コマドリの家
中の島。
それは、第四地区の河の中洲にある王都最大の歓楽街である。
「そのような場所にフロルを連れて行くなど絶対に許さん!」
とユリウスは叫んだ。
「ユリウス様・・。マクス様のお母様がいらっしゃる場所を『そのような場所』呼ばわりは失礼ですよ。」
とフロルは声をひそめて言った。
「私、行って来ます。掃除が途中になってしまって申し訳ありませんが。」
「ユーリはどうする?来る?」
マクシミリアンの言葉にものすごくユリウスが葛藤しているのが見てとれる。
潔癖な性格のユリウスは『そのような場所』に足を踏み入れるのは嫌でたまらないのだと思う。だから、ユリウスが
「わかった。行く。」
と言った時フロルはものすごくびっくりした。
でもって、30分後。
フロルとユリウスとマクシミリアンは中の島にいた。
一応、巡回名目なのでユリウスとマクシミリアンの部下も一緒である。しかし、第一隊と第五隊全員が集合すると大変な人数である。なので各隊部下は二人ずつにしたのだが、それでも総勢七人だ。集団で練り歩いているとまあまあ目立った。
特にユリウスとマクシミリアンは、すれ違った女性が振り返って二度見するイケメンだ。次々と湧いてくるお姉様方を、振り払いながら歩くのに大層難儀していた。
「フロル、私の側を絶対離れるな。王都でも特別治安の悪い地区だ。変な場所に迷い込んだら逃げられなくなるぞ。」
とユリウスが言う。
「そんな危ない場所なんですか?」
「表島はまだマシだけどな。二つある中洲の北側の方は裏島と呼ばれていて本当に治安が悪い。闘技場とか色・・子宿とかあって、より闇が深いというか・・。マクス!目的地はまだか?どこまで行くんだ⁉︎」
「んー、裏島まで。」
「・・・・。」
マクシミリアンは慣れているのか、迷路のような道でも迷う事なく突き進んで行っている。やがて中洲の端に着くとボロ・・いや趣のある吊り橋がもう一つの中洲にかかっていた。
マクシミリアンはひょいひょいと渡っていくが、フロルを含む六人は渡るのにかなり躊躇した。その先が王都屈指の魔窟だから、というのもあるけれど。渡った先は古い建物が多く道も汚くアングラ感満載な場所だった。マクシミリアンはその先を更に北に進んで行く。
そして中洲最北の場所に、小綺麗な御屋敷が建っていた。庭は狭いが小さな畑になっていてスプラウトがポツポツと芽生えている。門の側にあるアーモンドの木は花が三分咲きだった。
門の側には『コマドリの家』と書かれた表札がかかっていた。
「『コマドリの家』ですか?」
とフロルは聞いた。
「外国の伝承童話からとってあるんだ。『誰がコマドリ殺したの?』ってね。犯人は雀なのだけど、他の生き物達も見ていて皆コマドリを見殺しにしたんだ。」
「・・・・。」
「でもね。最後には『可哀想なコマドリのため皆が咽び泣く』んだよ。ここは、そういう場所なんだ。」
「噂で聞いた事がある。ここは『死を待つ者の館』か?」
とユリウスが聞いた。悲しそうな顔でマクシミリアンはうなずいた。
「『死を待つ者の館』とは?」
フロルはユリウスに質問した
「中洲の先端にあるという・・つまり・・死病に侵された人が・・。」
「致死性の性病とかに侵された娼婦さん達が最後の時間を過ごす場所だよ。つまり終末期医療病院だ。」
と言ってマクシミリアンは玄関ドアを開けた。
その途端
「うぎゃあああぁあーー!」
という野太い悲鳴と
「やかましいわーー!男がぴーちくぱーちく叫ぶなーっ!」
という更なる大声が聞こえて来た。
「・・まあ、病院だから普通に怪我してる人も来るんだけどね。」
びびってユリウスの後ろに隠れてしまったフロルにマクシミリアンが笑いかける。
マクシミリアンは廊下をずんずん進んで行った。
「痛え!痛えよー。痛み止めを使ってくれよ!」
「何を言うか、このバカたれが!この病院にある痛み止めは全て、真面目に懸命に生きて来た患者達のものだ。酔っ払ってケンカしたアホの傷口を縫うのに使う痛み止めはない!おまえなんかの為に糸と針を使うのも煮沸する燃料が勿体ないくらいだ!」
鬼のような発言をしているのは小鳥のように美しい声をした女性である。
マクシミリアンは診察室をひょいとのぞいた。
「こんにちは、母上。元気そうだね。」
「まあ!マクスじゃないの⁉︎」
般若のような顔をしていた美女が女神のような笑顔を見せた。
「ああ、本当に久しぶり。顔をよく見せて。ふふ、お仕事大変なのね。可愛い顔にあざなんか作って。」
そのあざを作った犯人はリーリアである。
「まあ、頭にたんこぶもできている。可哀想、痛かったわね。」
そちらの犯人は父親である。
「久しぶりって、十日前にも会ったじゃないか?」
「そうよ。私の可愛い坊やと十日も会えずにいたのよ。今日はお友達と一緒に来てくれたの?すぐにお茶を淹れるわ。待っててね。ゆっくりしていってちょうだいね。」
「先生ーー!傷縫ってくれよ。死んじまうよー!」
とベッドの上で血まみれになっている男が叫んだ。もう一つのベッドにはケンカの相手だろうか?やはり血まみれの男が白目を剥いて寝っ転がっている。
「やっかましいわ!十日ぶりの親子の対面を邪魔する下郎に、生きて呼吸し酸素を無駄に消費する資格はない。そこで死ね!」
マクシミリアンの母親が振り返って患者を怒鳴りつけた。
フロルはつぶやいた。
「勇ましいお母様ですね。」
「おまえの友達と同じ種属に見えるぞ。」
とユリウスが言う。フロルもそう思った。




