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5、孤独

 次の日。

「風邪ね。母さん仕事行くけど、後で一人で病院行くのよ」

 ベッドで寝ている美波に、母親が体温計を見ながら言った。

「いいよ。薬飲んでれば治るから……」

 美波が言う。昨日、雨に濡れて帰ってきたからか、昨日から熱が出ている。

「まったく……まあ、大会もあって疲れも出たんでしょ。今日はゆっくり休んでなさい。おかゆ作っておいたから、後で食べるのよ」

「はーい……」

 そう言い残すと、母親は仕事へと出かけていった。

 家に一人残された美波は、親友の千笑と喧嘩したショック、そして許されない恋の相手である田村のことで、気持ちが晴れることはなかった。

 その日一日、美波はいろいろなことを考えていた。


 次の日。熱の下がった美波は、行きたくないと思いつつ、学校へと出向いた。喧嘩してしまった千笑とは、クラスが違うために朝一番で会うことはなかったが、隣の席は田村であるため、気まずさは変わらない。

「おはよう、美波ちゃん。具合は大丈夫?」

 後ろの席の女子が、美波に話しかけてきた。

「あ、おはよう。うん、大丈夫……」

「風邪だってね。田村も昨日、風邪で休んでたから、二人揃ってサボリじゃないかって噂飛んでたんだよ」

「えっ?」

 美波は二つの意味で驚いた。田村も昨日は学校を休んでいたこと、そして同じ日に休んだというだけで、二人でサボリだと噂が立ったということだ。

「田村も風邪? でも、どうして二人でサボリだなんて……」

「だって、二人仲が良いじゃない。ぶっちゃけ、付き合ってるんじゃないの?」

「ま、まさか!」

 その時、田村が教室に入ってきた。

「田村、おはよう」

 美波と話していた同級生が、挨拶をする。

「うん、おはよう……」

 田村は美波を見て軽く会釈すると、すぐに席に着いた。いつもの田村なら、ちょっかいを出すように気軽に明るく話しかけてくれるはずであるが、なんだか妙によそよそしい感じに見える。

「田村、風邪だって? 美波ちゃんも、風邪で昨日休んでたんだよね。うちのクラス、二人が揃ってサボってるんじゃないかって、昨日はその話題で持ちきりだったんだよ」

「……何も知らないのに、そういうからかい半分、やめてくれよな。鈴木にだって迷惑かかるし、俺たち、べつに付き合ってるわけじゃないから。俺、彼女いるし」

 いつになく拒否する態度で、田村がそう言った。静かな言葉だったが、クラスメイトの誰もが見たこともない、田村の怒った顔である。

「あ、うん。ごめーん……」

 同級生はそう言うと、すぐに別の人と話し始めた。

 美波も席に着き、いつもと違う様子の田村の横顔を見つめた。そんな美波の視線に気付いて、田村が美波を見つめる。

「……何?」

「あ、ううん……昨日、休んでたんだって?」

「ああ、うん……」

 生返事で答える田村は、やはりいつもとは違うようだ。

「私も風邪引いて休んでたんだ……ホント、偶然二人で同じ日に休んだからって、噂立つなんて困っちゃうね……」

 苦笑しながらそう言う美波に、田村は少し俯いた。

「……ごめん。悪いけど、もう必要以上にしゃべるのやめない?」

 突然、田村がそう言った。美波は一瞬、何を言われているのかわからなかった。

「えっ……?」

「……千笑の友達だからって、しゃべり過ぎてたみたいだから。千笑に誤解されても困るし」

 田村の言葉は、何の温度もなく、美波の心を冷たく吹き抜けていった。自分から告白することなくふられたように、田村を好きでいることすらも拒否されたように思える。

「あ、はは……うん。そうだよね……」

「ああ、昨日の試合、残念だったな……でも、また頑張れよ」

 そう言って、田村は顔を背けた。美波には、もう田村の横顔しか映らない。


 またその日、突然の席替えが行われた。廊下近くの一番前の席を引き当てた美波とは正反対に、田村は窓際の席であった。

 沈みかけた心に追い討ちをかけられたように、美波の心はどん底まで沈んでいくようだった。


 その日から、美波と田村がしゃべることはなくなっていた。お互いがお互いを避けるように、目を合わすことすらない。

 また、美波と千笑も、和解などまったく出来る気配ではなかった。たまにすれ違う廊下でも、挨拶一つ交わすこともなかった。

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