第16話
開かれた扉から、エリナを先頭に後ろに2名確かにいた。
そのうちの一人は、良く知っている人間だったが。
「リリアーナ様。こちらが先程お話しした2名の侍女です。・・・貴方達挨拶を・・・」
エリナが後ろの2人に声をかけると2人が一歩前に出てきた。
「この度、リリアーナ様付きの侍女となりましたロナと申します。主にリリアーナ様の衣裳・メイクを担当させていただきます」
そういうとぺこりと頭を下げた。
見た目は私より少し下位だろうか?15・6と言ったところか。
がしかし、よく教育の行き届いた貴族の出なのだろう。
挨拶もきちんとでき、礼の仕方も板についていた。
「そう。宜しくね。ロナ」
簡単にそう告げるとにっこりと笑う。
以前の様な振る舞いはしない。だが、下女の時の様にも振舞わない。
決して私の想いが悟られないようにこの国が望んでいる王女を演じて見せようじゃない。
そうして、もう一人の侍女に視線を投げかけた。
「・・・・・久しぶりね。ルイナ。てっきり貴方はもうカンミロイヤル国に戻ったのかと思ったけれど?」
そう問いかけてロナが一歩下がり、換わりに一歩前に出てきた侍女、ロイナに話かけた。
「ご無沙汰いたしております。その節は姫様のお力になれませんで大変申し訳ありませんでした」
ぺこりと頭を下げるルイナの言葉は、以前と全く変わりがない。だが、今の私にはわかる。ルイナの言葉にはまったく感情がこもっていないことが。
こんなにもあからさまなのに、今まで気づかない私はどうなのか。
思わず自嘲した笑いが零れた。
「・・・きにしないで。こちらの国の言いなりだったのでしょう?あなたも大変だったわね」
労わる様に声をかけルイナの方に手をおいた。
ルイナの様に感情がこもらない声など出しはしない。
心の底からそう思っているのだと言い聞かせ、表情も作った。
その結果が、今目の前で、目を丸くしたルイナの表情に表れている。
思わず笑ってしまいそうになるのを何とか堪え、私は続けた。
「ルイナには本当に申し訳ないと思っているの。以前の私に仕えてくれて大変だったでしょう?こちらで私は下女になって初めて分かったわ。貴方達になんてひどい事をしていたのかって・・・・。本当にごめんなさいね。こんな私だけど、これからも私を支えてくれる?」
まるで、お化けでも見たかの様な表情に私の言葉が聞こえているのかどうかわからないルイナはコクコクと首を縦に振ることしか出来ないようだった。
「そう、ありがとう。これからもよろしくね」
そう言って、ルイナの肩から手を離した。
状況をよく観察しているのか、タイミング良くエリナが声をかけてきた。
「リリアーナ様。今後私達の誰かが必ず隣室についておりますので何かありましたらいつでも御呼び下さい」
そういうと、頭を下げてエリナは部屋を後にする。続いて2人も部屋をあとにした。
静まり返った部屋の中で、私は腕を組みながら先程まで座っていた椅子に再び腰かけた。
「・・・・まとめ役をしているのはエリナの様ね。ロナは少し頼りない感じだけれども、私の侍女になるくらいだから侮れないわね。ルイナは・・・・・」
信用できない。
国から連れてきた侍女は彼女だけだが、もう彼女を信用することはないだろう。
「結局、侍女はだれも味方に出来ないわね・・・」
思わずため息が零れる。
常に傍に付いている者が、全て敵だなんてなんてついていない。
しかし、あの宰相の考えそうなことだ。
「そこまでして、どうして私なんかに拘るのかしら」
なんて、私に拘っているわけではなかった。
それでも・・・。
いくら私に付いてくるものが魅力的だと言っても私にここまでしなくてもいい様なものを・・・。
深いため息が零れる。
「一体、この国は何を考えているのかしら・・・・」
本当に、この国に来てから何もかもが分からなくなった。
今までの自分の行いも。
何のために私が居るのかも。
「・・・・どうすればいいのよ・・・・」
ぽつりと本音がこぼれ落ちる。
自由を求めて私がこれからすることも、結局無意味な気がしてならない。
というか、結果が決まっている今無意味に等しい事などわかっている。
でも、どうしてもあの宰相の言うとおりにはしたくない。
だけど、これが本来王女なるものの定めなのではないかとも思う。
「・・・我儘が出来たのは我が国だったから・・・」
父も母もよく許していてくれたものだ。
そう思うと少し申し訳ない気持ちになる。
それでも、実の子を捨てるように隣国に押し付ける事までする事はなかったではないだろうか。
そんな事を考えていると、普段は使わない頭を使ったせいだろうか。
少し眠たくなってきた。
私はその眠さに身を委ね、ソファに身を預けた。
この1年固いベットになれた私には、ふかふかのベットよりも今、身を預けたソファの方がなんだか落ち着くようだった。




