第10話
私はあまりの言葉に呆然としてしまった。
「リリアーナ殿?大丈夫ですか?」
宰相に声をかけられてハッと己に帰った。
「・・・・・一体、どういうこと?」
今までに出したことのないような低い声が出た。
「どうもこうも、今、申し上げた通りです。あなたは今後、この国の・・・この城の下女として働いていただきます。国に帰りたいというのならどうぞ、いつでもご帰国ください。まぁ、あちらに帰ったところで受け入れられるかどうかは存じ上げませんがね。あぁ!そうでした。お父上からの手紙をお預かりしていますよ?」
そう言って差し出された手紙を私は無意識のうちに、取り上げるように奪った。
『愛するリリアーナへ
きっとこの手紙を読むお前は、怒り狂っているであろう。
しかし、レイスピア国の宰相殿の言うとおりである。
お前の事を思うと胸が痛いが、どうか異国の地でしっかりと頑張ってほしい。
たとえ、お前が嫌になったとして、帰りたくなったとしても、お前を受け入れることはできない。
よって、今後一切の連絡を禁じる。
きっと、お前ならできると信じているよ。
お前を愛する父より 』
「・・・・・なにこれ・・・・・」
馬鹿だ馬鹿だと思っていたけれど、自分の父がここまで馬鹿だとは思わなかった。
「ご納得していただけましたね?」
すっと今まで読んでいた手紙を宰相に取り上げられた。
「そういうことです。そうそう。付け加えさせていただくと、我が国では下女となるわけですから、カンミロイヤル国のような振る舞いはご遠慮下さいね。『姫』としてのご身分はこちらではないものとお思いください。そのようなことをして、困るのはあなたですからね。では、本日はこちらの国についたばかりでお疲れでしょう。どうぞ、先程案内された部屋に戻ってゆっくり休んでください。仕事は明日からお願いしますね」
そう言うと、宰相は奥の部屋へと姿を消した。
一体何の冗談なのだろうか?
この私を席に座らせることもなく、優雅にお茶を飲んでいた宰相が先程まで座っていた椅子を眺めながら思う。
そこに座っているべき人間はこの私ではないのだろうか?
お茶を飲んで命令できる権利があるのはこの私ではないのだろうか?
こんな部屋でくつろげる人間はこの私ではないのだろうか?
次から次に私がいるべき場所が、ガラガラと崩れさっていく。
「うそよ・・・・・ありえないわ・・・・・」
きっと何かの間違いのはず。
「そうよ!これは何かの間違いなんだわ!ルイナ!ルイナはどこなの!!ルイナを呼んで!!」
残された部屋で一人大きな声を出す。
だけど、誰も答えてくれない。
扉の前にいた騎士すら居なくなっている。
「ちょっと!!だれか!!誰か!!」
大声でどれだけ叫んでも何にもならない。
思わずそのまま床に座り込んでしまった。
「いやだ・・・。汚い・・・・・」
だけど、力が入らなくて立つこともままならない。
絨毯が敷かれているとはいえ、冷たい床の感触に惨めな思い。
だんだん、自分が置かれた状況を把握する。
認めたくないけれど。
「・・・・・・許さない」
ぽつりと溢れた言葉は冷たい床に溶けていく。
「・・・・・絶対に許さない」
この私をこんなふうに扱うこの国を。
この国の人間を。
冷たい床の上に座らされた屈辱。
あんな汚くて暗い部屋におしこめられる屈辱。
「全て覚えておくわ。・・・・絶対に・・・・・」
その日、私は最初に案内された部屋にいつの間にか戻っていたのだった。
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ここまでで第1章は終わりです。
引き続き第2章をお楽しみください。




