第19話
あの後、部屋に戻ってきたロナは元々あったものの中から宝石を選んだ。
そもそも、そんなものどうでもいいのだ。
とにかく私は変わっていないと思われさえすれば。
そんな私の想いなど知りもしないロナは、恐縮しながらその宝石を私に渡した。
私は不機嫌になりながらそれを受取り、ロナを退出するよう命じた。
「さてと、あとは国王を待つばかりだけど、来るのかしらね」
紫の妖艶なナイトドレスを身につけ、夜に着けるべきものでない宝石をも身に付けた。
化粧もしっかりとさせ、香水もきついものをつけた。
なんとも下品な仕上がりになったものだと自分でも感心する。
しかし、この格好でさらに国王の前でロナの話をする。
これで、私が変わってない事をアピールすれば・・・・
「この鳥かごからも出られるかしらね」
くすくすと笑っていれば、隣の部屋から話し声が聞こえた。
きっと、国王が訪れる旨の知らせが来たのだろう。
案の定、扉からノックの音が聞こえた。
「・・・・何?」
扉に話かければ扉が開かれエリナが姿を現した。
「国王様が後宮にお入りになられたとの事です。もうすぐこちらにもっしゃるとの事ですので、私たちは下がらせて頂きます」
「わかったわ」
隣室にすら、侍女は置かれないこの国の仕来りだそうだ。
まぁ、居ない方がお互いに精神的にもいいとは思うが・・・・。
「そんなことよりもいよいよ、ご対面ってわけね」
開かれるハズの扉を見てゴクリと喉がなる。
上手くいけば何事もなく王は部屋を後にするだろう。
だが、もしどんな女にでも手を出すような王だったら・・・。
そのことを思うとさすがに手が震える。
「・・・・いけない。こんなことでは足元をすくわれてしまうわ」
ふぅっと小さく息をはいたそのとき、隣の扉が開く気配がした。
思わず体に緊張が走る。
それを逃がすように私はベットの側に立ち、ゆっくりと口の端を持ち上げた。
ギィっと重い扉の音がすると、そこから男が入ってくる。
急いで淑女としての礼をとり、頭を下げる。
「お初にお目に掛かります。リリアーナ・M・カンミでございます」
そう言うと、扉の締まる音が聞こえ、そこからこちらに歩いてくる気配がした。
「・・・・顔をあげろ」
側まで来ると、低く人を威圧するような声が頭の上から振ってきた。
その声の低さに思わず、肩がびくりと竦んだ。
ふっと息を吐き、ゆっくりと顔を上げる。
「・・・・はっ。噂通りの姫様のようだ」
薄暗くされた室内に響く国王の声は、明らかに侮蔑を含んだ声色に言葉だった。
だが、そのおかげで私は本来の目的を思い出した。
「あら、どんなお噂が国王様のお耳に入っていらっしゃるのでしょう?いいお噂だとよろしいのだけれど・・・」
口元に手を当て、恥じらっているようにみせかける。
そんな姿をみた国王はこちらの思い通り、眉を寄せる。
「宰相からは、すっかりと以前の横暴さはナリを潜めたと聞いていたのだが。なんだこの臭いは。その化粧も」
「まぁ!お気に召しませんでしたか?私、国王様の為にしっかりと私を引き立ててもらえるよう侍女達にお願いしたのですが・・・。嫌だわ。あの子達、国王様の好みも存じ上げなかったのね。あんな侍女達ではこの国の品位が失われますわ。国王様、どうぞあの者達を城から追い出してくださいませ」
そっと、国王の腕に触れて上目使いに見上げる。
その表情は忌々しいモノを見る目つきで私を見下ろしていた。
「・・・・気安く触れるな」
そう言うと、私の手を払いのけた。
「まぁ!国王様ともあろうお方が女性に手をあげるなんて!!・・・でも、気になさらないでください。きっと、国王様は照れていらっしゃるのですよね。国王様と私が契を交わせばこの国も安泰ですもの」
ふふふと笑って今度は寄りかかるように国王に寄り添った。
その瞬間、国王は私の顎を掴み私の顔を自分の方へと向ける。
「いいか。この国でお前の好き勝手できると思うな。誰もお前などには何も期待していない」
怒りと共に低く威圧するような声はさらに怖さを増す。
国王はそれだけ言うと、私をベットへと突き飛ばし部屋を後にした。
残された私はあまりの怖さに、体が震えるのがわかる。
両腕で自分を抱き込むようにそっと体をさする。
薄暗いこの室内で、国王の顔は見えなかった。
だけれども、鋭い目で私を睨みつけていた。
まるで、今にも私を殺そうかとでも思っているかのように。
「・・・ぃやだ・・・・・。大丈夫。・・・・上手く行ったのよ」
自分に言い聞かせるようにつぶやくその声が震えているのが自分でもわかった。
憎まれているのだろうか。
私が一体何をしたと言うのだろう。
ただ、ここに連れてこられて下女にされ、後宮に入れと言われここにいるだけなのに。
彼に恨まれる事など何一つした覚えがない。
それなのに、あの瞳には明らかに怒り、憎しみが込められていたように思う。
「・・・・・っ・・・・」
ぽろりと涙が頬を伝う。
恐怖と悔しさに涙が止まらなかった。




