らなければ貴方と陛下が寝室を共にしないことなど何の問題でもありません。大人しくこの部屋でくつろがれて下さい」


そういうと、さっさと踵を返し部屋を後にする。

それと同時にエリナが部屋に入って来て私の前に、紅茶の入ったティーカップを置いて部屋を後にした。


窓の傍に置かれたテーブルの上には、湯気の立ち上る紅茶。

その湯気からは紅茶の香りが一緒に運ばれて、私の鼻をくすぐる。


「・・・いい香り」


そっとカップを持ち上げ一口口に含むとそれをまた元の位置に戻す。


「・・・まったく、一国の王女をなんだと思っているのかしらね」


窓の下を覗き、誰もいない事を確認すると、私はカップの中のお茶を外に捨てた。

エリナは扉の外で私たちの話を聞いていたのだろう。

いい香りのする紅茶は、少々渋かった。

それをそのまま出すエリナにも、文句だけ言って結局私の存在などどうでもいいと言って帰る宰相にも腹が立つ。

何より、せっかくの癒しの時間を邪魔された事が一番腹が立ったのだった。

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