エピローグ 空間の静寂
静かな、何もない空間。
そこに由香はいた。
「一体、どういうこと? どうして私をここに連れてきたの?」
イライラしながら質問をぶつける。海藤成実は、くすくす笑って由香を見る。
「遠藤先輩に、頼みがあるから」
静かな空間に、その声は大きく響く。由香の手に思わず鳥肌が立った。
「先輩には、まだまだ、頑張ってもらわないとね。それと、『死者』の人たちにも……」
意味深な笑みを浮かべて、海藤成実は由香に囁く。
「あんたは……一体、何者?」
感情を押し殺して由香が聞くと、海藤成実は曖昧に微笑む。
夜が明ける。
しかし、世界は狂い始めていた……
「さあ。そんなの誰にもわからない」
ざわざわと音が聞こえる。周りには何もないのに。
死ねないものへの鎮魂歌。それは、音もなく響く。全ての末路を物語る。
そんな不気味な音を聞きながら、海藤成実は手を高くあげる。まだ包帯が取れていないところを見ると、あまり軽傷ではないようだ。
「全ての死者に、誇りと尊厳を」
その手にゆらゆらと白い筋が集まってくる。
由香はそれをみて直感した。『死者』達だ。集まってきている……どうして?
「この死者達は、私が、取り戻すからね……」
海藤成実は、小さく笑った。
そして、由香の前に炎が燃え上がる。白く、そして穏やかに燃え続ける。
「どうして、そんなことを?」
歪む視界に戸惑う由香に、海藤成実の透き通った声が、優しく告げた。
「さよならの合図と、宣戦布告、かな」
第一部、楽しんでいただけたでしょうか?
第二部も投稿中なので、読んでいただければ幸いです。