第十四章 弟子たちの成長
時間が流れた。
街道工事は第五工区、第六工区と進み、王都からの距離は百五十キロを超えた。全線の半分だ。
王都改造計画も順調に進み、主要な通りの大部分が舗装された。雨季でも泥にならない道路は、市民の暮らしを劇的に改善した。
「局長殿——」
ある日、若い土魔法使いが誠一に声をかけてきた。
「何だ」
「私も——レーキを握りたいのですが」
誠一は目を見開いた。
レーキ——合材を均すための道具。日本では機械化されていたが、この世界では依然として手作業が多い。熟練の技術が必要であり、誠一自身が担当していた。
「お前が——レーキを?」
「はい。局長殿の技術を——学びたいのです」
誠一は——嬉しかった。
「いいだろう。教えてやる」
技術の伝承が——始まった。
誠一は、若い技術者たちにレーキの握り方、力の入れ方、合材の見極め方を教えた。最初は不格好だったが、徐々に上達していった。
「そうだ、その調子だ」
「ありがとうございます、局長殿……!」
レーキだけではない。ベルンは土魔法の若手を育て、グラムはゴーレムの整備技術を伝授し、エマは水魔法の後継者を育成した。
チーム全体が——成長していた。
「誠一さん」
ある夜、リーナが言った。
「弟子たちが——立派になりましたね」
「ああ」
誠一は微笑んだ。
「俺がいなくなっても——道路は作り続けられる」
「そんなこと言わないでください」
「いや——大事なことだ」
誠一は真剣な顔で言った。
「技術は——人から人へ伝わるものだ。俺一人で抱え込んでいたら、俺が死んだ時に終わる。だから——」
「伝承が必要」
「そうだ」
誠一は空を見上げた。
「俺は——この世界に舗装技術を残したい。俺がいなくなっても、道路が作り続けられる世界を」
リーナは——黙って誠一の手を握った。
技術伝承のために、マニュアルが作成された。
誠一は、これまでの工事で得られた知見を文書にまとめた。路盤の整備方法、合材の配合、転圧の手順、品質管理の基準——すべてを詳細に記録した。
「これが——『舗装技術指南書』です」
リーナが、製本された書類を持ってきた。
「これを読めば——誰でも舗装道路を作れます」
「完璧ではないがな」
誠一は謙遜した。
「経験がなければ、マニュアルだけでは難しい。しかし——」
「ないよりは、遥かにましです」
「そうだな」
『舗装技術指南書』は——王立道路局の標準テキストとなった。新人技術者は、まずこの指南書を読んで基礎を学び、その後、現場で実践を積む。
そのシステムが——確立された。
「局長殿」
ある日、若い技術者が嬉しそうに報告してきた。
「私——レーキ検定に合格しました!」
「そうか。よくやった」
誠一が導入した「レーキ検定」——レーキの技術を評価する試験だ。合格すれば、一人前の舗装技術者として認められる。
「これからも——精進します!」
「ああ。頼むぞ」
若い技術者が去っていく後ろ姿を見ながら、誠一は満足げに微笑んだ。
世代が——育っている。
未来が——見えてきた。




