第九話 隠された部屋の静寂
「……じゃあ、おまえは……」
達也は次の言葉をやっとのことで飲み込んだ。
目の前にいる海藤成実は、動じることは一切なく、ただ目を細めて状況を観察していた。
「先輩には悪いけど、私はもう後戻りはできない。だから……」
海藤成実は静かに、錆びたナイフを取り出す。
「死んでもらいます」
自分が死ぬ事にどうとも思わない。
でも、まだ駄目だ。ゆずれないものがある。
「……終われるかよっ」
乙葉は死んだ。だけど、自分は生きている。
まだあきらめられないのだ。自分が何かできると思いたかった。
錆びたナイフが、達也の頬をかすめる。
鮮やかな赤い血がすう、と流れ落ちた。
「わかりました。先輩も、一緒に来て見てください。私の計画を……」
正気を失ったようなギラギラした目で、海藤成実は達也を睨む。
そのやり取りを見ながら、由香はぽつりと呟く。
「人を殺してまで、達成しなければいけない計画なんてあると思ってるの?」
しかし、誰も反応しなかった。
達也は、今何より乙葉の死を肯定されるのが怖かったからだ。
由香の言葉を自然に受け流すほかできない。
コツ、コツ……
学校の校舎の方に向かって、海藤成実は歩いていく。
すると、昼間の学校にはなかったはずの扉に行き着いた。
「ここは……?」
達也と由香の疑問を見て取ったように、海藤成実はさらりと言う。
「私が作ったんです。下手に見られないようにいろいろ細工しました。どうぞ」
そう言われて、二人が中に入ると、中にはおぞましい光景が広がっていた。