第十二話 象徴の静寂
電話を終えたらしい由香が、達也のほうに歩み寄ってきた。
「もうすぐ来るって。その間、時間稼ぎしといて」
そう囁いて、由香は急いで校門に向かって走る。
「先輩……私の計画をどうにかしようなんて考えないで下さいね」
微笑しながら、海藤成実は達也に告げた。
そんなこと、はっきり言って無理だ。誰もそんなこと望んではいない。目の前にいる少女以外は。
「じゃあ、なんでそんな無謀な計画立てるんだよ」
なんだかイライラして、思わず怒鳴りそうになる。しかし、今ここで怒鳴っても何の意味も価値もない、ただの馬鹿の発言になるので、どうにかして抑えた。
「う――ん、それを説明するのはまだ早いみたいですけどね。それに、長話だからあまり時間取りたくもないし……」
もったいぶりながら、海藤成実がくすくす笑って言う。
それでも、諦めたくはない。何年後になろうと、海藤成実をどうにかして……殺さないと、この学校も、達也も、由香も、そして海藤成実自身もどうなるかわからない。
危険ゆえに、自分の命の危機までさらしているというのに、海藤成実は全くおびえる気配がない。気づいていないのだろうか?
「自分の命が、大切じゃないのか? いらないのか?」
彼女の手の包帯が全てを物語っていた。自分の命なんかいらない。削ったっていい。ただ――……独りにしないで。
怖いから。傍にいて。誰でもいいから。
死んでもいい。むしろ、死にたかった。今でも死にたいけれど、死ねない。
死ねないものの鎮魂歌――その象徴、海藤成実。