番外編「将軍とヒーローの休日」
平和になったある日の週末。
俺のアパートのチャイムが鳴った。
ドアを開けると、そこには花束とケーキの箱を持った不審者――いや、変装用の帽子とサングラスをしたエイスケが立っていた。
「……何しに来た」
「『ただいま』も言えないのか? 愛しの番よ」
「ここは俺の家だ! お前の帰る場所じゃない!」
文句を言いながらも、俺は彼を招き入れた。
エイスケは勝手知ったる様子でリビングに入り、ソファに腰を下ろす。
彼は今、世界中を飛び回りながら裏稼業のようなことをしているらしいが、こうして時々、ふらりと俺の元へ帰ってくる。
「お土産だ。南の島でいいワインが手に入った」
「任務中になに観光してるんだよ」
「お前の喜ぶ顔が見たかっただけだ」
さらりと言われて、俺は顔を赤くする。
悔しいが、こいつには一生敵わない気がする。
キッチンで夕食の準備を始めると、背後から抱きしめられた。
首筋に顔を埋められ、深く息を吸い込まれる。
「……いい匂いだ。落ち着く」
「邪魔だ。料理できないだろ」
「しない。今日はテイクアウトでいい。それより、俺は空腹なんだ」
「だから今作って……」
「違う。俺が食べたいのは、そっちじゃない」
耳元で甘くささやかれ、腰に回された手がシャツの下に潜り込んでくる。
体温が急上昇する。
「お前っ、まだ昼間だぞ!」
「関係ない。久しぶりに会えたんだ。少しくらい我儘を聞いてくれてもいいだろう?」
エイスケは俺のうなじに、独占欲たっぷりのキスを落とした。
ああ、もう。
この男のフェロモンには、どうしても抗えない。
俺は観念して、ガスコンロの火を止めた。
「……シャワー、浴びてくるから待ってろ」
「一緒に入ればいい」
「却下だ!」
世界最強のヒーローは、世界一愛が重い元悪の将軍に、今日も振り回されている。
でも、この幸せな「這々の体」も、悪くない。
俺は心の中で小さく笑って、洗面所へと逃げ込んだ。




