第1話 夢を目指す場所
「はぁ」 ため息が、重たくスタジオの空気に沈み込んでいく。気持ちを切り替えなければならないと分かっている。――それでも、心のスイッチはどこかに引っかかり、動かない。
~1か月前~
「お前には、オーディション番組「Starlight Trail」を受けてもらう」突然、社長から告げられたその言葉。
社長が言うには、俺には足りないものがありそれを理解し手に入れないとトップアイドルにはなれないのだという。
「わかった」了承するしかなかったが、この1か月間ずっと人と関わらないといけないことが何をしていても憂鬱だった。
~現在~
璃桜と書かれた名札をみえやすいように調整しながら、横目で見た先輩たちは、肩を寄せ合いながら楽しそうに笑っている。彼らには緊張や恐れはないのだろうかと疑問に思う。
「最後の参加者たちが入りまーす」 スタッフの声がスタジオに響く。カメラが回り始めた音が耳に届き、空気が鋭く変わったのを感じる。この経験で本当に必要なものが手に入るのか?あの人たちのような立派なアイドルになるために――。
「はいってください!」 ライトが一斉に光り、視界が真っ白に染められ、一瞬頭の中も真っ白になった。目を細め、ぼんやりと前を見つめる。浮かび上がる無数の人影――。 「果たして、自分よりできる人間がここにいるのだろうか。」 そんな傲慢とも取れる思いが、ふっと頭をよぎる。
それでも、社長たちが言う足りないものが手に入るのならば確かめてみせる。俺が目指すのはみんなが見るだけで希望を抱けるトップアイドルだ。
白くまばゆいスタジオを一歩ずつ進みながら、俺はふと思った。肩を組む仲間――。昔あこがれたそんなものが俺にも現れるのだろうか。その答えに少しだけ期待しながら、光の中を進む。