第十三話 『守護者』の静寂
達也も海藤成実も、何も言わなかった。
そこにはただ、息苦しいような張り詰めた空気があって、何も言う事など出来ない。
彼女は全て知っていて、その上で校長たちを蘇らせ、生き返らせようとしている。そして、自分の父母を取り戻そうと……
「遠藤っ」
気が付くと、由香が達也をかばうようにして前にいた。
「進藤? どうして……」
由香は、海藤成実を見据えて、小さく囁く。周りで、なんとなく人の気配がした。きっと、『守護者』が到着したのだろう。
「今は何も……言っちゃだめ。海藤成実を……かわいそうだと同情したりしちゃだめ。とにかく、今は黙って……」
小さな声は、途切れ途切れにぼんやりと聞こえた。由香の来ている制服の裾から、だらんと無防備に傷だらけの腕が出ていた。
「おまえ、腕どうしたんだ?」
海藤成実は微笑しながら、達也と由香を交互に見つめている。目の前の光景を楽しむかのようで、由香の表情とは対照的だった。由香は達也の問いには答えず、ただ、海藤成実をにらみつけている。
3人の間にはただ、沈黙の時が流れていた。誰も何も言わず、それぞれの思いにふけっていた。
その時、風が吹いた。
世界の全てが吹き飛ばされそうな突風。肌に感じる鈍い痛み。
「なっ……」
目を開けることができない。
「遠藤っ」
由香が達也を呼んだ。透き通った声。
そして、目を開けた瞬間――……誰も、いなかった。