第十一話 海藤成実との静寂
由香も乙葉も、今初めて達也に言うのだった。
前々から言って欲しかった事を、今言われるのはやはり、辛いものがある。
「……離れるのか?」
いつかは、全てが消えてしまうときが来るのだろうか。その時には、全て洗い流せられるのだろうか。
乙葉の死も、海藤成実の企みも、由香の頼みも、そして、自分の決断さえ。
由香が携帯で『守護者』の他の員を呼ぶ間、達也は海藤成実を見張っていたが、特に新しい動きはしていなかった。ただ、校長達の動かない人体を興味深げに、そして哀しげに見つめていた。
「あなたは、何をしたいんですか」
まっすぐに海藤成実を見据え、達也は問う。
知りたかった。乙葉を殺してまで、こんな奇怪な部屋を作ってまで、達成しなければならないその『目的』が。
「『何がしたい』ねえ……じゃあ、先輩は、この校長達をどう思います?」
哀しげな瞳が、達也に向けられた。
「もう、校長達のここでの使命は終わった。もう死んだんだ。乙葉と同じだ。生き返らない……」
そうだ。この校長達はもう死んでいて、乙葉も死んでいる。
死んだんだ。生き返らないんだ。泣いたって喚いたって怒鳴ったって、何したって帰ってはこない。
「私も、そう思います。だけど、この人たちは生き返ります」
無垢な瞳。決して嘘を言っているようには見えなかった。
「……うん、そう」
目の前にいる少女は、人を殺してまで、自分をぼろぼろにしてまで、それを信じて、ずっと実行しようとしていたのだ。
達也にとっては、仇でしかない後輩の海藤成実だけれど、それは避けられない事……この計画は、即座に止めなければいけない。
それは乙葉から託された役目で、同時に達也の最大の葛藤だった。