第十五章 隣国との交渉
転機は——突然訪れた。
「局長殿」
リーナが、深刻な表情で報告してきた。
「隣国から——使者が来ています」
「隣国?」
「メルカトリア共和国です」
東方の商業国家。この大陸で最も経済力のある国の一つだ。
「何の用だ」
「道路技術について——話し合いたいと」
誠一は——面会を承諾した。
使者は、三十代の痩せた男だった。商人風の服装をしているが、目には知性の光が宿っている。
「初めまして、黒田誠一殿」
「ああ。何の用だ」
「率直に申し上げます」
使者は言った。
「我が国は——あなたの道路技術を欲しています」
「……」
「グラントヴィア王国の舗装道路は、大陸中で話題になっています。我が国の商人たちも、その恩恵を受けたいと願っています」
誠一は腕を組んだ。
「技術を——売れと言うのか」
「いいえ」
使者は首を振った。
「共同事業を——提案します」
「共同事業?」
「はい。グラントヴィア王国とメルカトリア共和国を結ぶ街道を——共同で整備する。両国の技術者が協力し、両国の資金を投入する」
誠一は——考え込んだ。
悪い提案ではない。隣国との街道が整備されれば、交易が活発になる。両国にとって利益がある。
しかし——
「俺は——技術者だ。外交のことは分からん」
「分かっています。だからこそ——あなたに会いに来たのです」
使者は言った。
「政治家ではなく、技術者と話したかった。道路を作る者として——どう思いますか」
誠一は——しばらく黙っていた。
やがて——
「道は——人を繋ぐ」
静かに言った。
「国境で終わる道は——本当の道じゃない」
使者の目が——輝いた。
「では——」
「しかし」
誠一は遮った。
「俺一人では決められない。第二王子殿下——いや、今は王太子殿下と相談する必要がある」
「もちろんです」
使者は頷いた。
「良い返事を——お待ちしています」
アルヴィンとの会談が行われた。
彼は既に王太子となっており、実質的な国政の実権を握っていた。国王は高齢で、政務の大半をアルヴィンに任せていた。
「メルカトリアか」
アルヴィンは地図を見つめた。
「共同事業——か」
「どう思われますか」
「悪くない。むしろ——良い提案だ」
アルヴィンは頷いた。
「メルカトリアとの交易が活発になれば、我が国の経済は潤う。戦費の調達も楽になる」
「では——」
「しかし——」
アルヴィンの表情が曇った。
「兄上が——反対するだろう」
第一王子ゲオルク。彼は依然として勢力を保っており、アルヴィンの政策にことごとく反対していた。
「隣国との共同事業など、国威を損なうと言うだろう。我が国の技術を——外国に売り渡すのかと」
「……」
「政治的な駆け引きが必要だ。時間がかかる」
誠一は頷いた。
「分かりました。俺にできることがあれば——」
「ある」
アルヴィンは言った。
「道路を——作り続けてくれ。結果が——すべてを変える」




