第18話
日中は今夜の為の準備に追われていた。
「本当にこのお衣装でよろしいのですか?」
戸惑う様にロナは私に聞いてくる。
「えぇ。男性を魅了するのであればこれくらいでないとダメでしょう?何せ、やっと国王様にお会いできるのだから第一印象が大切よ」
クスリと笑う姿はきっと、昔の我儘な頃の私のままだろう。
だが、それでいいのだ。
全く私が改心していないと知れば、あの宰相の顔も潰れ、再び下女にされるか、上手くいけば祖国に送り返される事だろう。
我ながらなんて名案だとほくそ笑む。
「あぁ、宝石はとても大きなものにして頂戴。私を飾るものが貧相だなんて許せないから」
これまた、昔はよく言っていた言葉だ。
これだけの物を買うのにどれだけ働かなきゃいけないと思ってるの!!とついつい、下女の時に身に着いた金銭感覚が顔を出しかける。
そんな事はロナには分からないだろう。先程の発言に上手く隠せずに表情に出ているのだから。
「・・・・かしこまりました。すぐにご用意いたします」
そう言って、ロナは宝石を用意する為に部屋を後にした。
誰もいなくなった部屋には窓から、既に夕日が差し込んでいた。
戦闘時間まですでに後少し。
傍に掛けられている今晩のドレスに目を向けて頷き、クスリと笑った。
「・・・・よくもまぁ、こんなものが着れていた事」
こっそりとつぶやいた言葉は扉からノックされる音にかき消された。
「・・・・・誰?」
ロナは出て行ったばかりでこんなに早く戻ってくることもない。
ならば、エリナあたりだろうが、一体何の用だろうと、首をかしげながら答えを待っていると、予想していた人物の声が聞こえた。
「エリナでございます。少し宜しいでしょうか?」
「・・・いいわ。入りなさい」
そう答えれば、扉が開かれエリナが部屋へとはいってくる。
衣裳部屋の傍に置かれたドレスをみて、エリナは眉を潜ませる。
「・・・リリアーナ様、ロナから伺いました。宝石をご所望との事ですが・・・・・」
エリナの意図を察し頷く。
「その通りよ?なにかいけなかったかしら?」
なんてことない様に首をかしげる。
「・・・・宝石類でしたら衣裳部屋にご用意してあるかと思いますが」
「えぇ。確かにあるわね」
にっこりと笑ってあえてそこで止める。
一体なにが言いたいのかわからないと言う風に。
その態度に、あからさまな溜息をついたのはエリナだった。
「・・・はぁ、でしたらその中からお選びになって下さい。わざわざ新しいものなど必要ないではありませんか」
その言葉に思わず笑いそうになった。だが、それを我慢し、訳が分からないと首をかしげて見せる。
「どうして?国王様にお会いするのにふさわしい宝石があの中にはなかったのよ?ならば、新しいものを用意しなければいけないでしょう?」
その答えに更にエリナは呆れながら首を振った。
「国王様はそんな事は望みません。それよりも、貴女様の無駄遣いを嘆かれるでしょう。どうぞ、宝石はあの中からお選び下さい。ロナにもしっかりと選ぶよう申しつけておきますので」
そういうと、エリナは失礼しましたと部屋を後にした。
扉が閉まったのを確認すると思わず笑いが零れた。
「ふふ・・・。そうよね?馬鹿げているわ。こんな事。ならば、しっかりと報告してね。エリナ」
我儘姫はやっぱり我儘姫でしたとね?




