第2話
カンミロイヤル国。
大陸一の大都市を持つ大国。
その国の第1王女、リリアーナ・L・カンミ。
それが、私である。
「ちょっと、そこの貴方。この靴に貴方が掃いた埃がついてしまったわ。どうしてくれるの?」
「も、申し訳ありません!!す、すぐに靴を磨かせていただきます!!」
城の廊下を歩いている最中に掃除をしている下女を見つけた。
その下女が箒で掃いていた埃が私の・・・この私の靴にかかったのだ。
到底許せる行為ではない。
「・・・いいえ。そんな事をなさらなくても結構よ。すぐに荷物をまとめて城を出なさい」
そういうと、目の前の下女は目を丸くして身を固めた。
「私の通る道で、私が通っている最中にそんな事をしているなんておかしいでしょう?そんな事をするような人はこの城には不必要なの。さっさと消えてくれない?」
話は終わったとばかりに私はその前を通って行く。
「そ、そんな・・・・。お、お許しを!!王女様!!」
何か叫んでいるけれど、私には関係ない。
「・・・新しい靴をすぐに用意しなさい」
傍についている侍女に声をかけると、その侍女は「はい」と返事をして、その場を去る。
私が部屋に着くころには新しい靴が用意されている事だろう。
残った3人の侍女を引き連れ、来た道を引き返し部屋へと戻る。
「・・・お父様に呼ばれていたけれど、新しい靴をはく方が重要よね。さぁ、さっさと部屋に戻るわよ」
後ろにいる、侍女達から返事が聞こえると急いで部屋に戻り、新しい靴をはいた。
「お父様。私を、お呼びだとか?」
新しい靴に履き替え、ついでにお茶をしてから父の待つ謁見の間へ辿りついた。
「・・・・私は随分前にリリアーナ、お前を呼んだのだがな・・・」
謁見の間の上座に座る父と母。
父は眉を寄せて私を見る。
「えぇ、聞いておりました。ですけど、ここへ来る途中に下女に靴を汚されたのです。そんな汚い靴でお父様やお母様の前には出られないでしょう?」
首をかしげて父を見ると、父の横から母が口を開く。
「まぁ!そんな不届き者がいたのね!?すぐにその者をこの城から追い出してしまわないと!!」
「お母様、ご心配なさらないで。もう私がそう致しましたわ」
「さすが、私の娘リリアーナね!」
そう言ってほくほくと私を見つめる母の隣りでは、父が目頭を押さえ首を横に振っていた。
「・・・リリアーナ。そんなことで下女の首を切るなど、お前は臣下達の事を考えているのか?」
厳しい目で私をそう問い詰める父にイライラとしながら、私は答えた。
「えぇ。お父様、当たり前だわ。この国を豊かに暮らしやすくしているのは私達王族のおかげでしょう?ならば、民達は私たちの為に身を粉にして働く事が私たちへの恩返しだと思うの。それを、私に埃をかけるなんて民の身としてあってはならない事でしょう?だから、彼女の為にそれを身をもって知って頂いただけよ」
そう言いきる私に、父は可哀そうな子を見る様な目で私を見つめた。
「お前は・・・・本当に・・・・」
首を振る父に、誉めてもらえなかった事に更にイライラとする。
最近の父は私を誉める事があまりない。
それでも、小さな頃はあの大きな手で良く頭を撫でられたものだ。
それなのに、最近の父ときたら、私の教育を間違えただの、どうしてこうなったなんて言っている所を耳にして以来、私は父を避けていた。
「そんな事より、お父様、私に何が御用があったのでは?」
さっさとその要件を話せとばかりに父に問いかける。
「あ、でも少しお待ちになって。・・・誰か、私に椅子を!!」
少々、身体の重い私はずっと立っておく行為はかなり苦痛だ。
父の前なのに無礼と言うものも昔はいたが、今は何を言うものもいない。
なにせ、そんな事を言おうものなら母が即座にその者たちを城から追い出すのだから。
「リリアーナ。お前は本当に・・・」
父の声は聞こえたが、聞こえないふりをして、椅子を待つ。
すぐに椅子は用意された。
「私が呼ばれている事が分かっているのならば、最初から椅子を用意しておいてちょうだい!!」
椅子を持ってきたものにそう告げ、椅子に腰かけた。
「さぁ、お父様、お話になって」
私は視線を上げると、ほぅっと私を見つめる母に、首を振る父を見つめた。