<海上国家日本>
日本浮島化計画の発動から33年。
かつては陸にあった日本も住宅や工場、歴史的建造物までもがメガフロート上へと移築されてすっからかんとなり、希望する国民全員をメガフロートへと移住を完了させてから3年が経過した日本は独自の文化も歴史も失うことなく今に至るまで先進国としての地位を維持した海上に浮かぶメガフロート国家となっていた。
またメガフロート上には湖や森林、草原といった自然が再現され、なかには10分の1の高さで再現された富士山があるメガフロートもあり多くの日本人がメガフロートという都市の中で何不自由なく暮らすことができるようになっていたのである。
すでに世界では十数年前に日本に対する取り扱いも決定されメガフロートを日本の固有の領土とすることが国際的に認められたほか、もし日本列島の沈没後にかつての排他的経済水域内に陸地が出現した際は日本の領土とすることも決められ、日本の沈没に関する対策はすでに世界レベルで完成している。
そして今では地球温暖化によって沈みゆく南太平洋の島国もメガフロート化することが検討され日本もその計画の中心的な協力国としての道を歩むこととなっていたが、そのさなか日本列島最後の日がついにやってくることとなる。
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日本列島の最期を見届けることとなった総理大臣、それは日本をこの地球に残すため尽力した総理大臣の子供へと移り変わっていた。
かつて日本の運命を決断した父親は認知症となり現在はもう当時のことなど分からなくなっているが、それまでは本当に日本は沈むのか自分の判断は間違っていたのではないかと毎日のように苦悩し後悔していた。
しかしその子供である自分が総理大臣のときに日本は実際に沈み始め日本の沈没を見届けることになったのは偶然か、それとも運命なのか・・・そう考えながら日本の運命を見届けることとなった総理大臣は次々と入ってくる日本の沈没に関する報告を聞いていく。
「現在、北海道から東北、関東にかけての地域が沈没を開始。現在各地で地震も発生中です」
「対馬と尖閣諸島周辺海域の防衛用メガフロートから航空自衛隊の航空機が離陸、海上自衛隊及び海上保安庁の職員の退避が完了しました」
日本列島の地下で発生した崩落は地表にある様々なものを飲み込んでいった。
自然あふれる山河や森林、鉄筋など資源の再利用のために解体された建物のがれきの山、メガフロートを緑化するために土を削られた山などそれらすべてが沈んでいく。
またそれだけでなく日本の沈没範囲は想定を上回り、不法に占拠されている竹島や北方領土はおろか日本のメガフロート移転後も尖閣諸島の周辺海域で圧力をかけ続けてきていた中国海軍の艦船や多数の中国漁船も大量の海水とともに地の果てへと飲み込まれていった。
こうして崩落は1日以上をかけて東から西へと日本を横断するように断続的に続き、かつて日本海と呼ばれていた海は太平洋の一部となり日本という地は一つ残らず海の底へと姿を消したのである。
この出来事はムー大陸やアトランティスなどといった伝説などとは違い人類に確かな歴史として深く刻まれることとなり、この日を始まりとして日本は完全に海に浮かぶ海上国家、メガフロートのみの国家としての道を歩みだすこととなったのであった。