第十七章 冬の戦い
冬が——近づいていた。
「局長殿」
アルヴィンからの使者が、緊急の報告を持ってきた。
「最前線で——大規模会戦が予定されています」
「大規模会戦?」
「はい。魔王軍が——冬の前に大攻勢をかけてくる可能性があります。それに対抗するため、我が軍も——」
「決戦か」
誠一は地図を見つめた。
街道は、百八十キロ地点まで舗装されていた。最前線まで残り百二十キロ。未舗装区間だ。
「補給は——大丈夫なのか」
「それが——問題なのです」
使者は言った。
「冬になると、未舗装区間は雪で閉ざされます。補給が——途絶える可能性があります」
「……くそ」
誠一は舌打ちした。
あと百二十キロ。それさえ舗装できれば——補給は確保できる。しかし、通常の工程では間に合わない。
「——やるしかないな」
誠一は決断した。
「突貫工事だ。冬が来る前に——できるだけ距離を延ばす」
突貫工事が——始まった。
昼夜を問わず、工事が続けられた。ゴーレムはフル稼働し、作業員たちは交代で休息を取りながら働き続けた。
「局長殿——無理です……!」
若い技術者が悲鳴を上げた。
「合材が——足りません……!」
「魔石の残滓を——追加調達しろ」
「どこからですか……!」
「どこからでもいい! 見つけろ!」
リーナが奔走し、各地から残滓をかき集めた。グラムはゴーレムの整備に追われ、ベルンは土魔法で路盤を急いで固めた。
「誠一さん——」
リーナが心配そうに言った。
「体を——壊しますよ」
「分かっている」
誠一は答えた。
「しかし——やるしかない。この戦いに負ければ——すべてが無駄になる」
雪が——降り始めた。
気温が下がり、合材が固まりにくくなる。作業効率は——急激に低下した。
「局長殿——」
エマが泣きそうな顔で言った。
「合材が——冷えてしまいます……」
「温めろ。火魔法で」
「やっています……! しかし、追いつきません……!」
誠一は——考え込んだ。
このままでは間に合わない。何か——別の方法が必要だ。
「……凍結防止だ」
「凍結防止?」
「合材が冷えないようにする。路盤に——火魔法を織り込む」
「そんなこと——可能なのですか」
「やってみなければ分からん」
誠一は、ベルンとエマを呼んだ。
「ベルン殿、エマ、二人の力を合わせてくれ」
「何をすればいい」
「路盤に——火の魔力を封じ込める。そうすれば、合材が冷えにくくなる」
二人は顔を見合わせた。
「やったことがないが——」
「やるしかない」
試行錯誤が続いた。
何度も失敗し、何度もやり直した。しかし——
「できた……!」
ついに、成功した。
火の魔力を封じ込めた路盤は、わずかに温かい。その上に敷かれた合材は——冷えにくくなった。
「これで——冬でも工事ができる」
誠一は拳を握りしめた。
「続けろ! 止まるな!」
会戦の三日前——
街道は、二百四十キロ地点まで延伸された。
最前線まで——残り六十キロ。未舗装区間だが、それでも以前よりは遥かにマシだ。
「補給物資を——送り出せ」
誠一の指示のもと、馬車隊が出発した。武器、食糧、医薬品——最前線が必要としているすべてを積んで。
三日後——
会戦が行われた。
結果は——人間側の勝利だった。
勝因は——圧倒的な補給能力だった。敵の三倍以上の物資が最前線に届き、兵士たちは十分な装備と食糧を持って戦うことができた。
「黒田誠一殿」
アルヴィンからの書状が届いた。
『勝利は——あなたのおかげだ。心から感謝する』
誠一は——静かに微笑んだ。
「まだ——終わりじゃない」
残り六十キロ。
全線開通まで——あと少しだ。




