第10話「氷解の誓い」
エイスケの手厚い看病と、彼が独自に調合した薬のおかげで、俺のヒートは驚くほど早く収束した。
数日ぶりのシャワーを浴び、彼が用意してくれた服――少しサイズが大きい彼のシャツとスウェット――に着替えてリビングへ向かう。
エイスケはキッチンでコーヒーを淹れていた。
悪の組織の幹部が、エプロンこそ着けていないが、手慣れた様子で朝食の準備をしている姿は、なんともシュールで、そして温かい光景だった。
「体調はどうだ?」
「ああ、おかげさまでな。……迷惑かけた」
「構わない。お前の寝顔を独占できたのは、役得だったしな」
彼はからかうように笑い、トーストとスクランブルエッグをテーブルに置いた。
向かい合って食事をする。
静かな時間。
でも、俺の中には迷いがあった。
「なあ、エイスケ。俺はこれから、どうすればいい」
彼はコーヒーカップを置き、真っすぐに俺を見た。
「組織に戻るか? それとも、ここで俺と暮らすか?」
「……戻らなきゃいけない。仲間が待ってる」
「だろうな。お前はそういう奴だ」
エイスケは寂しそうにするどころか、満足げにうなずいた。
「ネビュラは今回の件で混乱している。上層部は俺を裏切り者として指名手配した」
「えっ!? じゃあ、お前は……」
「追われる身だ。だが心配するな。俺を捕まえられるような虫けらは組織にはいない」
彼は強気に笑ったが、その瞳には決意の色があった。
「俺は、ネビュラを潰すつもりだ。腐った組織を解体し、新しい秩序を作る」
「一人でか?」
「いや。お前がいるだろ?」
エイスケはテーブル越しに手を伸ばし、俺の頬に触れた。
「カイ。お前はお前の場所で戦え。俺は俺のやり方で戦う。だが、目指す場所は同じだ」
「……ああ」
俺は彼の手を、自分の手で覆った。
「俺も、もう逃げない。オメガであることも、お前が番であることも、全部受け入れて強くなる」
「いい顔になったな」
エイスケが身を乗り出し俺の腰を引き寄せると、俺たちは自然と唇を重ねた。
深く、とろけるような口づけ。
フェロモンの暴走によるものではない、互いの意思による愛の確認。
離れる時、銀の糸が引いた。
「行け、レッド。そして、勝ってこい」
「おう。お前も死ぬなよ、エイスケ」
俺たちは互いに背を向け、それぞれの戦場へと歩き出した。
もう、迷いはない。
俺には、世界最強のヴィランが味方についているのだから。




