表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正義のヒーローはオメガでした。悪の幹部に正体がバレて求愛されています  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

第5話「月下の密約」

 戦いの後、俺は指定された場所――廃ビルの屋上に立っていた。


 呼び出したのはエイスケだ。


 戦闘中、彼が氷で作ったメッセージボードを一瞬だけ見せたのだ。


 『2200 K-7地区』


 罠かもしれない。


 そう疑いながらも、俺は変身を解いた姿でここに来ていた。


 夜風が熱を持った頬を冷やしていく。


 錆びた鉄柵に寄りかかって待っていると、闇の中から足音が聞こえた。


「来たか」


 エイスケだった。


 昼間の戦闘服ではなく、ラフなジャケット姿だ。


 手には、缶コーヒーを二つ持っている。


「はい、お疲れさん」


 放り投げられた缶を、俺は片手で受け取った。


 温かい。


「……毒入りじゃないだろうな」


「俺がそんな姑息な真似をすると思うか?」


 彼は自分用の缶を開け、いかにもうまそうに一口飲んだ。


 俺もためらいながらプルトップを開け、コーヒーを口にする。


 甘いミルクコーヒーの味が、疲れた体に染み渡る。


「どういうつもりだ。今日のあれは」


 単刀直入に聞いた。


「味方を妨害してまで、俺たちを助けるなんて。ネビュラでの立場が危うくなるんじゃないのか」


「あの程度で揺らぐ立場じゃない。それに、あいつらは俺の美学に反する」


 エイスケは夜景を見下ろしながら淡々と言った。


「弱い者をいたぶって喜ぶような連中は、見ていて反吐が出る。俺が戦いたいのは、お前たちのように信念を持って向かってくる強者だけだ」


「だからって、助ける理由にはならないだろ」


「理由は言ったはずだ。お前は俺の番だからだ」


 彼は振り返り、真っすぐに俺を見た。


 月の光に照らされたその顔は、憎らしいほど美しく、そして真剣だった。


「アルファとしての本能が、お前を守れと叫んでいる。組織の命令よりも、その声の方が俺にとっては重要だ」


「……お前は、敵だ。俺はヒーローで、お前はヴィランだ。それは変わらない」


「そうだな。だが、だからこそ燃えるとも言える」


 エイスケは一歩近づいてきた。


 俺は逃げなかった。


 逃げれば、彼に負けたことになる気がしたからだ。


「カイ。ネビュラの上層部は、次の作戦で禁断の兵器を使おうとしている」


「禁断の兵器?」


「街一つを消滅させるほどの威力を持つ、エネルギー暴走炉だ。制御不能な怪物を生み出し、無差別に破壊をまき散らす」


 息をのむ。


 それは、ただの侵略じゃない。


 虐殺だ。


「俺はそれを止めるつもりだ。だが、組織内部から動くには限界がある」


「……まさか、俺たちに協力しろと言うのか?」


「共闘だ。お前たちの力が必要だ」


 彼は手を差し出した。


 その手は、かつて俺に氷の槍を向けた手であり、そしてマントをかけてくれた手でもあった。


 信じていいのか。


 敵の幹部を。


 だが、彼の瞳に嘘の色は見えなかった。


 何より、俺の本能が「この男を信じろ」と告げている。


 運命の番という忌々しいつながりが、今だけは頼もしい道しるべのように思えた。


「……条件がある」


「なんだ?」


「俺の正体を、絶対にバラさないこと。そして、この作戦が終わったら、改めて正々堂々と勝負すること」


 エイスケは満足げにうなずき、口元を緩めた。


「ああ、約束しよう。その時は、ベッドの上での勝負も受けて立つが?」


「ふざけるな!」


 俺は顔を真っ赤にして、彼の手を強く握り返した。


 彼の手は冷たかったが、その奥にある熱意は、確かに俺の手に伝わってきた。


 月明かりの下、敵同士の、そして番同士の奇妙な同盟が結ばれた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ