第15話
一切、言葉を交わさないままエリナのあとについていく。
視線をエリナに向けているのに、エリナはそれに反応しない。
きっとわたしがエリナを見ている事はわかっているはずなのに。
王宮を出て少し離れた所に、私が入れられる後宮が建っていた。
下女になる前の私ならきっと、ここが私の城になると思っただろう。
だけど、今の私にはその塔はまるで鳥かごの様だと思った。
自由に飛べる事など出来ない鳥かご・・・・。
「リリアーナ様。後宮に入りましたら、今後一切許可なく後宮から出る事は出来ません」
後宮の入り口の前で、エリナが立ち止まり私の方を振り返りそう言った。
「・・・・・そんな事・・・・・今までと何が違うと言うの?」
エリナが宰相の命で私の傍にいた事が分かった今、自分が思っていたよりもはるかに自由などなかったと悟ったのだ。今更、鳥籠がうつされようが結局同じ事だ。
「・・・・では、こちらへ」
エリナは私の言葉に返事をせず、先を進むよう促した。
この1歩を踏み出せば、そこはもう後宮と言う名の鳥かご。
入る事を拒むことなど出来ない私は、無言でエリナの後につづいた。
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後宮の中は今までとは比べ物にならないくらい贅沢な品で溢れていた。
いや、正確には懐かしいと感じる空間だ。
「こちらがリリアーナ様の部屋になります」
エリナはそう言って扉を開く。
開かれた扉の先には、我儘だったころならば喜んだであろう部屋が広がった。
待合の部屋を抜けるとそこは広いくつろぎの空間が生み出されている。
部屋の中央には大きな天蓋付きのベットが置かれ、窓のそばにはアンティーク物の机と椅子が並べられていた。
また、部屋の中には入り口以外に2枚の扉があり、衣裳部屋に、お風呂と続いていた。
「・・・・素敵なお部屋ね」
心の底からそう思う。今までの部屋に比べれば断然こちらの方がいいだろう。
だが・・・。
「豪華な鳥かごだこと・・・・」
ぽつりと零れた言葉は、エリナに聞かれる事はなかった。
「では、私はこれで。今後、私を始め他に2名の者がリリアーナ様専属の侍女となります。他の者は後程挨拶に伺わせて頂きますので、それまでどうぞごゆっくりおくつろぎ下さいませ」
そういうと、私の返事は最初から必要なかったかのように、先程入ってきたばかりの扉を閉め出て行った。
今までとは全く違う態度のエリナに裏切られた様な思いを抱きながら私は閉められた扉から視線を外した。
改めてぐるりと部屋を見回せば、最初からここに連れてこられていたのならば本当に心の底から喜べただろう。
「豪華な鳥の籠で喜べていたなんて可笑しな話ね」
くすくすと思わず笑みがこぼれる。
自分の馬鹿さ加減に。
「・・・・・本当に・・・・」
腹が立つ。何から何まで全て仕組まれた上で踊らされ、私の人生が狂わされていく。
だけど、冷静に考えられるようになった自分が自分に問いかける。
「・・・・私は一体これからどうしたいの?・・・・・」
このまま大人しく人形のように操られて王妃になる?
それとも、ここから逃げ出して本当の自由を手に入れる?
前者は考えたくもない未来だ。ならば、後者??
いや、ここから逃げ出した所で逃げ切れるわけがない。あの宰相がそうそう簡単に逃がしてくれる事などあるはずがないのだから。
ならば・・・・・。
「・・・・・思うとおりになんてなってやるものですか・・・・」
広い豪華な部屋を見渡し私の声はポツリと消えて行く。
ふと、目に着いた窓際の椅子に私は腰掛ける。
窓の外を見るとそこには自由に空を羽ばたく鳥達が楽しそうにさえずりながら広い空を飛びまわっている。
「・・・・自由な空で飛べる事が、貴方達の幸せよね?・・・私だって同じよ」
足首にひもをつけられて飛ぶ空なんて何の意味もない。
籠の中から自由を羨むなんて冗談じゃない。
これまで散々私から自由を奪ったんだから、そろそろ返してもらってもいいわよね?
鳥達は私の言葉を認めてくれるかの様に、窓の傍を旋回して遠くの空へと飛んでいった。
クスリと笑えば、扉からノックの音が聞こえた。
決して誰にも気づかせる事無く私は私の自由を手に入れる。
しばらく目を瞑り、息を整えると、以前の王女として笑っていた笑顔を張り付け扉に向かって声をかけた。
「・・・・・どうぞ、入りなさい」




