第十六章 荒野の使徒
異変が——起き始めた。
各地で、道路の破壊が報告されるようになった。
「局長殿」
ガルドが険しい顔で報告してきた。
「第三工区の一部が——破壊されました」
「破壊?」
「はい。何者かが——魔法で穴を開けたようです」
誠一は現場に急行した。
舗装道路に——巨大な穴が開いていた。直径五メートル以上、深さは一メートル以上ある。通行は完全に不可能だ。
「誰が——こんなことを」
「分かりません。目撃者はいません」
誠一は周囲を見回した。土石鑑定を発動する。
【破壊痕跡 魔法種別:闇属性(推定) 術者レベル:高位 残留魔力:微弱】
闘属性——魔王軍の魔法だ。
「魔王軍の仕業か」
「おそらくは」
ガルドが言った。
「しかし——これだけではありません。各地で、似たような破壊が報告されています。しかも——」
「しかも?」
「工事関係者が——暗殺されています」
誠一の表情が——凍りついた。
「暗殺……?」
「はい。王都の技術者が二人、地方の監督官が三人——この一ヶ月で五人が殺されました」
「何だと……!」
誠一は拳を握りしめた。
「なぜ——そんなことを」
「分かりません。しかし——一つだけ共通点があります」
ガルドは言った。
「殺された者は全員——道路関係者です。そして——現場には、必ずこれが残されていました」
ガルドが、紙片を取り出した。
黒い文字で、こう書かれていた。
『道は堕落の象徴である。荒野に還れ。——荒野の使徒』
「荒野の使徒……?」
「何者かは分かりません。しかし——明らかに、道路整備を妨害しようとしています」
誠一は——紙片を睨みつけた。
「道は堕落の象徴——か」
誰だ。何者だ。なぜ——道路を敵視する。
「調査を強化しろ」
誠一は命じた。
「この『荒野の使徒』とやらを——見つけ出す」
調査が進むにつれて、『荒野の使徒』の正体が明らかになってきた。
「局長殿」
リーナが報告してきた。
「荒野の使徒について——情報が入りました」
「何が分かった」
「彼らは——秘密結社です。混沌の邪神を信奉しており、文明の発展を憎んでいます」
「文明の発展を——憎む?」
「はい。彼らの教義によれば——文明は堕落であり、人間は荒野に還るべきだと。道路は——堕落の象徴として、最も憎むべき存在だそうです」
誠一は——呆れた。
「馬鹿げている」
「しかし——彼らは本気です。これまでにも、各地で破壊活動を行ってきました。城壁、橋、水道——文明の象徴を壊し続けています」
「今度は——道路か」
「はい。そして——」
リーナの声が沈んだ。
「指導者がいるようです」
「指導者?」
「はい。『無道のセルジオ』と呼ばれる人物です。かつて——」
リーナは言葉を切った。
「かつて——何だ」
「かつて——この世界にも、転生者がいたという噂があります」
誠一は——目を見開いた。
「転生者……? 俺のような?」
「はい。そして——その転生者が、荒野の使徒を作ったと」
誠一は——深く息を吐いた。
同じ転生者が——敵にいる。
「……なるほど」
状況が——分かってきた。
自分だけではなかった。この世界には、他にも転生者がいた。そして——その転生者は、自分とは正反対の思想を持っていた。
文明を——否定する思想。
「面白くなってきたな」
誠一は呟いた。
「局長殿?」
「いや——何でもない」
誠一は立ち上がった。
「工事を——続けよう。妨害されても、破壊されても——作り続ける。それが俺たちにできることだ」




