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 令司が目を開けると、其処は病院のベッドの上だった。


 頭には包帯がグルグルと巻かれており、怪我のひどさを物語っている。


「痛た…」


 令司は身体を起こすと、頭を押さえながら呻いた。まだ、衝撃が残っているかの様である。目の前がチカチカする。


(足元が重い…)


 そう思った令司は、不快感の根源である足元に目を見やった。


「んが…」


 ベッドの下部では、叔父が自分の足に覆い被さる様にして眠っていた。大きく口を開けて鼾を掻いている様は、正に『阿呆面』という言葉がピッタリとくる。


「ププッ…」


 普段では余りお目にかかれない、叔父の無警戒な醜態を見て、思わず吹き出す令司。


「ん…」


 令司が笑った所為で身体を揺らされた恵一は、ゆっくりと目を開けた。窓から射し込む光が目に染みる。


「完全に寝ちまったか…」


 恵一はそう呟くと、「ん~」と呻き声を上げながら、大きな伸びをした。


「お?何だよ、気が付いていたんなら声くらい掛けろ。人の寝顔をジロジロ見やがって、気持ちの悪い奴だな」


 令司が意識を取り戻すまで、恵一はずっと付き添っていた様だ。相変わらずの憎まれ口を叩くが、可愛い甥の一大事である。叔父として心配しない訳がなかった。


「勘弁してくださいよ、叔父さん。あんな阿呆面見せ付けられたら、誰だって凝視しちまいます」


 令司は苦笑しながらも、叔父の心遣いが嬉しかった。どんなに突き放しても、最終的には面倒を見ないと気が済まない恵一は、素直ではない所もあるが、令司的にとって尊敬出来る人物である。


「お前を襲ってきた奴が死んじまったお陰で、エラく面倒臭い事になってるぞ?」


「俺は被害者でしょう?」


 怪我までさせられた上に犯人と疑われては、堪った物ではない。令司は焦った表情を見せると、縋り付く思いで恵一に訴え掛ける。


「ま、至近距離からライフルをブッ放す奴もいないだろうよ」


「ライフル?じゃあ、狙撃されたんですか?俺が狙われてる?」


 確かに令司は「パシュ」という乾いた音を聞いている。幾らサイレンサーを付けたとしても、全ての銃声を吸収する事は出来ない。実際に聞いた事はないが、あの乾いた音は前に映画で聞いた銃声に似ていた。


 奇跡の生還から一変に窮地に立たされた令司は、恥ずかしげもなく取り乱す。まさか自分の命が狙われるとは思っても見なかったのだろう。


「まぁ、落ち着けって。耳ん中を見事に打ち抜いてやがるから、恐らく違うだろうよ。ありゃ、プロの仕事だ」


「ふぃ~、助かった」


 恵一の一言により、平常心を取り戻した令司。安堵の表情を見せ、「はぁ」と大きな溜息を吐いた。


「だがな、逆に殺し屋の仲間だと思われてる」


「冗談じゃない!」


 恵一の言葉で、またもや心を掻き乱された令司は、心のままに叫び声を上げる。


 その叫び声に驚き、恵一は両耳を指で塞いだ。


「んな事、俺は思っちゃねーよ!朝っぱらからうるせーな!全く…。で、他に何か気付かなかったのかよ?」


 令司は頭を抱えて、恵一の問いに答えようとする。しかし、音の事が頭から離れず、他に何も思い出せない。


「確かに銃声っぽい音がしました。サイレンサー付きの」


「ま、お前の耳が幾ら良かったとしても、遠距離から狙撃したら銃声は聞こえない筈だ。つー事は、相手かお前がつけられていたっぽいな」


 そう言うと、恵一はすっくと立ち上がった。そして、令司に向けて指を差す。


「相手の風貌とかは、もう依頼人から聞いている。俺も警察もな。後はお前を取り調べるだけなんだと。今の内に言い訳を考えとけよ?」


 疑われているからには、それなりの弁明をしなければならない。更に相手が警察とくれば、面倒な事この上ないだろう。


「言い訳って…、俺、何もしてないのに…」


 令司は俯くと、思わず弱音を吐いた。先の事を考えると、頭が重い。


 病室からスタスタと出ていく恵一を、令司は恨めしそう横目で見つめる事しか出来なかった。


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