<不死の山>
日本が海の底へと姿を消してから1年。かつての騒動はいったいどこへ行ったのか、世界は日本が沈むことが分かる前と同じように動いていた。
しかしそれは世界という範囲で見ればであって日本国内という場所に限ればまだそこは沈没する日本からの避難場所に過ぎなかった。
日本国民の移住を最優先としていたメガフロートの住居は全てマンションであり、このたび新たに増設されたメガフロートにようやく一軒家を建てるだけの余裕が生まれたのである。
とはいっても未だに日本国籍の取得を求めるかつて日本人であった外国人を日本へ受け入れるだけの余裕まではなく、日本の復興はまだまだこれからだ。
だがそんなとき、日本のあった地域に大きな変化が発生した。
日本最高峰であった富士山直上の海面の色が変化し、海底火山として注目されることとなった富士山が大規模な噴火を起こすのに時間はかからなかった。
かつて日本が陸上に存在した時代は甚大な被害を出すかもしれないと懸念されていた富士山の噴火であったが、それから時間をかけて海面へと姿を現した富士山は国土を失った日本国民にとって希望の光となったのである。
そして火山活動の開始から5年後。沈む前の日本にあった電波塔と同じ高さの最高標高634mの山を持つ巨大な火山島となった新たなる島に一隻の船が向かっていた。
その船に乗るのは日本の新たなる地となる島を測量するためにやってきた国土地理院の職員たちであり、船はようやく上陸地点へと到着する。
「見ろ!岸だ!」
日本沈没後、初めて踏みしめることとなる日本の地。その興奮から職員はそう叫んだ。
すでに火山活動は終息し島には様々な動植物が栄え、日本の陸地として測量されたこの島は国際的にも日本の領土として承認され、その後に行われた新しい富士山の登頂は全世界へと報道をされることとなる。
こうして不死鳥ならぬ不死の山とも称されることとなった新しい富士山の再出現と登頂は日本だけでなく全世界にとって日本人が目指す日本再生の象徴となったのであった。