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我儘姫  作者: 睦月
12/24

第12話

この1年どれだけ私は我慢してきただろう。

何度、この城から逃げ出そうと思っただろう。

だけど、その度に思い知らされる。

私は、何も出来ないと・・・・。


「・・・・恨むのも疲れたわ・・・・」


ゴロンとベットに横になる。

交代で夜勤を行っている為、夜は一人で過ごす。

あの時与えられた部屋に今でも私は眠っている。

1年前、ハンカチを引いて座ったベットに今は身を預ける。

あの時軋んでいた音は今でも響く。

それでも、あの頃から体重が落ちベットから聞こえる音も軽やかな物になっている。


「憎くないと言ったらウソになるけれど・・・・」


シミがある天井を見つめながら思う。

日々の仕事に勤しむ間に、会った事もない王はもとより宰相と関わることもない。

それどころか、姿さえ見ることもない。

下女であれば当然と言えば当然だが・・・。

それでも、今日のエリナの様にどこかで見かけると言う事はあるらしい。

だが、私は絶対に彼らの姿を見る事はしなかった。そして、出来れば私の存在を忘れて欲しいと思っている。

彼らの支配下にある今、私の進退など自由なのだ。

私が今まで侍女などの使用人にしてきたように、彼らはいつでも私をこの城から追い出せる。


「・・・・・今でも見ているんでしょうね」


たまに感じる視線はきっと私を監視しているのだろう。


「そんなことしても、私にはもう何の力もないと言うのに・・・・」


そもそも、この国に入ったその瞬間から私の王女としての意味などないに等しいのだ。


「もう何も出来ない私の事などほっておいてくれればいいのに・・・・・!!」


城を追い出されたって構わない。

もうこんなところには居たくなかった。

いつ城を追い出されるのか常に怯え、私を監視している目がどれだけあるのか怯え、もしかしたら命だって奪われるかもしれない恐怖・・・・・。

それでも、わずかな期待を胸に私は必死になった。

仕事は、ここを追い出されてもいい様に必死で覚えたのだ。

エリナが覚えが早いと言っていたのだって、こちらにしてみれば背に腹は代えられないだけの話しだ。

何かないと私は何も出来ない。

掃除が出来ればどこかで雇ってもらえるかもしれない。


「お願い・・・・・・お願いだから・・・・・」


私を解放して・・・・・。

声にならない思いを抱いてその夜、もう身体がなじんでしまった固いベットの中に意識を沈めていった。




********************************


「リリィ!!!!」


エリナの大声に夢の中にいた私は、慌てて目を覚ます。


「な、な、なに!?」


上半身を慌てて起こせば、ベットの傍にエリナが立っていた。


「急いで!!早く!!」


訳もわからずエリナはまだベットの中にいる私の腕を引っ張る。


「ちょ、ちょっと!!エリナ!まって、何?どうしたの!?」


引っ張られる右腕を引き戻す様に力を入れれば、エリナは少しよろけた。


「何?じゃないわよ!?貴方一体何したの!?」


ベットに両手を着きながらすごい剣幕で私に近づいてくるエリナに身体を引きながら、ベットから下りる。


「何って?眠っていただけよ?一体どうしたっていうの?」


夜着を脱ぎながら、仕事用の制服に着替える。

最初こそ、一人で出来なかった着替えも難なく一人で出来るようになった。


「はぁ・・・。本当、スタイルが良くなったよね~・・・」


私が着替える姿を見ながら、エリナはぼぉっとそんな事をつぶやく。


「・・・・それは、どうも・・・・。で、何があったの?」


今まで働いた事のなかった私が、全身を使って働き始めたのだ。いやでも必要のないお肉が落ちて行く。

そんなことよりも、と、着替えが終わった私はエリナをみて先を促す。


「はぅ!!そうよ!!じ、侍女長様が貴方を御呼びなの!!」


エリナの言葉に私の動きは一瞬止まった。


「り、リリィ~・・・。貴方、本当に何したのよぉ~・・・」


自分の事の様に涙を浮かべながら私を心配するエリナにハッと意識を戻され、苦笑しながら答えた。


「・・・何もしてないわ。心配しないで、貴方は休んで?夜勤で疲れたでしょう?」


そう言って、エリナをベットに座らせる。


「で、でもぉ~・・・」


ぐずぐずと泣きべそをかきながらも私を心配そうに見上げてくる。


「本当、大丈夫だから。ほら、侍女長様に呼ばれているなら早く行かなければ失礼でしょう?私、行ってくるからエリナはゆっくり休むのよ!!」


そういうと、エリナが何かまた言い出す前に私は部屋から出て扉を閉めた。

後ろ手で扉を閉めたまま、扉に体重を預けると思わずため息が零れた。

侍女長からの呼び出しで心当たりがあるのは、仕事の事などではない。

当たり前の事だろうが、いつかくるだろうと思っていた事がとうとうやってきたのだろう。


「・・・・・・やっぱり、放っておいてはくれないのね・・・・」


扉からそっと離れると、私は暗い廊下を静かに歩き始めた。


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