第十三章 王都改造計画
第四工区の工事が進む中、王都では政治が動き始めていた。
「父上——国王陛下が、道路整備の国家事業化を検討されています」
アルヴィンが、興奮した様子で報告してきた。
「本当か」
「はい。舗装道路の効果は——もはや無視できません。商人たちからの陳情が、陛下の耳に届いたのです」
商人ギルドが動いたのだ。舗装道路の恩恵を最も受けているのは、彼らだ。輸送コストの削減、馬車の損傷減少、移動時間の短縮——すべてが商売に直結している。
「しかし——」
アルヴィンの表情が曇った。
「兄上が——強く反対しています。『道路に金をかけるくらいなら、軍事に投資すべきだ』と」
「予想通りだな」
「父上は——迷っておられます。兄上と私の、どちらの主張を採用すべきか」
誠一は考え込んだ。
「……殿下。一つ提案がある」
「何だ」
「王都の道路を——整備してはどうか」
アルヴィンが目を見開いた。
「王都の道路?」
「ああ。今、俺たちは街道を整備している。しかし、王都の中は——泥まみれのままだ」
それは事実だった。王都の道路は、依然として土のままだ。雨季には膝まで泥に沈み、馬車は頻繁に立ち往生する。
「王都の道路を舗装すれば——国王陛下も、貴族たちも、市民も——全員が効果を実感できる。そうなれば——」
「反対派を黙らせられる」
アルヴィンは理解した。
「なるほど。百聞は一見にしかず——か」
「そうだ。街道整備と並行して、王都改造計画を進めよう」
王都改造計画が——始まった。
誠一は、王都の道路地図を作成し、優先的に整備すべき区間を選定した。
「まずは王城前の大通りです」
リーナが説明した。
「ここは——王都の顔です。舗装されれば、国王陛下をはじめ、すべての人が効果を実感できます」
「次に商人街。物流の要所です」
「そして住宅街。市民の暮らしが改善されれば、支持が広がります」
計画は——壮大だった。しかし、誠一たちには経験が蓄積されていた。
街道工事で培った技術とノウハウを活用し、王都の道路整備が進められた。
半年後——
王城前の大通りが、舗装された。
黒々とした道路が、白い王城へと続いている。雨が降っても泥にはならず、馬車がスムーズに通行できる。
「……素晴らしい」
国王自らが、舗装された道路を視察した。
「これが——舗装道路か」
「はい、陛下」
アルヴィンが答えた。
「黒田誠一殿の技術によるものです」
国王は——長い間、道路を見つめていた。
「……良い」
やがて、王が言った。
「道路整備を——国家事業とする」
アルヴィンの目が、輝いた。
「ありがとうございます、父上……!」
国家事業化が決定した。
誠一は、新設される「王立道路局」の初代局長に任命された。
「局長——か」
宿屋の一室で、誠一は呟いた。
「似合わないな」
「そんなことありません」
リーナが微笑んだ。
「あなたにしかできない仕事です」
「俺は技術者だ。役人じゃない」
「だからこそ——あなたが必要なんです。技術を分かる人間が、組織を率いなければ——」
「……そうだな」
誠一は——覚悟を決めた。
「やるしかないか」
王立道路局が発足した。
職員は最初、わずか二十人だった。しかし、徐々に人員が増え、予算が確保され、組織が拡大していった。
誠一は——変わらなかった。
毎朝、現場に出向いた。局長になっても、自ら工事を監督した。作業員たちと一緒に汗を流し、問題が起これば自ら解決にあたった。
「局長殿——もっと、部下に任せてもいいのでは」
リーナが心配そうに言った。
「いや」
誠一は首を振った。
「俺が現場を離れたら——道路は作れない。技術は——現場にある」
その姿勢が——部下たちの信頼を勝ち取った。
「局長殿は——すごい」
「あの人は——本物だ」
「俺たちも——頑張らなければ」
王立道路局は——着実に成長していった。




