第七話 再び・夜の学校の静寂
携帯電話を閉じてから、しばらく達也も由香も何も言えなかった。
「とりあえず、急ぐわよ」
由香はあわただしく準備をして、達也を急かす。
「あ、ああ……」
でも、達也はあまりぴんとこなかった。
あの声の途切れ方は、電波の途切れたかんじとは少し違うような気がしたからだ。
なんていうか、上手く説明できないけれど、まるで……
「っ!?」
その答えにたどり着いた途端、達也はぎくりとする。
「進藤、ちょっと俺先に行っとく! 説明は後でするから!」
「ちょっと……」
由香が止めるのも無視して、達也は走り出す。
何も考える余裕がなかった。もはや一刻の猶予も許されない。
雨の中、達也は学校に着いた。
自慢の黒髪も、イニシャルが書いてあるTシャツも、ずぶぬれになってしまったけれど構わない。
校門は閉まっていたけれど、とりあえずよじのぼる。
「乙葉! 乙葉っ」
夜の学校は、酷く昼間とは別のものに見える。見える景色に、拒否されているように感じる。
「達……也……」
か細い声が、近くでする。
「乙葉か!?」
声のする方向に、達也が目を向けると、そこには考えても見なかった光景が映った。
乙葉の頭から、目から、足から、とめどなく血があふれて、顔面蒼白だった。
しかし、乙葉は止まることなく、ただ血がついた指で円陣を描く。
そして、乙葉は立ち尽くす達也に、たった一言、告げた。
「海藤成実を、殺せ」
それが乙葉の最期の言葉だった。
それきり乙葉は、二度と目を開けることはなかった……