↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

笑顔のキミへ

作者: 桜田桂馬
掲載日:2026/11/03

キミに初めて会ったあの日

僕が居るとも知らず 家の裏口ドアから 出ようとしていたね

ほんのすぐ先の 紅葉の木漏れ日の間に 僕をみとめた途端 くるっと後ろを向いた。

長い髪がぱさっと当たり ドアがバタンと閉まった

スリッパを片方 落としたままのその瞬間、僕は挨拶の機会を失った

高校生のキミが 黙って引き返してしまうなんて 思ってもみなかったもの


 キミは忘れただろうが 僕は、覚えているよ 本当に、最初に会った、その日を

キミが二歳で ボクは五歳だった

あのとき、母の実家で キミと初めて会ったんだ

キミは真っ白なタイツを履き ピンクのスカート

それに白のブラウス、 頭に真っ赤な帽子をつけていた

倒れはしやしないかと思うほど 前傾して走るキミを見て

ボクはヒヤヒヤしてたんだ

ボクの方に走ってきた時 思わずつかまえて 抱きしめたのを 覚えているよ


 その夜、おばさんがこう聞いたよ けんちゃん、寝ぞう、いい?って

ボクは、だまって頭をちょこんと下げたの

それでボクは、キミと一緒に眠ることになった

あの夜は、月夜だった

レースのカーテン越しに 月の白い光がさし キミの横顔を照らしていた

そんなことは、お構いなしに キミはすやすや寝てたね

ボクは、ほんの手の届くところで キミの横顔を眺めていた

可愛いほっぺを ちょんと人さし指で 突いてみたけど

キミは振り向きもしなかった

翌朝、キミの母さん、何てったかわかる?

けんちゃん、寝ぞう悪いね って

だって朝起きたら キミとボクとが、入れ替わっていたもの


 その日から15年経ったあの日 キミにとって、初めて、僕に

僕は、またキミに、出会うことになった

僕はキミの家に、下宿することになって

毎朝、殆んど一緒に食事したね

叔母さんの料理、とってもおいしかったよ

でも、一緒にいるのに 最初は少しも話さなかったね

僕もセーラー服の、高校生のキミに 何を話していいか さっぱり見当がつかなかった


 そのうち、アパートを見つけて 僕は引っ越したけど

殆んど週に一度、キミのうちへ 御飯を食べにいったね

僕は叔母さんの手料理がおいしくて

キミの話が聞けるのが嬉しくて 幸せだったな

そのうち僕は 殆んどキミの家に行かなくなった

何故だかわかる?

名家のキミは 僕の従妹だけど 僕はキミの兄貴分なんだ

キミは僕より早く結婚して 僕より早く幸せになるって そう信じてた

時折キミの家へ行くと 叔母さんが夕食を作ってくれたけど

キミが作る料理がおいしくて 初めて食べる、グラタンとかフランス料理とか

料理学校は、いいこと教えるね

その頃は、随分打ち解けて キミは何でも話してくれたね

キミとの話で、時を忘れたよ


キミが、25歳の誕生日の翌日 たまたま僕は またご馳走になったね

いつものように キミの料理おいしかった 話も楽しかった

でも、帰りがけに 困ったことを、キミは言ったね

あまりに突然で 僕は答えられなかった

けんちゃん だれも貰い手なかったら もらってね って

僕は、それから キミんち 行けなくなった

僕はキミの兄貴なんだから


次の年の冬、僕は見合いで、結婚が決まった 式は11月だった

キミも僕より遅く、見合いで結婚が決まった

式は僕より早く、6月だった 二組の見合いと結婚式が 同じ年だった

良かったよかった と僕は思ってた


 そんなある日、おじさんに頼まれて キミの運転練習の助手として 二人して琵琶湖まで行ったね

初めて外で、二人きりになったけど

これが、最初で、最後だったね

帰宅して、別れぎわ 初めてキミが 僕に怒ったね

僕は何が何だか、分からなくて 謝ることもしなかった

なんでキミが怒ったか分からず おろおろするばかりだった


 それからキミはドクターと結婚し そのあと僕が結婚した

手荒れの跡を見せ合い それぞれの幸せを キミと、僕の妻とが話してて

僕はよかったな って思ってた


 その後6カ月で キミは離婚し実家に戻った

理由は知らないが とにかく悲しかった

妹のようだったのに


 おばあさんの葬式に キミの家に暫くぶりに行った時

二階でキミに、ばったり会った

なんにも言わずに 目が合った時 、思わず駆け寄って キミを抱きしめた

キミの長い優しい髪が 僕の首にふれ なんでこんな子を離婚させたと 僕は思った


僕は二度 キミを抱きしめた

二歳の時と、そして、今と

なにも 言わずに 抱擁を解き

なにも 言わずに 家路についた

妻には、何も言わなかった

妻とキミはリズムが似てた

ゆったり ゆっくり 流れのように


その後 次の結婚式に、僕の母が呼ばれ 式場に僕は、呼ばれなかった

僕は入り口で花束を持って 招待されない客で行ったら

見事に係に断られた


今度は必ず幸せになってほしい

そんな願いを、いっぱい花束に託して

必ず、キミがそうなるよう 祈りを込めた

キミと新郎に花束を渡した時 今度は必ず幸せになるって確信したの

僕の願いの花束が届いたから


あれから、随分経った キミは今でも幸せそうだ

僕の妻とウマもあうし

今なら あの時、キミが怒った理由 聞いてもいいかい?

ボクも少しだけ大人になったから

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。