第二十三章 道を繋ぐ者
呪いが——道路全体に広がった。
黒い光が、舗装の表面を這い回る。
そして——
亀裂が、道路全体に走った。
「いやあああ……!」
エマが悲鳴を上げた。
道路が——崩壊していく。
三ヶ月間、命をかけて作った道路が。死地を越えて伸ばしてきた道路が。
すべてが——水泡に帰そうとしている。
「……くそ」
誠一は——膝をついた。
終わりか。
ここまでか。
しかし——
「諦めるな……!」
声が聞こえた。
リーナだった。
「誠一さん……! 諦めないでください……!」
「しかし——」
「方法が——あるはずです……!」
リーナは叫んだ。
「あなたは——道路を作る天才です……! 必ず——方法が……!」
誠一は——考えた。
方法。道路を——維持する方法。
呪いを——打ち消す方法。
「……」
思い出す。
日本で——二十五年間、道路を作ってきた。
雨の日も。雪の日も。灼熱の夏の日も。
道路を作り続けてきた。
なぜだ。
なぜ——道路を作り続けてきたのだ。
「……愛着だ」
誠一は呟いた。
「道路への——愛着」
道路を——愛していた。
自分が作った道路を。人々が歩く道路を。暮らしを支える道路を。
その愛着が——
誠一の体が、光り始めた。
「誠一さん……!」
リーナが驚いた声を上げた。
「何が——起きているんですか……!」
「分からん」
誠一は言った。
「しかし——やれることがある気がする」
土石鑑定の能力が——変質していた。
今まで見えなかったものが——見えるようになっていた。
呪いの——本質が。
「呪いは——道路への憎しみだ」
誠一は理解した。
「なら——愛で打ち消せる」
馬鹿げている。
しかし——
誠一は、道路に手を触れた。
「俺は——お前を愛している」
道路に向かって——語りかけた。
「二十五年間——お前を作ってきた。この世界でも——お前を作り続けてきた。俺の人生は——道路と共にある」
光が——強まった。
「だから——消えるな。俺と一緒に——生き続けろ」
誠一の生命力が——道路に流れ込んでいく。
呪いが——浄化されていく。
亀裂が——埋まっていく。
「誠一さん……!」
リーナが叫んだ。
「やめてください……! 死んでしまいます……!」
しかし——誠一は止まらなかった。
「俺は——道路のために生きてきた」
最後の力を振り絞って、言った。
「道路のために——死ねるなら。それは——本望だ」
視界が——暗くなっていく。
意識が——薄れていく。
最後に見えたのは——
黒く輝く、舗装道路だった。
美しい——道路だった。
——悪くない仕上がりだ。
それが——黒田誠一の、最後の思考だった。




