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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

赤い魔女の店番と転生令嬢

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/02/04

手慰み、第数弾でございます。

ちょっぴり、長めの短編でございますので、暇な時に流し読みしていただければ、幸いでございます。

 赤い魔女の休店日に、店番を呼ぶのは久しぶりだった。

 長らく扉の鍵の修理が出来ずにいたのを、数か月前に修繕でき、店番を置く必要が無くなったのだ。

 前々からの体制に戻し、その後暫く困る事態はなかったのだが、今回は子の店番に押し付けたいと考えての、呼び出しだ。

「……不穏な理由ですね。一体、何事ですか?」

「前に、年子の姉妹の相手をお願いしたことが、あるだろ?」

 薄色の金髪の店番と同じく、長身の赤毛の魔女は、困ったように要件を切り出した。

 その前置きで思い当たり、店番は頷く。

「確か、地球からの転生者が、意外に出現する世界の、ご令嬢たちでしたね?」

「そう、その子たち」

 綺麗に整った顔が、安堵に染まるのを見ながら、店番はその問題の姉妹の事を思い出していた。


 まだ、店の扉の鍵が破壊されたままだったあの頃、閉店の札を見つつも扉を開けようとする客の対応を、店番は請け負っていた。

 その中の客に、一風変わった姉妹がいたのだ。

 客の気配で歩み寄り、店番が扉を開けて言葉を紡いだ途端、悲鳴を上げられた。

 驚いての悲鳴ではなく、明らかに自分を見上げた後の反応で、内心驚く店番に、客の一人が震える声で言う。

「う、嘘っっ。赤い魔女の店があるから、もしかしたらとは、思ってたけどっ」

 叫んだ客の袖をつかみながら、もう一人の客も叫んだ。

「レアキャラ、赤い魔女の店の、隠れお助けキャラっっ。見つけたあっっ」

 扉の前で騒ぐ客たちを見て、店番はつい言ってしまった。

「……ご用件は、以上ですか?」

 話について行けないなら、直に追い返すに限ると言う考えでの問いかけだったのだが、それも黄色い悲鳴で答えられた。

「す、すごいっ。本物だあっっ」

「……あの、店の前で泣かれるのは、困るのですが」

 出来るだけ困惑を声に出しながら、そう言ってみると、泣き出した客を宥めたもう一人の客が、ようやく要件を言った。

「あ、あの、このお店で、依頼していたことの報告を、頂きにまいりました」

 興奮しすぎて、顔が赤く染まった客の言葉で、店番はこの二人の要件を察した。

 この赤い魔女の店は、いくつかの世界に同時に存在する店だ。

 扱う品は場所それぞれで、この客たちのいる世界でも、様々な品が人気なのだが、この世界で高貴な人間の、後ろ黒い事情を解決する品と同じように、秘かに需要になっているのが、「死因探し」だ。

 所謂探偵もどきの依頼なのだが、この世界では分かるはずのない、前の人生での死因を、赤い魔女は調べて本人に報告する。

 その報告は、店が開いている時分に、赤い魔女から受けるのが常なのだが、今回は日時が合わなかった模様だ。

 店番は、二人の客を招き入れ、カウンター内でその報告の書類を探し出して開き、事務的な報告をしたのだった。


「……その御姉妹が、どうしました?」

「うん、その姉妹のお姉さんのほうが今日くるって、先触れがあったんだよ」

 店番は、その答えに含みを感じて、眉を寄せた。

「先触れ? という事はもしかして、前回も、ありました?」

「……あれ、教えてなかった?」

「はい」

 慌てて取り繕う赤い魔女を見つめ、何となく意図を察した。

 この人は先触れで、あの日報告を聞きに来る客たちを知り、店番にその役を丸投げした、らしい。

 そして、今回もそのつもりでいる。

「……店主?」

「……だって、あの死因だよ? うら若き娘さんたちに、平然と教えられる神経を、私は持ってないのっ」

「すみませんね。そういう神経持ちで」

 平坦に返すと、魔女は更に慌てた。

「そ、そんな卑屈にならないでっ。私は、適材適所でっ。ほらっ。うちの猫たち、そういう話には、流されやすいだろっ? それに、お前のように、臨機応変で報告するほど、要領もよくないんだよっ」

 苦し紛れの言い訳だが、的は射ていた。

 確かにあれは、初見での対応は難しい。

 店番が報告書を開き、客二人の名前を探して内容を読んだとき、一瞬だけ、店主に毒づいてしまった。

 が、客にはおくびにも出さず、曖昧な報告をしたのだ。

 依頼内容は、姉妹の前世の死因。

 二人共の死因を依頼されていたが、どうやら姉の方のそれは、お試し行為もあったようだ。

 姉の方の死因を報告した時、それは分かった。

 どの世界でも、その手の詐欺はあるので当然の話だ。

 そこで得た信頼を逆手の取り、妹の死因をぼかした。

 余りに衝撃的な死因であったためだが、そのせいで、二度手間させる羽目になったので、今回の接客も、自分がやるのがいいのだろうなと、店番は観念した。


 今年十五になる伯爵令嬢は、前世の記憶がある。

 ごく普通の日本女性で、高校生の時に母を亡くし、父が再婚するまでは家事を請け負いつつも、大学を出、卒業して就職後すぐに病に倒れて、宣告通りの余命を全うした記憶だ。

 父の再婚相手だった相手には、自分が母を亡くした年と同じ娘がおり、年が離れていたこともあって、意外にも仲のいい義姉妹だった。

 その記憶を取り戻したのは、物心がついた頃、だった。

 その時には既に、一年遅れで誕生した妹がおり、前世では血のつながりがなかった妹だと気づいた時は、混乱した。

 両親の間に、弟となる子供ができ、妊娠出産育児を手伝う合間に、病に倒れた自分を日にちを開けずに見舞ってくれ、姉の代わりに家族を支えると言ってくれていた妹が、自分とさほど間を置かずに転生している事実が、衝撃だったのだ。

 後に前世を思い出した妹も、何故姉と年子になるほどに早く転生する事態になったのか、思い出せなかったようだ。

 それを不思議に思いつつも、二人はそれぞれ成長したのだが、その疑問を解決する糸口が、唐突に見つかった。

 それが、メイドたちの中で評判の店、だった。

 赤い魔女、と自称する赤い髪の女が経営するその店は、平民たちの間では有名な店で、様々な便利な日常雑貨を、安くで販売していると聞いて、興味を抱いたのが始まりだ。

 前世の感覚を引きずっていた姉妹は、メイドに頼み込んで服を手に入れ、お忍びでその店にやってきたのだ。

 そこに陳列されていた品は、前世では馴染みのある品ばかりで、二人は時間を忘れて物色し、品を厳選してカウンター席の方へと清算しに向かうと、そこに店主がいた。

 女にしては長身の、暗い赤毛の美女は、この世界でも珍しい色合いの、赤い瞳を細めて笑った。

「もしかして、転生してきたかな?」

 一目でそれを看破され、二人は仰天するとともに、ある記憶が降ってわいた。

 どのゲームか分からないが、ここが乙女ゲーム系の作品の、お助けキャラに会える店だと、唐突に思い出したのだ。

 乙女ゲームなんか、全く手を出していなかったにもかかわらず、二人ともそうだと思い込み、清算してもらっている間に、姉妹で感激を共有した。

 そんな二人に、魔女はおつりと共に一枚の紙を差し出した。

「?」

「時々ね、この世界に転生することになったのか、分からなくなって悩む人が、この世界にはいるんだ。気にならないならば、ただのゴミとして捨ててもいいけど、もし気になるならば、この紙の通りにやってみて。指定日までに、その答えを探し出すから。勿論、それ相応の対価はいただくけど」

 何でもないようにそう言われ、屋敷に戻ってきた。

 その紙に書かれた方法を試し、日時を指定して店に行き、店番の人に姉妹の死因を報告してもらったのが、数か月前だ。

 名前を問われ、その個所にある記述を、店番は淡々と読み上げてくれた。

 姉である自分の死因は、病死。

 妹は、凶悪な物体に衝突されたことによる、事故死と報告された。

 その前に、前世の姉妹の経緯を細かに当てられていたため、それに驚いてしまってその曖昧な報告を聞き流していたが、屋敷に戻って考えてみたら、どう考えても不穏な言葉があった。

 だが、改めて深く尋ねに行く余裕が作れずに、数か月過ぎてしまった。

 いや、本当ならば、そのままうやむやになりそうだったのだが、そうもいかない事態が起こった。


 この間のように、休店日の札のかかった扉の取っ手に手をかけると、すぐに開いた。

 今回は、誰も内側から開かない。

 恐る恐る扉を大きく開くと、中の方から声がかかった。

「いらっしゃいませ。そのまま奥へどうぞ」

 その声と同時に、この間のように店内に明かりが灯った。

 恐々と店内に入って扉を閉め、カウンターの方に向かうと、立ち上がった店番がいた。

「どうぞ、この奥へ」

「は、はい」

 カウンター内にまで案内され、応接室らしき部屋に通された。

 小さなテーブルの傍の、古いソファを勧めながら、店番は短く言う。

「しばらくお待ちください。もう一人、同じ案件でのお客様が、いらっしゃる予定なので」

「えっ?」

 思わずぎょっとして振り返った客に、店番は少しだけ微笑んだ。

「女性の方ですが、あなたの妹さんではありません」

「……」

 そう、この笑顔にも騙された。

 思わず見惚れつつも、伯爵令嬢は必死に睨み返した。

 そんな客に少しだけ首を傾げつつ、店番は茶を淹れる。

 そうしているうちに、扉が再び開き、店番は同じようにカウンターの方に向かった。

 そうして案内されてきたのは、見知った令嬢だ。

「っ」

 二人して息を詰めるのをよそに、店番はもう一人の客にも席を勧める。

 そして、同じように茶を出すと、二人並んだ客の向かいに座った。

 その手には、この間の時と同じように、報告書がある。

「まず、どちらの依頼から、お話しましょうか?」

 切り出された客は、顔を見合わせた。

「……伯爵令嬢、あなたから、どうぞ」

「……よろしいのですか? 公爵令嬢」

「ええ。この方がどうして、あなたと合同の面談を推奨したのか、未だに分かりかねているの」

 それは、こちらも同じだ。

 戸惑いながら頷き、伯爵令嬢は店番を見た。

 男にしては小柄で、女にしては長身の、中性的な美貌の店番は、客の無言の促しを受け、話し出した。

「まず、先の時に曖昧に報告いたしました、妹さんの死因について、お話いたします」

 一拍おいたのは、客の心を慮ってのことだと、続いた言葉で気づいた。

「妹さんは二十代の、刃物を持った男に体当たりされ、亡くなりました」

 緑茶が入っていた湯呑が、伯爵令嬢の手から零れ落ちた。

「はあっ?」

 湯呑を一瞥し、中身が入っていなかったのを見て取ると、店番は続けた。

「時期は、お姉さんが亡くなった日の、午後です。場所はその病院内で、葬儀の手配や準備のために、一旦家に戻ろうとしていた、駐車場内です」

「……っ」

「ご両親と弟さんは、直に妹さんを病院内に運び込み、病院の方もすぐに対処をしたのですが……運び込まれたときには、既に心肺停止状態で」

 蘇生を試みたが、手遅れだった。

「……っ」

「……犯人の男は、警察によってすぐに発見されましたが、その時には既に、病院の屋上から身を投げて、死亡していました」

 やり場のない感情が、応接間を重く静まらせる中、店番は平坦な声で、更なる衝撃を告げた。

「その時に、彼の犯人は、入院患者の見舞客を一人、巻き込んでいます」

 もはや呆然とするしかない伯爵令嬢の隣で、公爵令嬢が肩を勢いよく跳ね上げた。

 顔を上げると、高位の令嬢は青ざめた顔で、店番を凝視していた。

「……その見舞客が見舞っていた患者は、末期のがん患者で、その後一週間ほどで、この世を去ったようです」

 静かに告げた店番の声で、公爵令嬢の肩から力が抜けた。

 途方に暮れた感情が、表情に滲む。

「矢張り、あれは……」

 そのまま黙り込んだ公爵令嬢から、こちらに目を向けた店番に、伯爵令嬢は真顔で問いかけた。

「その、犯人の男、どんな男だったんですか?」

「あなたの、同窓生です」

 矢張り。

 怒りで声が震えるのに構わず、客は更に問う。

「どういう理由で、妹を?」

「懸想していた、というのが、世間の見解です。遺書では、妹さんと愛し合っていたことになっていたようですが、一度も接触がなかったと、周囲は証言しています」

 平坦な声の答えを、伯爵令嬢は低い声で裏付けた。

「ええ。あの男は、わたくしとも殆ど、面識がありませんでした。確かに、小中高と同じでしたが。周りに埋没するタイプの男で……何処で、あの子を見たんでしょうか? そして、どうして、あの男が、この世界に生まれ変わっているのですかっ?」

 目を丸くした店番に、公爵令嬢がようやく声を出した。

「……わたくしの上に落ちてきた男、わたくしの婚約者の、弟です」

「……」

「そして、この度この方の、婚約者になりました」

 店番は、珍しく呆れた顔をした。


 今回の客の公爵令嬢と伯爵令嬢のお相手は、王子殿下だ。

 公爵家は王太子殿下、伯爵家は第二王子殿下と縁を結ぶことになったのだ。

「侯爵家には、娘がいないがために、伯爵家にお鉢が回ってきたようですね」

「ふうん」

 あの令嬢たちの世界は、転生者が多い。

 大概、記憶がある転生者は、不遇な死を迎えた者が多く、そして死に関係した者たちが集結する、謎の現象もあった。

 だが……。

「犯罪者が、転生してきた事例は、初めてだな……」

「妹さんに、くっついてきたんでしょう」

 うわあ。

 赤い魔女が、心底嫌そうに顔をしかめた。

「付きまとい? ストーカー?」

「はい。しかも、妹さんは全く、気づいていなかったようですね」

 そして今後も、知られたくないのだと客は言った。

 もう一人の客の方も頷き、そして懇願してきた。

 王太子殿下が、第二王子殿下を見る目が、尋常ではない。

 最悪な事態になる前に、止めて欲しいと。

「王太子殿下というのが、男の飛び降りに巻き込まれたOLの、元恋人だったようです」

 余命が少ないと悟り、男は恋人に別れを告げた、その日に事件は起こった。

 事件の被害者の一人に、自分の元恋人がいたなど、家族は話さないだろうが、男は知ってしまった。

「……どうやら、恋人が病院を去る後姿を、ずっと見送っていて、目撃してしまったようです。落ちてくる男と、恋人が衝突する場を」

 また、うわあ、だ。

 何でこの子は、そんな話を平然とできるのか。

 そんな顔になってしまった後、魔女は不思議に思った。

「? その男の心境を、どうして知ってるんだ、お前は?」

「さっき、聞いてきました」

「っ?」

「どの世界でも、王族にかかわる話は、人任せにしない方がいいと、勉強したので」

 話の間中、応接室で何やら作り出していた店番は、ようやく魔女を振り返った。

 そして、微笑んだ。

「王太子殿下を、犯罪者にするわけには、いかないですからね」

 今回は自分が動くと、店番は言い切った。


 第二王子との婚約が決まって、初めてのお茶会の日。

 朝から王城より使いがあった。

 そして、第二王子が急病で、訪問できなくなった旨を伝えられた。

 もし、妹と会ってしまったら、どういう反応をするのかと、不安と緊張で胸を膨らませていた伯爵令嬢は、盛大に安堵したのだが……。

 その後、数日と絶たぬうちに、第二王子の病気を理由に、婚約が白紙に戻された。

 残念がる家族を見ながら、当の令嬢は飛び跳ねたい気持ちになっていたのだが、矢張り明確な事情が分からない。

 真相がわかったのは、それより更に数日後だ。

 正式に王太子の婚約者となった公爵令嬢が、お茶会に招待してくれたのだ。

 そこで他のご令嬢経由の噂と、公爵令嬢の知る事情を聞いた。

「……第二王子殿下は、目が見えなくなったようなのです」

「はあ……」

「しかも、好いた女性の姿が、軒並み見えなくなってしまったそうで、御乱心して、王城で暴れてしまったそうです」

「まあ……」

 事情を聞いても、意味不明だった。

 何故突然、そんな症状になったのか。

 その後何年経っても、謎のままだったが、結果はすぐに出た。

 王太子が無事婚姻する数か月後、第二王子は病死した。

 軟禁されていた己の部屋の窓から飛び降りたとか、毒を飲まされたとか、まことしやかに囁かれたが、実際にどういう死を迎えたのかは分からない。

 だが今回は、周囲を巻き込むことはなかったようだと、婚姻パーティで王太子は笑っていた。


 店番は、不思議だった。

「……この店が出て来るゲームなんて、あるんですか?」

「え? 聞いたことがないけど? もしかしたらこの店、記憶の捏造もするのかも知れないね。ほら、あの例の怪木が、大黒柱に使われてるし」

「……こんな所にも、弊害が」

 遊ぶのはいいが、加減してほしいものだと、店番は思うのだった。


 

 





転生ものを書いたら、こんなん出ましたけど……(古)


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