第十九章 魔王の提案
九章 魔王の提案
意外な出来事が——起きた。
「局長殿」
リーナが、信じられないという顔で報告してきた。
「魔王軍から——密使が来ています」
「魔王軍?」
「はい。魔王陛下からの——親書を持って」
誠一は——目を見開いた。
魔王から——親書だと?
「……会おう」
密使は——意外にも、人間の姿をしていた。
「初めまして、黒田誠一殿」
三十代の、痩せた男だった。どこか疲れた表情をしている。
「私は——魔王軍の外交官、ルシアスと申します」
「魔王軍に——外交官がいるのか」
「おります。我々も——戦争だけをしているわけではありませんから」
ルシアスは、封書を取り出した。
「魔王陛下からの親書です。どうぞ——お読みください」
誠一は封を開け、中身を読んだ。
そこには——驚くべき提案が記されていた。
『黒田誠一殿
百年の戦争を——終わらせたい。
そのために——提案がある。
人間と魔族の領域を繋ぐ道を作れ。交易路があれば、戦争よりも利益がある。
魔王』
誠一は——しばらく黙っていた。
「これは——本気か」
「はい」
ルシアスは頷いた。
「魔王陛下は——戦争を終わらせたいと願っておられます。しかし、そのためには——両国に利益がある関係を築く必要があります」
「交易か」
「はい。人間の領域には、魔族が必要とするものがあります。食糧、工芸品、技術——。魔族の領域にも、人間が欲しがるものがあります。魔石、薬草、希少な金属——」
「しかし——交易をするには、道が必要だ」
「そうです」
ルシアスは言った。
「だからこそ——あなたに期待しているのです。道を作れる者に」
誠一は——アルヴィンに報告した。
「魔王からの——提案ですか」
アルヴィンは、複雑な表情をしていた。
「はい。どう思われますか」
「……正直に言えば——魅力的な提案です」
アルヴィンは窓の外を見つめた。
「百年間、戦争を続けてきました。多くの命が失われ、多くの資源が消費されました。それでも——決着はつかない」
「……」
「もし——平和が実現できるなら。交易によって、両国が繁栄できるなら——それは、素晴らしいことです」
「しかし——」
「しかし——」
アルヴィンは振り返った。
「これは——政治的に極めて危険な提案です。敵国と和平を結ぶなど、反対する者が大勢いる。兄上は——激怒するでしょう」
「それでも——」
誠一は言った。
「考える価値はあると思います」
「……そうですね」
アルヴィンは、深くため息をついた。
「時間をください。考えさせてください」




