第二十一章 死地を越えて
「死地」を越える工事は——三ヶ月に及んだ。
その間、数えきれないほどの困難があった。魔物の襲撃、資材の不足、作業員の疲労——すべてが限界だった。
しかし——
「局長殿……!」
ある日、ガルドが叫んだ。
「見えました……!」
遠くに——城塞が見えた。
魔王城——魔族領域の象徴。
「着いた……」
誠一は呟いた。
「ついに——着いた」
死地を越えた。人間領域と魔族領域が——道で繋がろうとしている。
「あと少しだ」
誠一は言った。
「あと少しで——完成する」
しかし——最後の障害が、待ち受けていた。
「来ました……!」
夜、警報が鳴り響いた。
「荒野の使徒です……!」
誠一は外に飛び出した。
闇の中から、無数の人影が現れた。黒い衣を纏った集団——荒野の使徒だ。
そして——その先頭に立つ人物。
「黒田誠一——」
低い声が響いた。
長身の男だった。黒いローブを纏い、顔は覆面で隠されている。しかし——その目だけが、爛々と光っていた。
「お前が——無道のセルジオか」
誠一が問いかけた。
「そうだ」
男は——覆面を取った。
三十代くらいの、西洋人風の顔立ち。しかし——どこか、日本人のような雰囲気もあった。
「俺も——転生者だ」
誠一の予感が——的中した。
「なぜ——道を壊す」
「文明は——堕落だからだ」
セルジオは答えた。
「俺は元の世界で——見た。文明がどこへ行き着くかを。環境破壊、戦争、格差——すべてが、文明の結果だ」
「……」
「この世界を——同じ道に進ませたくない。だから——文明の象徴である道路を壊す」
誠一は——静かに反論した。
「お前の言い分は——分かる。文明には、確かに問題がある」
「なら——」
「しかし」
誠一は遮った。
「文明がなければ——人は死ぬ。飢え死に、凍え死に、病気で死ぬ。文明は——人を守るためにある」
「綺麗事だ」
「綺麗事ではない」
誠一は言った。
「俺は——二十五年間、道を作ってきた。道の上を、人々が歩くのを見てきた。物資が届き、経済が回り、暮らしが良くなるのを見てきた。それが——現実だ」
「現実か」
セルジオは笑った。
「なら——見せてやろう。現実を」
セルジオが——呪文を唱え始めた。
闇の魔力が——膨れ上がる。
「やめろ!」
ガルドが剣を振り上げ、セルジオに斬りかかった。しかし——
「遅い」
セルジオの手が光り、ガルドが弾き飛ばされた。
「道路を——壊す」
セルジオの魔力が——道路に向けて放たれた。




