第十二章 襲撃と覚悟
その夜は——満月だった。
二つの月が、夜空に並んで輝いている。銀色の光が、工事現場を照らしていた。
誠一は、一人で現場を見回っていた。夜間警備はガルドの担当だが、誠一自身も眠れずにいた。妙な胸騒ぎがする。
「……何だ、これは」
空気が——張り詰めている。いつもと違う。
その瞬間——
影が、動いた。
「!」
本能的に身をかわす。何かが、頬をかすめた。ナイフだ。投げナイフが、一瞬前まで誠一の首があった場所を通過した。
「来たか……!」
叫びながら後退する。しかし、相手は追ってこなかった。
暗闘から、人影が現れた。全身を黒い衣で覆った、痩せた体躯。手には短剣を握っている。
「黒田誠一——」
低い声。男か女か分からない。
「魔王軍の——刺客か」
「答える必要はない」
相手が動いた。恐ろしい速さだ。
「ガルドーーー!」
叫ぶ。しかし、声は届くのか。
刺客の短剣が、誠一に迫る。避けられない。
——ここまでか。
しかし——
「させるか!」
金属音が響いた。ガルドの剣が、刺客の短剣を弾いていた。
「遅れた——!」
ガルドが誠一をかばうように立ちふさがる。護衛兵たちも駆けつけてきた。
「刺客——一人か」
「分からん。警戒しろ」
刺客は——動かなかった。囲まれていることを、理解しているようだ。
「……撤退する」
低い声で呟くと、刺客は煙幕を放った。
「逃がすな!」
ガルドが叫ぶ。しかし、煙が晴れた時——刺客の姿は消えていた。
「くそ……逃げられた」
ガルドが悔しそうに言った。
誠一は——その場に座り込んだ。足が震えている。
「……死ぬかと思った」
「大丈夫ですか」
リーナが駆け寄ってきた。青い顔をしている。
「ああ。ガルドのおかげで——助かった」
「良かった……!」
リーナが誠一を抱きしめた。
誠一は——しばらく、彼女の温もりに身を委ねていた。
翌朝——
チームの全員が、誠一の前に集まっていた。
「昨夜——刺客に襲われた」
誠一は、ありのままを伝えた。
「魔王軍が——俺を狙っている。道路を作る者を排除しようとしている」
沈黙が流れた。
「……どうするんですか」
エマが、怯えた声で尋ねた。
「工事を——続けるのですか」
「ああ」
誠一は即答した。
「続ける」
「でも——危険です!」
「分かっている」
誠一は全員を見回した。
「俺は——道路を作ることしかできない。剣も魔法も使えない。戦えない男だ」
「……」
「だから——お前たちの力を借りたい」
誠一は言った。
「俺を——守ってくれ。俺が道路を作れるように。そうすれば——俺は、この世界を変えてみせる」
沈黙が続いた。
やがて——ガルドが一歩前に出た。
「俺は——お前を守る」
「ガルド……」
「お前の技術は——本物だ。この世界を変える力がある。俺は——その技術を守りたい」
ベルンも一歩前に出た。
「わしも同じじゃ。お前さんの道路は——この世界に必要なものじゃ」
グラムが鼻を鳴らした。
「ふん。せっかく作ったゴーレムを無駄にされてたまるか」
エマが——泣きながら頷いた。
「私も……お手伝いします……!」
リーナが、誠一の隣に立った。
「私は——ずっと、あなたと一緒にいます」
誠一は——目頭が熱くなるのを感じた。
「……ありがとう」
声が震える。
「ありがとう——みんな」
工事は——続けられることになった。
その夜——
リーナが、誠一に告白した。
「誠一さん」
「何だ」
「私——あなたのことが、好きです」
誠一は——驚いた。
いや、驚くべきではなかったかもしれない。二人の距離は、いつの間にか近づいていた。しかし——
「俺は——」
「分かっています」
リーナは微笑んだ。
「あなたは——道路のことしか考えていない」
「……すまない」
「謝らないでください。私は——それでいいんです」
リーナは言った。
「あなたが道路を作り続ける限り——私は、あなたの隣にいます。それだけで——幸せです」
誠一は——言葉を失った。
やがて——
「俺も」
静かに言った。
「お前のことが——好きだ」
リーナの目に、涙が光った。
「……ありがとう」
二人は——静かに寄り添った。
星空の下、舗装された道路が、月明かりに照らされて黒く輝いていた。




